なぜ今回はメルボルンだったんですかと
何人かのかたからたずねられた。
旅行を決めたのは3月のことなので
(ずいぶんはやくに決めたもんだ)、
そのときのことをあまり覚えていないんだけれど
同行者たちから
「ほんとうにヨーロッパでなくてもいいの?」
と何度も確認されたっけ。
ぼくがヨーロッパの街を目的地に選ぶ理由は
それぞれ街のもつ歴史や文化の背景に興味があり、
そのうえに成り立つ食文化が気になっているからである。
自炊という方法を通してそれを体験してみたい。
理解するところまで行くかどうかわからないけれど、
市場に行き食材を買って調理をして食べるというのは、
ぼくにとってはかなり手っ取り早い「理解への道」だ。
となるとオーストラリアやアメリカのようなところだと、
食材は豊富だろうけれど、
ちょっと物足りないんじゃないか。
それはたしかにそうだろうと思う。
メルボルンは友人が住んでいたことがあり、
laid-backな雰囲気がとてもいいんだよ、と話していた。
laid-backというのは、【リラックスした、くつろいだ、
のんびりした、ゆったりした雰囲気】であり、
【おおらかな、こだわらない、気軽な、こだわりのない】性格、
というふうに辞書に出ている。
そういう場所は嫌いじゃない。
「でもねえ、武井さんが東京にいるときのように
オシャレをしたいと思っても、
そういうオシャレを鼻で笑う雰囲気があるというか、
なに気取っちゃんの〜、っていう目で見られるかもよ?」
とも言われた。
ほとんどの人が「ジムからそのまま帰ってきちゃったみたい」で、
「これから走りに行くの?」というようなスタイルであると。
たしかにぼくはコムデギャルソンを好んで着ているけれど、
最新のファッションを着たいというよりも、
流行に左右されないので、
古いものを着続け、組み合わせても大丈夫で、
それなりにオシャレに見えるところが気に入っているからだ。
15年以上、ものによっては20年以上経つ服をいまも着ているから、
いわゆるファッション・ヴィクティムではないと思っている。
ちなみにその友人はビジネスマンで、
スーツや靴にはきちんと金をかけているが、
カジュアルな服は肌着も含めて
3セットくらいしか持っていないという人である。
洗濯だけはマメにしているが、
Tシャツは色あせて首が広がっていて、
パジャマとしては着心地がよさそう、というような服を着ている。
足もとは基本はスニーカーで、
夏は雪駄を履いている。
長期転勤中、そのままここに
住んでしまおうかとすら考えたというから、
まさしくメルボルン的かもしれない。
ひとりで始めた自炊の旅だが、
ひとり増えふたり増え、いちど3人ふえて4人になり、
いまはぼくを入れて3人というところに落ち着いている。
武井が行きたいところでいいよと言ってはくれるけれど
みんなの都合を考えると年に一度のこの旅行は
年末に計画するのがいちばんいいので、
好きという理由だけでヨーロッパを選ぶと
どうしても冬になる。
これがスキーが好きであるとかならまだいいが、
基本的に「なにもしない」ので、
なるべくあたたかいほうがラクである。
これまでパレルモだとかリスボン、
あるいはサンセバスティアンなどを目的地にしたのは
厚いコートを着なくても過ごせる場所だというのも大きい。
さてメルボルンは南半球なので、
12月は日本の6月くらい。
日本の冬至はあちらの夏至、
まさしく夏まっさかり。
そういう場所に行くのは初めてだったが、
夏だったら夏の野菜がおいしいはずだし、
肉は足の早さだけ気にすれば大丈夫。
魚介はちょっと期待できないかな。
でもなにしろ移民の国だから、
各国由来のいろんな乾物などもあるはずだし、
イタリアやギリシャの移民が多いから
ハムや総菜なんかもおいしいはずだ。
チーズはあまり聞かないけれど
ワインは、おおきな産地である。
地ビールもおいしいものが多いというし、
食材でひどく困ることはないだろう。
はたしてどうだったかというと、
食材ではなにも困ることなく、
肉に関しては天国。
ブラックアンガスも、ポークもチキンもうまかったです。
そして服のことはほとんど考えず、
見事にリラックスな旅ができた。
ふだんぜったいに組み合わせないような服で過ごした。
(ジュンヤのTシャツなのに、
アンダーアーマーのジムショーツを履き、
裸足でサンダルをつっかけるというような。)
誰もなにも気にしないという空気なので、
こちらもついついそうなってしまうのである。
ヨーロッパじゃこうはいかない。
鎧のように服を着ている。
それはそれでぼくにとっては楽しいので、
どちらがいいということじゃなく、
「郷に入れば」というやつですね。
さて、前置きが長くなりましたが、
メルボルン博物館でみつけた、謎のタペストリー。
これがなんだったのかさっぱりわからなかったんだけれど、
どうやら「Reg Mombassa」というアーティストの作品らしい。
Reg Mombassaは活動名で、
Christopher "Chris" O'Dohertyという名前らしい。
1951年ニュージーランドのオークランド生まれ。
ミュージシャンでもあるらしい。
このタペストリーは「Alone in the Bush」というタイトルで、
同じ絵柄で
「Australian Jesus and the cottage in the woods」
という名前でも発表されている。
オーストラリアに到着したときにヨーロッパ人が経験した
多くの孤独と孤独を描写し、
オーストラリア大陸の広大な不自然な風景の中で
人生を作ろうと試みたようすを描いているそうだ。
2001年に連邦100周年を記念して、
ビクトリアンタペストリーワークショップでつくられた。
左の男性は荒野の羊飼いであり「預言者」。
現代的なバンガローの前に座り
鳥や動物を聴衆にして聖書を読んでいる孤独な預言者である。
右のカンガルーはイギリスの支配下にあることが王冠によってわかる。
‥‥というようなことがここに書かれてました。
ニュージーランドのオークランドか。
くしくもことしの旅の候補地のひとつです。
そういえば初夢は旅の続きだったな。
そして旅は続く。