「えっ! 王宮の横を通ったのに、
中に入っていないの?!」
と、家主のダリオが目をむいて1歩下がって驚くので
(ぼくはちゃんと見ていないんだけど、
ほんとに全身表現でコントみたいに驚いたらしい)
じゃあ王宮くらい行っとくか、と、
わりと早めに出かける。
10ユーロの入場料ってけっこう高いなあと思ったんだけれど、
いやいや、これを見られただけでもとがとれました。
びっくり仰天とはこのことだ。
(最初の画像です)
これがモザイクなんですよー。
12世紀ビザンチン美術の粋。
キューポラ部分の「天使に囲まれた宇宙の支配者キリスト」をはじめ
至聖所の壁や後陣の壁、側廊もすごい。
床もすごい。
もう、モザイクの世界で自分がふわふわ浮いているようで、
しかも遠目だとモザイクとはわからないほどの緻密さなので
オペラグラスを持ってこなかったことを後悔。
次回は持ってくる!
ここにカフェがあったら3時間くらいぼんやりできるなあ。
「ミントティーください」って言いたくなりますよ。
そうそう、先に王宮のことを書いちゃったけど、
その前にこれがあったのだった。
カプチン派修道院とカタコンベ(地下墓所)。
カタコンベに美少女のミイラである
ロザリア・ロンバルドちゃんに会いに来たのだ。
この記事がくわしいですが、
いやはや、想像を絶する世界でした。
修道士や富裕層のミイラ(というか劣化してガイコツ)が
8000体安置されているんだけれど
ミイラですから生前のすがたのように演出されているわけです。
きれいな服を着て、立ち上がっている。
(寝てるひともいるけど。)
それが壁にずらりと並んでいて、
その間に通路があって、歩いていくわけです。
ロザリアちゃんはうわさどおり、
人形のようにつるりとしていて、
いま眠りについたかのよう。
ともだちを失ったときに、
棺のなかにこんな顔を見たのを思い出して、
胸がくるしくなりました。
でも──、ふしぎなことに怖くはない。
メメント・モリ(死を思え)というやつで、
すごく不思議な気持ちになる。
ぼくらだっていまこうして一緒に生きている仲間は
100年後には誰もいなくなるわけで、
ああ、せいいっぱい生きよう、と思うのみだ。
身体のあるうちに、ちゃんと愛さなくちゃいけないと。
だから怖くはないんだけれど、
ふしぎなことにだんだん咽喉が詰まってきた。
胃のあたりからあごまでの一直線に
ぐっと石膏で固められたような違和感がうまれ
だんだん息が浅くなってしまい、
吐き気というのとはちがうんだけれど、
口が開かなくなって(具体的には歯がくっついて)
ちょっとよだれが垂れてきた。
ううむ、これはまずいかもしれない。
こういう種類の「怖い体験」って、
ふつう背中がぞわぞわするものだと思うんだけれど、
ぼくの場合背中に違和感はなく、呼吸器まわりに来ました。
あまり長くいてはいけない場所のようですね。
表に出ると、たちどころにすっきりしたので、
カプチン派修道院でしばし休憩。
そのあと王宮までの道すがら、
えらい量のげっぷが出てびっくりした。
ぐうぇーーーーーーーーーっぷ、という感じ。
あれはいったいなんなんでしょうね。
いまはもう大丈夫です。
10数キロ歩いてとても疲れたのでそうそうに戻り、
「炭水化物をたっぷり食べたい!」
というリクエストでカチョ・エ・ペペをつくる。
チーズと黒胡椒、バターだけのスパゲッティ。
スパゲッティがなくてリングイネだったけど、
おいしくできました。
炭水化物だけだとなんなので、
ういきょうとトマトと柑橘のサラダも添えて、
パスタの後半に生ハムをのせて味を変えたりもしてね。
休憩ののちカルフールに買い出し。
野菜や牛乳やチーズを買う。
夜は、もうひとりYさんという旅の仲間が増えるので
(なんとマルタから船と鉄道でやってきて合流!)
ディナーをつくろうと考える。
といっても炭水化物はひかえたい。
冷蔵庫には例の「仔羊1/2頭ぶんの残り」がある。
シチリア料理はよく知らないけれど、
たしかミートボール的なものがあったなあと、
羊でそれをつくったらどうだろう? と思い、
まず羊肉から骨を外して包丁で叩く。
これが弾力がありすぎてミンチにはならないんだけど、
「昭和の細切れ」程度にはなったのでそこでよしとする。
クミン、ターメリック、塩、胡椒、
にんにく、葉セロリを加え、
全卵と小麦粉をつなぎにして練る。
ミートボールというよりは羊のハンバーグ城になったものを
オリーブオイルでこんがり焼く。
ここにトマトとトマトソースを加えて煮込み、
巨大な茄子を1センチほどにスライスして
別のフライパンでこんがり焼く。
皿に茄子を敷いて、焼いた肉とソースをかけて完成!
でっかい一皿ができました。
ほかには一切つくらずに、これと、
ランブルスコ的な発砲赤ワインで夕食に。
見た目は悪いけど、じょうずにできましたよ。うまかった。
飲み食いしながら
マルタの話を聞いたりしているうちに夜も更ける。
自室に戻り洗濯&シャワー。
手洗い洗濯も堂に入ったもんだ。
(バスルームに干してサーキュレーターをかけて乾かす。)
東京とラインでやりとりしながら寝落ち。
羊肉のおかげで身体はぽかぽか、心もあたたまり、
にこにこしながら枕を抱いて眠りました。
あ、いや、本人はにこにこ機嫌がいいと思っているが
誰かが見たらたぶんただニヤニヤしているだけのおじさんですね。
ぼくがもし18世紀パレルモ富裕層だったら
枕を抱いて寝ているようすをミイラにして
カタコンベに安置してほしいところです。
まだまだ旅は続きます。