昨日30日。
うろうろ歩きから部屋に戻ったら
部屋がきれいに片づいていた。
タオルはあたらしくなり、台所はピカピカに、
ベッドはきれいに整い、
ぐちゃぐちゃの衣類もきちんと畳まれて、
床は掃除され、家具の配置もよりCOZYになってた。
そうだ、ここはアパルトモンだけれど
ホテル的なサービスが週1回だけ入るのだった!
「この部屋を提供して5年になりますが
いちども盗難などのトラブルはありません」と
担当のヤンさんが言っていたからもちろん安心してるけど、
衣類の脱ぎ散らかしや
パソコンやらなにやらそのままになってたのがおはずかちい。
夕飯は食べず、ワイン1杯でこの日を終える。
●
大晦日の朝、起き抜けに大瀧詠一さんの訃報。
いちどコンテンツを担当させていただいたことがあり、
その仕事が終わったあとも、
幾度か不意打ちのようなメールをいただいたりした。
ぼくはハンドルネームがシェフなのだがいつも
「チーフ!」とびっくりマークつきで呼びかけてくださった。
「シェフですよ」とは訂正できないままだった。
「これ誰?」と急に知らない携帯メールを転送されたこともある。
なぜぼくに‥‥と思いつつアドレスを調べたところ
よく知っている女性コメディエンヌのあの人だったり。
(なんでぼくに訊いたのかよくわからない。)
そして、ちょっとだけ「つなげる」仕事をしたことがある。
仕事というか、役割というようなことだったけれど、
その出来事はぼくのなかで、公私をとわず
人生のおもしろいことベスト10にランクインするような、
大きな出来事だった。
袖磨りあうも、というくらいのご縁でしたが、
大きな袖の持ち主でした。
●
朝飯。
残り物(もう3日前のだと思う)バゲットを
なんとかしようと考える。
フレンチトーストにするには砂糖がない。
マルシェで買ってきたはちみつは土産にしたいしなあ。
あ、そうだ、甘くなくてもいいんじゃないか?
ということで、まずはバゲットを切って牛乳に浸し、
卵液も混ぜて、塩、こしょう、エスペレット、パセリを振る。
バゲットがやわらかくなったところで
フライパンにバターを敷いて、じゅうううううう。
「卵とじ」というと色気がないですが、そんな感じ。
サラダはマーシュとチコリをたっぷり、
オリーブオイルで和えて、きのう買ってきたハムを刻んでちらす。
リンゴジュースとブラッドオレンジジュースを割ったのと、
これまた昨日買ってきた、近所の店の挽きたてのコーヒーを淹れる。
これがまた、感動していたスーパーのなんでもないコーヒーの、
さらに8倍ドーン! というくらいうまい。
そういえば前回、ワインで、
スーパーの2ユーロから始めて、まずその旨さに驚き、
じゃあ4ユーロは、6ユーロはと段階的に上げていき、
10ユーロを超えたあたりで
「いいんでしょうか」という感じになり、
15ユーロから20ユーロあたりになるともう
なにがなんだかわからないくらいおいしくなってった。
それ以上はおそろしくて手を出していないけど、
身の程なごちそうワインの限界が20ユーロ、
というのがわかってよかった。
朝食後、大晦日ではあるが出かける。
どのくらい店がやってるのか不安なところだったけど、
スーパーもカフェも、あんが開いている。
美術館なんかもほぼ通常営業。
商店街のお店は書き入れ時でにぎやかなくらい。
(ただし早仕舞をするらしい。)
専門店はまちまちで、やってる店もあればやってない店もある。
きょうの目的は、スパイスと料理本と、ワインオープナーである。
行き先は、昨晩フェイスブック経由で
マルディ・グラの和知さんに教えてもらった
料理書専門店、「Librairie Gourmande」、
そして先日行って品定めずみの調理器具の店「a.simon」
(ここはエピスリーであるG DETOUの姉妹店)、
そしてカンカルの本店に、ジャンポール兄さんに連れていってもらって
それ以来勝手に親しく感じているスパイス専門店
「Epices Roellinger」である。
地図で確認すると、いずれも部屋から徒歩圏内(2キロ以内くらい)。
同じ方向でもあり、散歩がてらに出かけるのにちょうどいい。
まずはいちばん遠いEpices Roellinger。
クラシックな薬局のごとく瓶が並ぶ、
スパイス好きだったらたまらない店である。
胡椒もヴァニラもそれぞれ十数種類を揃え、
それぞれ香りを確かめることができる。
「同じヴァニラでもこんなに違うんだ!」と感動することしきり。
しかしそこはしろうとの悲しさ、
その微妙な差異を活かしての使い途がわからない。
胡椒もいろんなものがあるが、
まあ胡椒だったらどんなふうにも使えるよな、
ということでいくつか購入。
ゲランドの塩も1キロ買う。
どこでも売ってるけど、
ロランジェ先生のセレクトだったらおいしいに違いない。
ほかにも適当にミックススパイスなどを
ざくざく買い物籠(ほんとに籠)に放り込み、
レジ横で「スパイスのためのスプーン」なんてのまで買う。
ていうか、買いすぎ。ひょほほほほほ。
ああ、だいぶ、おれ、おかしくなってるよ。
パリの魔法だよ。かかっちゃってるよ。かぶれてるよ。
そしてその足でLibrairie Gourmandeへ。
分野別の棚に料理本が(料理本だけが!)ぎっしり並ぶ店。
そもそも書店好きなのだが、
さすがにフランス語の本屋さんに行っても疎外感があるなか、
趣味の専門書ならばなんとなくわかるし、
読めなくても欲しい本がいっぱい。
しかし欲しいものをすべて買うわけにはいかない。
なかでもさんざん考えて諦めることにしたのは
『La Cuisine du Gibier a Poil d'Europe』という本。
そう、ジビエの本。
ジビエをまず家で調理しないぼくには
(年に一度あるかないかだ)
実用性のない本であるものの、
見てうっとりしながら欲望をかき立てるという意味では、
料理本界のエロ本、フードポルノのような存在である。
しかしこの本、大型で分厚い。
価格も高く、そうとうな重量でもある。
なにしろ片手で持てない重さ!
すでに購入して部屋に積んである本は
総重量10キロを超えているのだから、
これ以上大型本はやめたほうがいいだろう。
(アマゾンフランスで買うという手もありますしね!)。
それでもせっかく来たこの店、
薄くて小さい牡蠣の本と、ポムフリットの本を見つけ、
どちらも比較的安価だったので、購入することにしました。
いやあ、ほんとに楽しかったなあ。
BHVの料理本コーナー、
ボンマルシェの料理本コーナーとともに
今後、チェックすべきパリの
3大料理本の店として記憶しておこうっと。
そして、最後にワインオープナー。a.simonに行く。
じつはボンマルシェで「押して引くだけ」というタイプの
ワインオープナーを発見、気になっていたのです。
いま自宅で使っているのは
ポケットモデルのプラスチック製、
これはこれですばらしく開けやすいんだけど、
こっちのはですね、なにしろLE CREUSET製でして、
●NASAの特殊コーティング技術をらせん針に採用
●サンフランシスコのワインミュージアム主催のコンテストで
もっともすぐれているワインオープナーに選出
●1分間に8本のワインを開け、ギネスブックに認定
というものでして。
こういう蘊蓄をかたむけると
女性たちから怒られる。
「そういうこと、どうでもいいから!
そういうことばかり言ってないでさ、
さっさとコルク抜いてくれないかなあ? 男子!」
と、怒られる。
しかしながらどんなに怒られようと
こういうものが大好きなんで、仕方がない。
メタル製の歯車のギザギザのうつくしさといったらもう!
本やワインオープナー、スパイスを抱えたままではなんなので、
いったん部屋に戻って荷物を置き、昼食に出ることに。
帰路、パッサージュを見つけて通る。
クラシックでたのしい散歩道。
店はいろいろ開いていたパリ中心部ではあるが、
大晦日のこの日、ビストロに関しては、ざっくり言うと、
ふだんから観光客の多い店は開いているものの、
地元の人中心の店や、わりと評判の高い店は、
たっぷりめのバカンスを取っちゃっているみたい。
めずらしく外で昼食をと思って出たものの、
(なにしろ1回しか外食していない)
目的のビストロはいずれも開いていなかった。
"Tartare de veau"(仔牛のタルタル)がうまいと噂の
「La Robe et le Palais」も閉まっていたし、
肉といえばここ! と評判の「LE SEVERO」も閉まっているというし、
前回行きたいそうおいしかった「Les fines Gueules」も
2日夕方再オープンの張り紙だった。
肉屋のHugo Desnoyer氏のお店はちょっと遠いので
(やっていたらしいのだが)はなから断念。
腹が空きすぎて足が向かなかった。
さあどうしよう? 近場でなんとかしたい。
タルタルが食べたかったが、
タルタルを目指すには情報不足だ。
あとは直感的に「食いしん坊ダウジング」で選ぶしかない。
気合だ。気合でおいしい店を探すのだ。
ということで、わりとあっさり、「Le Pot de Vins」に決める。
誰に教わったわけでもなく、
以前通りかかって気になっていた店で、
場所はLes fines Gueulesのすぐ近く。
確実に「おいしそうオーラ」が漂っている。
そのオーラっていったい何?
と訊かれると困るんだけれども、
店の入り口あたりを覆う薄い色の雲のようなものです。
じっさいに雲がかかっているわけじゃないんだけれども、
おいしい店からは、食いしん坊にだけわかる、
そんなある種の暗号のようなメッセージが
「もわもわもわ」と発信されているのである。
さて「Le Pot de Vins」は、
間口も狭く入り口のドアもわかりづらく、
店の手前のほうはやけに薄暗くて
やってるのかどうかわからないほどだ。
ガラス越しに覗いてみると、
奥の方が鰻の寝床みたいになっていて、
テーブルがいくつかあり、客もいるから、
ちゃんと開いているのだろう。
入ると、若い女性がひとり店内を走り回って
(ほんとうに走ってた)てきぱきサービスをしていた。
最初から気持ちのよい印象。
席はあいていたので座らせてもらい、
さっそくメニューをためつすがめつして
(理解するのに時間がかかるのです)
われわれが選んだのは、これ。
前菜にCocotte d'oeufs a la truffe
(卵のココット、トリュフとともに)と、
Foie gras poêlé aux pommes jus de Porto et Boudin Béarnais
(フォアグラのポアレ・りんごのポルト風味添え、ブーダンベアルネ)、
メインはEntrecôte au poivre vert de Madagascar
(牛リブロースのステーキ、マダガスカルのグリーンペッパーソース)
デザートにAssiette de framboires et crème légère
(フランボワーズのクレームレジェール添え)と
Crème brûlée noisettes
(くるみ入りクレーブブリュレ)。
たっぷり!
ステーキを頼むとき英語で「ミディアム?」と訊かれたので
あえてのフランス語で
「いいや、セニョン(レア)で!」と答えると、
走るサービス女子、ぱあっと顔が明るくなり、
「セニョン!! それ最高よっ!」
という感じでよろこんでくれた。
しかもそのあとなんとなくフレンドリーさが増した気がする。
そして、料理はいずれもとびきりの出来だった。
シンプルだけど繊細で、塩は濃くないのに、
どの料理も旨味がたっぷり。
火加減絶妙!
最初に食べた卵のココットにも、
すこし分けてもらったフォアグラにも大感動。
そしてステーキのためのナイフが運ばれてきてびっくり。
わ、わ、わ、これって、うわさのPercevalじゃないですか?!?!
これまた和知さんから教えてもらい、
今回の旅で買おうと思ったものの、
あまりの高額に断念した包丁のメーカーだ。
テーブルナイフは買えなくはない価格だったけど、
家には買い集めたライヨールが
たくさんあるので今回はパスしたものの、
やっぱり使ってみたいなあ‥‥と思っていたので、
とてもうれしい偶然だった。
そもそもこのナイフを出すっていうのは、
この店の格というか自信のあらわれであろう。
はたしてステーキは、‥‥さいこう。すばらしい。
フランス式のかたーい(切れ味鋭いPercevalをもってしても
切るのがたいへんなくらいの!)肉だが、
それだけに、噛めば噛むほど味が深まる。
ついてきたグリーンペッパーソースもおいしいが、
塩とこしょうだけでもじゅうぶんいける。
つけあわせのポムフリットは細目のカリッとタイプ、
芋は甘めで黄色い品種(インカのめざめ風)。
ああうまい。うまいよう。
そしてデザートも、シンプルながら、さいこう。
クレームブリュレさいこう。
クレームブリュレ、そんなに好きじゃない、
なんてこれまで言っていたのだが、撤回します。
クリームブリュレ好きです。
満腹になりようやく落ち着いて店内を見回すと、
入り口付近が小さなエピスリーコーナーになっているようで、
瓶詰め食材やワインを売っている。
そのワインの品揃えが、なかなかたいしたもので、
もしかしたらLa Cave des Papillesとつながりが?
というような印象。
つまり、日常づかいのヴァン・ナチュールがずらり。
1本30ユーロほどと安くはないが、
この品揃えなら味も確かだろう。
ということでボージョレの赤を2本買う。
これは日本に持って帰るつもりです。
時間は2時を回っていたので看板は下ろされ、
奥から料理長のStéphane GATUMEL氏が休憩で出てきていた。
氏はこの写真の人で、
見上げるような大男。
もうみるからに「うまいものつくります」という体躯、風貌でした。
腹をさすって笑いながら退出。ああうまかった。
さて、部屋に戻ろう。
何度か来ているパリではあるけれど、
方向音痴のぼくは、点と点が結びついていないところがある。
しかしようやくわかってきたのは、
1区にあるこのレストランと、
午前中に行った厨房機器屋や書店、スパイス店、
それからいつも買い物をしているMontorgueil商店街は
わりと近くだということだ。
南下してリヴォリ通りではなく、
北上してエチエンヌ・マルセル通りに出れば
わりとスムーズに部屋に帰れるのである。
もちろん徒歩。
中心部に宿をとると、やっぱり楽しいなあ。
夜は部屋で、こちらの友人であるリコちゃんと
カウントダウンの集まりをする予定になっている。
商店街でパンを買い、くだものを買って帰宅。
このパンが、やけに長かったんだけどなんでだろう?
持っている感じは座頭市みたい。
ふらんす座頭市。
6時半、リコちゃんがやってくる。
なんとブタフィーヌさんといっしょに!
フランスでずいぶんあちこちを旅しているらしい
ブタフィーヌさんは、なかなか貫録がついてました。
たかしまさーん、ブタフィーはとっても元気ですよー!
いただいたシャンパーニュをあけ、
買っておいたLoireのビオワイン(赤)をあけ、
マルシェで買ったブルゴーニュの白をあける。
シャンパーニュはすこし甘めでとても飲みやすく、
Loireの赤は、酵母かな、最初の香りがかなり独特で、
いわば「いなかのにおい」。
それがなんだかクセになるようで、
しかももわんとあまく、とても好み。
ブルゴーニュの白は、生産者のおじさんから直接買ったものだが、
実直でまっすぐな性格らしく、そんな素直な味。
洗っただけのビオの野菜と、
商店街のハムとパテ、そしてくだもの。
火を通すものはなにもつくらなかったけど、
いっぱい話して笑っていたものだから、
食事がいらなかったほど。
あっという間に12時。
カウントダウンに向けて
大通りのほうから若者たちの嬌声、歓声が聞こえる。
しかしながらさすがフランス人、いっせいにデジタルに
3、2、1、というのが苦手らしく、
けっこう勝手に(たぶん自分の腕時計で)カウントダウンをするので、
てんでばらばらに「ボナネ!」(あけましておめでとう)と叫んでいる。
早いのもいれば遅いのもいる。
ひどいのは36分後くらいに叫んでましたよ。
ぼくらは日本人なのでiPhoneで正確に祝いました。
ボナネ!