昨晩はちょっと食べ過ぎたのか、寝汗をかいて起きた。
夜中に頭痛もあったんだけれど、朝には消えていた。
シャワーを浴びて、午前中はのんびりすることに。
同居の友人も頭痛がするらしい。
といいつつ腹は減る。
朝食は例によってスパゲッティとサラダ。
スパゲッティには、ズッキーニとブラウンマッシュルーム。
たんぱく質が足りないなあ。
ルイ・ヴィトンの財団である
http://www.fondationlouisvuitton.fr/がつくった美術館が
ブローニュの森にあるというので出かける。
Les Sablons駅から徒歩15分くらい。
入場待ちの列には、ヨーロッパ各国から来ているらしい
高齢のみなさんがずらり。
40分くらいかな、混じって並ぶ。東洋人はほとんどいない。
フランク・ゲーリーの建築はどこも似ていて、
2012年に行ったビルバオをぼんやり思い出す。
入ってすぐにランチ。たんぱく質補給にと、
チキンブレスト。ミュージアムカフェだからなあ、と
たかをくくっていたのだけれど、
かなりちゃんとしてました。おいちい。
野菜の切り方、ちりばめ方がいいな。
農園みたいだ。これは真似しよう。
さて美術館では、地階で所蔵物のなかからの企画展示、
「Les Clefs d'une Passion」(Keys to a passion)をやっていた。
20世紀美術(近代美術)。
後発の美術館ながら、いいものを集めている。
ヨーロッパのものがほとんど。
みなさんがつかってくださったお金は
こんなふうに還元しておりますということかな。
しかしすごいな、これ買えちゃうんだから。
でも見せ方にちょっと苦労している気もする。
コンセプトに沿って集めたというよりも
集めたものに無理してコンセプトを加えたというか。
コレクションのセンスはいいんだけれど
キュレーション、もっとがんばれ!
(生意気な意見でした。)
あ、でも最初の部屋は、フランシス・ベーコンと
ジャコメッティの描いたジャン・ジュネ像というような
なるほど、それ並べますか、な構成は素敵でした。
印象派から表現主義あたりの作家のものもあって、
いちばん凄かったのはムンクの「叫び」。
これはキュレーターも「特別扱い」。
仏壇のようなというか結界の入り口のような黒の空間に
ぽつんと架かっている。
正面に立つと胸のあたりがモヤモヤする。
みぞおちの上あたりにピンポン玉くらいの
ねっとりした球体が入り込んだような気分だ。
いまだに、念のようなものが噴出しているんだろうな。
おそろしいなあ。
(同行の友人もまったく同じ感想だったみたい。)
あと、コレクションには
マレーヴィチやピカビアが多いのが、
ロシア構成主義やダダのファンにはうれしかったです。
このふたりっていつまでたっても「新しい」。
上階は現代美術。ここでは
「現代、美術家になることの苦労」が
もうどうしようもなくしのばれちゃったりするんだけれど、
そんななかから後世に残るひとが出てくるんだろうなあ。
コンピューター的な手法からはそれは出ない気がするんだけど
写真のなかからは出てくる気がする。
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やや疲れが出ている感じがするので
部屋に戻って休憩。ソファで昼寝。
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着替える。今夜はうわさの「PASSAGE 53」に行くのだ。
いっしょに仕事をしている料理のプロのかたが
いまいちばんおいしいと思う店、だと言う、この店。
佐藤伸一さんという若い日本人が、
開店わずか2年で2つ星を獲得したという店。
ぼくは気合いが入りすぎてこんなスタイルに。
(これ裏返しに着てます。
表はふつうの紺のジャケット。)
つきあってくださったのはパリ在住の
フードジャーナリスト川村明子さん。
パリの食についてはぼくはこのひとを
つよくつよく信頼しているのです。
このお店、コースは決まっているんだけれど、
どこぞの産(忘れちゃった)のキャビアが入っていますよと
すすめられる。
そのすすめられ方があまりにもほんものの熱意で、
「そりゃ、食べるでしょう」と、
追加料金40ユーロをものともせず、注文する。
さあスタート!
最初のamuse boucheから、ひっくり返りそう。
にんじんのムースです。
にんじんのムースなんだけれど。
口どけ、軽さ、そして奥行きの深さは、
きれいな抽象画を見たときのような
「ことばにならない」ぽわーんとした印象を残し、
あっという間に口から胃袋へとすべりおちる。
とんでもなく手をかけた一皿が、
ものの数分で終わってしまう、はかなさ。
季節のうつろいを、そのまま料理という姿に変える、
それが料理人の魔術なんだろうな。
ここからは、ジェットコースター的展開で、
箸休めやデザートも入れて13皿! どどーん!
あ、マドレーヌも出たなあ。14かな?
ぼくら、そうとう早食いだと思うんだけれど、
間髪入れずに次の皿がやってくる。
画像を見ていただいても「なに、これ?」ですよね。
ぼくもいまだに「なんだったの、あれ?」です。
悪戯に奇妙なものを組み合わせているのではなく、
佐藤さんはやっぱり素材主義なんだと思う。
旬の素材をどうしたらいちばんおいしく食べてもらえるか、
というテーマの、一方の端にあるのは家庭料理だ。
もうなるべくそのまま、という世界。
そしてもう一方の、うんと尖った先にあるのが、
佐藤さんのような料理人の世界。
この人がすごいなあと思うのは、
たとえばホワイトアスパラは、
それ自体もすごいけど、
コンテを使ったソースがすさまじい。
グリーンアスパラのほうは、じつは主役はマトウダイ。
でも、食べ終わった印象は、
未成熟のエンドウ豆と空豆のソースが際立つ。
乳のみ仔羊とか、仔牛とかの、火の入れ具合なんて、
どうしてくれようというセクシーさだ。
料理に合わせて出してくださったワイン類も最高で、
とくに最初にいただいたシャンパーニュは
テタンジェのコント・ド・シャンパーニュ、
ブラン・ド・ブランの2004年というものなんだけど
(すみません、わかった風に書いてますが、
ただの受け売りです)、
こんなにおいしいシャンパーニュはじめてだよう。
8時に始めた夕飯が終わったのは、12時ちかく。
驚異の早食いのはずだし、
とくべつのんびりしたという記憶もないんだけど、
おっかしいなあー。
きっと美食の神様の悪戯だろう。
でなけりゃあの店、時空がゆがんでるんじゃないかな。
今回の旅は、縁あっての外食が多くて、
自炊の旅ばかりしている身には、驚きの連続。
ぼくらとしてはいつもの旅とちがいすぎて、
興奮してくたびれてバタンキューの毎日です。