そろそろ冷蔵庫の中身を片づけモードに。
追加の食材を買わず、ありあわせで、きょうはこんな朝食。
ハンバーグに見えるのはまさしくハンバーグで、
スーパーで売ってたのを「こういうものは、うまいんだろうか?」と、
興味本位で買っておいて賞味期限切れになっちゃった。
よく焼けば大丈夫だろうと調理しました。
赤タマネギを横で焼いて、ソースは醤油と赤ワイン。
これが意外とうまくて、やんなっちゃった。
スーパーのなー、こんなのが、うまいんだもんなー。
タラマ(たらこペースト)とBlinis(ロシアのパンケーキ)も
なかなかよかったです。
歩いてわりとすぐのÉtienne Marcel駅から4番線で、
Saint-Placide駅へ。
10時の約束で、
FERRANDIという料理学校を見学させてもらうのです。
なぜこういうことになったかというと、
「チョイ住み」のロケのときに(没になったんだけど)
ボンマルシェというデパートの食料品フロアや調理器具フロアへ行き、
ぼくが重さ4キロもあるFERRANDIの料理大全みたいな本を購入、
その様子を見ていたボンマルシェ広報のかたが、
「あの人はFERRANDIにそんなに興味があるのなら、
見学したほうがいいわ! こんどいつ来るの?」と、
アポイントメントをとってくださったのです。
そういうことはかなりめずらしいことみたい。
なので、ぼくら、謎のVIP待遇、
ベテラン職員さんの案内でたっぷり2時間ちかく
校内を歩かせてもらいました。
FERRANDIは1920年創立の由緒ただしい料理学校。
25000平米の敷地に、年間1500人の生徒が学び、
さらに専門コースは年間2000人が受講する、大きな学校。
パリ商工会議所が運営していて、
青少年対象の授業は学費無料、
というか「見習い」として給料も出るらしく、
それだけに入学できるのは5人にひとりという狭き門だそう。
ふつうの職業訓練校とはちがうのです。
成人向けのコースもあって、
案内してくれたオードリーさんいわく
「人生を変えたいと思って来る人が多い」そう。
もちろんこちらは授業料が必要。
短期で専門的なことをきゅっと学ぶコースもあるらしい。
いいなあ、肉の勉強に来たいなあ。
授業では12人にひとりのシェフがついて、
実践につぐ実践で学んでいくらしく、
どの教室でもとにかく調理をしてました。
行く先々で「ちょっと食べる?」と、もらうものだから
どんどんおなかがふくれていく。
でもおいしいんだよねえ、さすがに!
見ているといろんな教室、設備があって、
たとえば熱源だけでも
「ガス」の教室、「電気」の教室、
そして「ガスと電気のミックス」の教室があったりする。
そうなのです、熱源で料理ってぜんぜん変わる。
電気大好きなフランスは、いまやパリ郊外は
ガスは引かれていないというふうにも聞くほどで、
でもやっぱり料理はガスがいい。
(さらに言えば、薪とか炭とかがいいんだけど、
さすがに安定しないので、それはちょっと特別。)
世界中から来ている学生たちは
やがて散り散りになっていろんな場所で腕をふるう。
そのときにここでの授業はほんとうに役に立つだろうなあ。
きびしそうと思ったのはワインの授業。
教室には、仕切りのある机が、
中央のスペースを囲むように並んでいて、
各机の正面には「引き戸」がある。
そこからワインが出されて、テイスティングをして、
当てるのが、この教室の主題らしい。
「これはブルゴーニュのなんたらかんたらです」
と正解を出すと緑のランプがつく。ランプて。
机にはワインを吐き出す漏斗がついている。
飲んじゃったらだめですからね。
さらに机には赤と緑の光源があって、
それは「ワインの色をわからなくするため」。
ブラインドで味を見極めなくてはならない授業もあるみたい。
見た目とかじゃなくて!
なんと厳しい‥‥。
こういうのってきっと学年にひとりふたりの天才がいて、
「なんでわかるのおまえ」みたいなのが出るんだろうなあ。
調理もそうで「なんでできちゃうの」な人がいるはず。
教えるシェフも、襟がトリコロールになっている人がいて、
それは例の「M.O.F.」を受章しているあかし。
目に見えて差がついていくのですね。
さてお昼。給仕の勉強をしている子たちが運営を、
料理の勉強をしている子たちが調理を担当し、
ひとり30ユーロで、
本格的なフレンチのランチコースを食べさせてくれる。
皿もカトラリーも本格的。ビストロ料理ではないのです。
食前酒もワインも食後酒もあるし、
アミューズブッシュ、前菜、メインディッシュ。
そしてチーズ、プレデセールにデセール、
さいごにお茶菓子まで、完璧な組み立て。
当たり前ですがパンも校内で焼いてます。
この、ちゃんとお金を取るという緊張感が半端なく、
そしてお客さんはそのことをぜんぶわかっていて、
ういういしい給仕のようすをあたたかく見守っている。
いいなあ、この空気。
この子たちを育てるのは、わたしたち、と言わんばかりだ。
かっこいいなー。
過剰にニコニコしながら、緊張もしている彼ら。
けっして手際がいいわけでもない。
クロッシュ(Closhe:銀のドーム型のフタ)を
いっせいに外すのも、「いち、にっ、さん!」
という感じで、ちょっと体育の授業みたい。
食べているときにやったら
「どうですか。どうですか?」って訊いてくれたり、
パンをちょっとかじっただけで
どんどん新しいのに替えてくれたりする
(まあ、いっぱいあるからねえ!)のは、
あまりフランス的ではないとは思うけれど、
一所懸命さは伝わってくる。
おいしいよ、大丈夫だよ、がんばれー。
ぼくらはメインディッシュに
2人でシェアするという鴨料理(つまり1羽)を
頼んだ‥‥のはいいけれど、
ゲリドンサービス(サイドテーブル)で切り分けるとき、
ものすごく弾力のある鴨肉をさばくのに、給仕係、苦戦。
もう手際が悪いったらなくって、それもほほえましいんだけど、
本人、必死の形相。
先生が「ここをこうして、すこしずつ切り込みを入れてだね‥‥」
と、目の前で教えていて、ぼくとしてはラッキー。
それにしてもすごいな、フランス料理の世界は。
フランス料理というか、フランスにおける料理の世界、
ってことなんだけれど、こうして実践で学んでいけるなんて、
そしてこの学校を商工会議所が運営しているということも含め、
いかに料理という文化が大事にされているかってことだものね。
●
夜。サンマロ在住の友人(フランス人)が
パリにいるというので誘ってくれて、
総勢4人でiperiberというスペイン料理屋へ。
地図を見たらうちからすぐ近所(歩いて2分)!
こういうのはうれしい。
道路1本渡れば帰れるという気楽さで、
しかもちょっと路地の奥のスペイン料理、
というのが、とても親密な感じでいい。
店えらび、うまいなあー。
(ちなみにこの友人もまた
フードジャーナリストです)
ここのご主人は、もとエールフランスのパイロット、機長で、
「五本の指に入る」というほどの、すご腕だったそう。
引退後にこの店を開いて、オーナーとしてのみならず
店に立って接客をしている。
接客に関しては、遠からず、の職業ではあったろうけれど、
アテンダントのような手だれ感は皆無。
これがまたういういしくて、いいんだなあ。
昼のFERRANDIを思い出しちゃう。
フランス人にそんな料理文化のことを褒めると、
ずいぶん褒めてくれるねえ、と。
フランスに1年住んだら、
フランスのことを褒める気なんてなくなるよ!
というようなことを言う。そりゃそうだろうなあ。
でも、これが旅人の特権ってものだよ。
褒めたいだけ褒めさせてくれよ。
さて料理はどれもシンプルで、
バル(居酒屋)的な気楽さもあって、とてもよかった。
烏賊の串焼きとか、まさしく居酒屋‥‥。
ハモンイベリコ58ヶ月熟成、という表記に、
なにゆえに妙に半端な長さ? と疑問に思ったが、
フードジャーナリスト的見地から言うと
「59ヶ月じゃ、長すぎたんじゃないかな」
‥‥って、なんじゃそりゃ!
でもまあ、たしかにひじょうにおいしかった。58ヶ月熟成。
しかもこのたっぷり感がいいですね。
さて、明日はロンドン日帰りの小旅行。
初めて乗るユーロスターも楽しみ!