パッキングを終えて荷物は2個になりました。
ワインや缶詰、瓶詰などの食材がやったら重いので、
トランクにそれを詰めると重量オーバー。
40キロくらいになる。
これを見越して大きめのソフトバッグを持ってきたので
割れ物はトランクに、
割れないものをソフトバッグに詰めて、
なんとかバランスをとりました。
ソフトケースにはホイールがついていないので
トランクにくくりつけるためのゴムもあります。
ひとり子どもを連れているような感じです。
最後に余った食材、クロワッサンとバゲット、
生ハムとチーズとバターを
全動員してサンドイッチを3つつくる。
ひとつは朝食、
ひとつは昼のおべんとう、
もうひとつは予備。
夜、パリに着くのが19時すぎ。
たぶんホテルのチェックインは20時すぎになるだろうから、
夕食というか夜食にしようかな。
11時にチェックアウト。
ビアリッツ空港からの国内線は17時40分発なので
だいぶ時間がある。
荷物をアパートホテルのレセプション
(いちおう、ある)で預かってもらう。
「12時から2時まで
ランチでいなくなっちゃうけど大丈夫?」
だいじょうぶです、3時でじゅうぶん間に合うから。
しかし、たいしてやることがない!
このちいさなバイヨンヌの町の中は
(大バイヨンヌの中心部のことです)
ほぼすべての道を歩いたと思う。
でも、だからといって、近郊の町へバスで行くのは、
きょうはやめといたほうがいいだろうなあ。
ビアリッツだったら勝手がわかるけど、行ったところで
スパイス屋さんが開いてれば買い物をしたい、
という程度の興味だし。
ということでやっぱり散歩をすることにする。
しかし‥‥寒い!
これまででいちばん寒いよ~。
吐く息が白いのは当たり前ですけど、
その息がぼわんと塊になって漂うほど。
たぶん気温は摂氏マイナス3度くらい。
北国のひとには当たり前なのかもだけど
静岡生まれにはつらいです。
せめて歩いたことのない道を、と思い、
大バイヨンヌの中心部を離れて、
アドゥール川を渡ってサンテスプリ地区を左方向に。
次の橋はずいぶん先。
ほとんど誰も歩いていない川岸の道だけど、
ゴミも落ちていないし、危険な香りゼロ。
安心して歩けます。
まあ面白いこともべつにないわけだけど、
旅のものにはふつうの風景がたのしみなのでOK。
ずっと先に見えていた橋を渡って
大バイヨンヌに戻る。
そこから町の中心に戻る道も、
べつに面白くはない。
寒さはあいかわらずで、太陽も出ていないので
じつにしょぼくれた感じの散歩である。
人生にはこういうしょぼくれた散歩のような時間が
時々訪れては、人に反省を促すのだが、
あんまり深いことは考えないことにする。
それよりトイレに行きたくなってきた。
ないのです、トイレ。
カフェに入って借りるか、
ごくたまーに設置されている公共トイレを使うか。
あるかな? と思って入ってみた
スーパーマーケットのMONOPRIXにも、
デパートのギャラリーラファイエットにも
(こんな小さな町にギャラリーラファイエットがある、
というのがびっくりですが)トイレはなかった。
いやほんとうはあるんだろうけど
お客様用ではないのですね。
小さな町だから、住人は別に困らないのかもしれない。
でも冬の旅人にはつらいですよ。
冬の旅人のちいさな膀胱はつらいですよ。
冬の旅人のちいさな膀胱がきゅんきゅん泣く前になんとかしないと。
そういえば。
インフォメーションセンターで
「トイレはある?」と訊いていた人がいたのを思い出した。
その人はきっとインフォメーションセンターのトイレが
借りられると思って訊いたのだと思うけれど、
おねえさんは「カテドラルのほうに向かって歩いてすぐですわよ」
というようなことを言っていたように思う。
そうですわ、あるはずなのですわ。
ということで歩いていくと、あった!
画像はないですけど、あった!
タッチセンサーで開く1人用のトイレ。
男性の小用は、頭と足は隠れない仕様なので
個室のほうに入る。
最初タッチセンサーがよくわからなかったんだけど
あっちを触ったりこっちを触ったりしてたら開きました。
ほっ。
ふたたび歩くことにする。
現金なものでそちらの用を済ませたら咽喉が渇いた。
不自由なものだなあ。
はだかの動物じゃなくてよかったのは、
噴水や川の水を飲まなくてもいいことですね。
コインがあるからスーパーで水とかコーラを
買うことができます。人でよかった。
水は小さなサイズがなかったので
コカコーラ・ゼロにする。
そしてそれを買って、どこか座って
サンドイッチが食べられるところを探す。
もう1時半すぎてるし。
川のそばに、たしか、なんとかさんの記念公園があり、
噴水を囲んでベンチが配置されていたように思う。
そこだそこだ。
記憶どおりにそのベンチはあった。噴水もあった。
そして日がすこし差してきた。ラッキー。
寒さはあいかわらずだけど、それでも太陽はありがたい。
そして座っていい場所があるというのは
こんなにもほっとするものなんですね。
公園のベンチというものをあらためて見直しました。
しかし、ラップをあけてサンドイッチを出したら、
とたんに耳元で
「ぶぅわさわさわさわさっ!」
という羽音が。
腹を空かせたスズメでした。
しかしサンドイッチを強奪するほどの根性はなく、
ベンチの横でじっと待っている。かわいい。
戦略っぽいが、かわいい。
パンのはしっこをちぎって、あげてみる。
スズメは器用にそれをキャッチして、
安全に食べられるところに持っていくのか、
すぐに飛び立ってしまった。
‥‥と思ったらこんどはそれをみていたハトが
「わたしにもください」
「わたしにもください」
「わたしにもくださいよう」
と3羽ほど集まってきた。
ハトは、ベンチにちょこん、というような
かわいいしぐさはせずに、
まったく無表情のまま、こちらを見ている。
いや、スズメだって無表情だけど、
しぐさがね、かわいいわけですよ。
だがハトは、ぼくと目が合うと、くいっと首をまげて
「なんですかなんですか」
「見てませんから」
「見てません見てません」
という感じでそっぽを向く。
スズメに比べると生きづらそうに思う。
スズメはわりと体全体で
「どうです、私、かわいいでしょう?」
というような表現をする。
それが作戦だということはわかっちゃいるのだが、
からだも小さいのでこちらもすぐにほだされる。
ハトにもちぎってパンをあげると、
3羽が争奪戦。
しかも、スズメよりもでかい図体なのに、
ちぎったパンが大きいのか、
その場でつつくばかりでなかなか食べられない。
不器用だなあ。
ときどきスズメがかすめ取る。素早いからね。
するとさらに巨大な鳥が上空から、
およそ10羽ほど群れをなして
ブワサバサバサバサ‥‥と降りてきた。
カモメである。
カモメは見た目はきれいだが非常に喰い意地の張った鳥で、
たいへん攻撃的に餌をあさる。
フィンランドでは日本のカラスのような扱いだ。
バイヨンヌは海辺ではないが、カモメがけっこういて、
こういうタイミングでちゃんと現れるところが憎い。
そしてハトがうまく食べられないパンくずに
横からやけに動作のでかいしぐさで飛びかかり、
「どけどけどけぃ!」
とばかりに強奪していくのです。
パンを獲られたハトはぽかーん。
「いったい何があったんですかね」
「ぼくらのパンがありませんね」
「あ、パンだ。パンをください」
「パンをくださいよう」
いつの間にか1羽増えていて、
またこちらをじっと見たりする。
目が合うと他所を向く。まったくかわいくないが、
カモメよりはましな気がする。
結局、ベンチに来るスズメと、
足下をうろうろしているハトと、
ちょっと遠くからそれを狙うカモメ、
それぞれにちょっとずつパンくずをあげながら
ランチタイムを終えました。
アレですね、家のないひとが、ベンチに座って、
動物をかわいがったりするのは、
こういうことなんでしょうね。
これで犬なんかすり寄ってきたら
抱きしめてしまいそうだ。
うちに来るか? うちなんかないけどな!
べんとうを食べ終わったのでまたうろうろする。
町はクリスマスの飾りを外すのに忙しい。
フェイスブックで友達になったビール屋のグレゴリー君に
別れの挨拶に行こうと思ったが、
11時から開いているはずの店は閉まったままだった。
オリジナルビールもつくっているというから
店の営業以外にもやることがあるんだろうな。
また会えたらいいね。じゃあねー。
と、誰もいない店に向かって挨拶をした。
さらにぶらぶらしていると、
前は通ったけど入らなかった食材店が気になり、
店主がヒマそうだったのでお邪魔する。
「ようこそぼくの店へ!」
と、なんだかうれしそう。
オリジナルビネガーとか、オイルを試食させてくれる。
バスク特産のとうがらしを漬け込んだオイルと、
スリーズノワールというこれもバスク特産の黒さくらんぼを
ビネガーにしたものを出してきて
「混ぜて食べるとすごくおいしいんだ」。
たしかにうまい。こりゃうまい。すごくいい。
ほかにもいろいろ組み合わせを教えてくれたけど、
(レモンビネガーとバジリコオイルもうまかった)
なにしろ瓶なので重くなる。
2本だけ買いました。
うっかり買い物をしたら、
買おうかどうしようか迷っていたチーズも
やっぱり欲しくなった。
地域に数店舗をもつバスク食材専門店は
何度か通って、調味料、生ハム、シードル、ワインを買い、
地元で消化してきたんだけれど、
チーズは日本に持って帰ることができるので、
やっぱり買うことにする。
ここのあんちゃんも覚えてくれていて、
「チーズおいしかったでしょう?
真空パックできるから買って帰ったら?」と、
さすが手慣れた営業トーク。
そのとおりにする。
3種類、ちょっとずつと言ったんだけど
こっちの人の「ちょっと」はけっこうな量。
でもまあいいや、使いでがあるほうがいい。
真空パックは、してくれたけど、
なぜかチーズの香りが濃厚にしみ出ておりました。
そんなことをしているうちに3時。
荷物をピックアップ、バス停に向かうことにする。
来るとき、バス停からの道がわからず、
カテドラルを目指して明るい道を歩いたら、
すべて石畳で、トランクの移動がたいへんなこと。
帰りは舗装された道をと計画を練ってあり、
それは環状道路沿いにちょっと回り道をするルート。
ほぼ石畳はないので、といってもデコボコはしてますが、
さほど苦労せずにバス停に着きました。
ラインCのバスは1ユーロ、空港まで15分。
近い、安い!
このくらいの感覚がいいよなあ。
日本でいうと福岡空港が町に近くていいですよね。
羽田は近いといっても遠い。
成田は言わずもがなだ。
国内線はエールフランス。
満席。
定刻をすこし遅れてパリに到着しました。
ホテルはシャルル・ド・ゴール空港のシェラトン。
空港「周辺」のホテルではなく
空港「内」のホテル。
鉄道駅の真上で、とても便利なんだけど、
ものすごく高い。
1泊だからいいようなものだけど、
ふだんだったら絶対使わない。
でも今回は、この荷物を抱えて町に出て1泊というのでは
あまりにもつらいのでここにしました。
じつにアメリカ的なホテル。
部屋は広いがひじょうに寒く、
ミニバーがやたら充実している。
見てくれはいいけど実がともなっていない。
それにしても寒いなあ。
グー。腹が鳴った。
そういえば腹が減っている!
朝つくったサンドイッチを
昼、ひじょうに寒い公園で
鳩と雀とカモメにたかられながら食べてから
8時間以上経っているのです。
サンドイッチはもうひとつあったんだけれど、
残念なことに、冷たい。
あたたかいものが食べたい。寒いから。
あと、水やジュースを買いたい。
水道水も飲めるけど、ちょっとね。
さっそく、空港内になにかあるだろうと探す。
というのは、シェラトンのレストランを見てみたんだけど、
「ハンバーガー30ユーロから」だったのです。
なにそれ。なんなのそれ!
疲れた足で歩いて空港の出発ロビーでコンビニ的な店発見。
水とオレンジジュースを買う。
店員はひじょうに無愛想で、
ああ、シャルル・ド・ゴールに来たなという感じがする。
バスクから来ると別の国ですね。
つめたいサンドイッチの店を発見。
つめたいっていうか、あたたかくはないという意味です。
しかも高い。
空港だし、サンドイッチだからそりゃそうだよな。
でもちがう。あたたかいものがほしいのだ!
と、歩いていたら
「マクドナルド、あっち→」
という看板が!
「歩いて2分ダヨ」とも書いてある。
もういい、マクドナルドでいい!
あたたかければいい!
と歩いてみたんだが、
4分くらい歩いたところで
「マクドナルド、あっち→」
「歩いて2分ダヨ」
的な看板がまた。
ダンジョンか。タイムループか。
そしてどんどん暗くなっていく
2Dターミナルの通路の奥に
エスカレーターがあり、
「マクドナルド、こっち↙」
とある。下るのか。
そして下りるとレンタカー屋が並ぶ先に
「マクドナルド、こっち↖」‥‥とは書いていない。
でもその奥は行き止まりなので
エスカレーターを上るしかない。
やっぱりダンジョンか!
そうしてやっと見つけたマクドナルドで
ハンバーガーとフィレオフィッシュと
フライドポテトを買いました。
注文はタッチパネルで精算もカード、
レシートが出てきて番号を呼ばれたら受け取り、
という、未来なかんじでした。
(呼び出しはフランス語だから気が抜けません。
CB19はせ・べ・でぃずぬふ、です。
そこはモニタ表示にしないのね。)
戻ってきたらすっかりさめてたけど
うっすら体温くらいのあたたかさはありました。
そして味は20世紀のままでした。
(最近食べてないから比較対象が昔すぎる。)
しかしそれでも高いよなー。
ああ、バスク‥‥。
残っているサンドイッチは冷蔵庫に入れて
朝食べることにします。冷たいけど。
だってホテルの朝食は
「お客様のご予約は朝食なしでございます。
ですがお召し上がりいただくことはできますよ。
33ユーロでございます」
と言われて仰天。
さささんじゅうさんゆーろ!
寝ます。
窓外の風景はこんなです。
さすが空港ホテル。