8日目には続きがあります。
正確には9日目なんだけど。
深夜、誘っていただいて
ベルヴィルに出かけることになった。
野宮真貴さんが、パリの
「枝魯枝魯(GUILOGUILO)」という和食店の
7周年記念パーティにゲスト出演するという。
お店のことは知らなかったのだけれど、
「わたし、歌うよ!」というメッセージに、
これは行くべし!
クラブシーンともパーティとも、
そして深夜の活動ということについても
すっかり無縁のぼくだけれど、
ここはひとつ出かけてみようと思ったのだ。
食事を終えて軽くシャワーを浴びて支度。
いちおうオシャレをする。
ちなみに同行の友人はロンドン行きでくたびれたんだろう、
自分の部屋で眠っていたので、そっと出かけました。
同僚の西本くんと落ち合い、メトロで移動。
ベルヴィルの駅から目的地までの歩道には、
東洋系のご婦人方がずらりと並んでいた。
頬骨が高く頬から口にかけての距離があり、
目が小さくて少しつり上がった、
南方というよりは北のほうの、大陸的な顔だ。
今週は最高気温27度にまで気温が上がったパリだけれど、
さすがに夜は風が冷たいなか。
ぽっちゃりとした手足が露出する服を着ている。
違和感というか、不思議だなあと思ったのは、
彼女たちがにこにこしていることだ。
ぺちゃくちゃ、仲間と喋ったりもしている。
こういう職業のご婦人方というのはあまり笑顔で
集客をするもんじゃない‥‥ように思うんだけれど
(オランダの飾り窓でもどこでも、
わかりやすいセクシーというのは
じっと見つめてポージング、だったように思う)、
こういう方法もあるのかもしれない。
たしかに同胞(アジア人)は絆(ほだ)されそうだよなあ。
アジアの情に訴える作戦か。
口紅だけはやたらと赤い彼女たちから
にじみ出ているのはタフさ。
フランスではこの仕事はちゃんと税金を納める社会人、
ひとつの「商売」なのだと聞いたことがある。
独立事業主なのか社員なのかわからないし、
どうしてこの職業に就いたのかも知りようがないが、
何をしてでも生き延びるという覚悟がありそうだなあ。
会場となっている店に着いたら、
1時間後だというステージに向けて
野宮さんたちが待機していた。
シャンパーニュ飲み放題だそう。
ぼくは体の芯にはこの日のセンチメントが残っていて、
それがじわじわ熾火(おきび)のように燃えていたものだから、
酒やつまみがあんまりのどを通らない。
2階から大音量のダンスミュージックが響き、
1階のテーブルで話しているみんなの声は聞こえない。
大音量の空間でひとりになる。
赤い空間でぼんやりする。
なんだか映画を観ているようだなあ。
野宮さんのお友達の丸山敬太氏が来ていて
紹介をしていただく。
「あのお肉の人!」とおっしゃってくださった。
肉ね。たしかにぼくは肉の人だ。
ちなみに丸山さんはTVのドキュメンタリー取材で
訪仏なさっているということで、
ここにもTVのクルーが入ってました。
ライブが始まる。2階はものすごい人。
ステージらしいステージもないのだけれど
野宮さんが歌い始めるとそこはステージだ。
人々の視線が、スポットライトがわりだ。
東京は夜の七時、じゃなくて、朝の7時かな、ちょうど。
2曲を歌い終わった野宮さんを見届けて、
拍手と喝采のなか、会場を後にする。
まだメトロは動いている。
同僚はシャンパーニュを飲みすぎたらしく、
ひどく酔っぱらっており、やたらとご機嫌だった。
ぼくはそっと部屋に戻り、
洗濯機の中で固まっていた洗濯ものを干す。
顔と頭を洗って就寝。長い一日だったな。