火曜日。6時に目が覚めて、
朝食をどうしようかと考える。
台所にスーパーの硬くなったバゲットがある。
べつにどうということのないバゲットである。
卵もある。牛乳もある。はちみつもある。
角砂糖もある。棚を漁ったらシナモンもあった。
これは、フレンチトーストでしょう!
と決めてから、フランスでこれを
フレンチトーストって言うのかと調べたら、
‥‥言わないみたいですね。
pain perdu(ダメなパン)と言うらしい。
もうどうしようもなく硬くなったパンを
仕方なくこうして食べる、
いわゆる、びんぼうめしなんだそう。
おじや、みたいなかんじですかねえ。
おいしいけど、わざわざそれを? というような。
つまりきょうの朝食は、
わりと正しい残ったバゲットの活用法ということになる。
卵2個、牛乳適当、角砂糖1、シナモンふたつまみ、
そしてはちみつを適量。
このはちみつ、ナッツ入りなので
(というか、ナッツの蜂蜜漬けですね)、
それを切ったバゲットの空洞に詰めてみた。
そんな料理はないと思うが、
急がない旅の朝に、こういう作業は楽しいものである。
パンがしっとり卵液を吸ったら
(そのために一晩くらい置いておきたいところだけど)
弱火でじっくり両面を焼いてできあがり。
ひじょうにおいしくできました。
それから残り物のヨーグルトと、ネクタリン。
ぼくはふだん朝ごはんはスムージーに納豆ごはんとか、
そういう感じなので、こういう朝食には
たいへんな違和感があるのだが、
非日常ということでよしとする。
あらためて言うけど、キッチンつきの宿に泊まる旅、
ほんとうにおすすめですよ。
なにかと思うようにはならないんだけど、
そこがまた楽しい。
さて、きょうはまず、
モンパルナス駅で、Saint-Maloへの往復切符を
入手しなければならない。
木〜金の一泊二日で行ってこようと、
ネットで予約をすませ、
あとはチケットを受け取るのみなんである。
モンパルナス駅の窓口は時間がかかるから
当日だとかなりドキドキしそうなので
前もって受け取っておこうという魂胆。
ラマルクコーランクール駅からモンパルナス駅までは
12号線で一本。
ということでモンパルナス駅。
地下鉄から国鉄まではけっこう距離があった。
しかも窓口の場所がわかりにくいうえ、
最初、並ぶ列を間違えた(今日の切符の列に並んじゃった)。
けれども窓口の女性はとても親切で、
なにごともなくチケット入手。
よかった。
せっかくモンパルナスに来たのだからと
カルティエ財団記念美術館に向かって
モンパルナス墓地を通り抜けることに。
ところがこの墓地、あのひとやこのひとが眠っている、
それはそれは有名な墓地なんである。
案内表示板を見て「ぎゃあ」となってしまった。
だってだってだって、
ヴォードレール、デュラス、マン・レイ、
コルタサル、ブラッサイ、ゲーンスブール、
サルトル、イヨネスコ、ベケット、モーパッサン、
ツァラ、ジャック・ドゥミ‥‥。
そんなひとたちが一堂に会するなんて、さすが墓地!
ってなんだか妙な気もするけど、
幾人かの墓前で手を合わせてきました。
ゲーンスブールは死後なおモテモテでした。
キスマークだらけ。
歩き回ったらすっかり腹が減ったので
てきとうなカフェに入り、またもやtartare de boeuf。
ここのは、最初から味がついてて、混ざってた。
やっぱりおいしかったあ。
さて、カルティエ財団記念美術館では
Ron Mueck(ロン・ミュエク)をやっていた。
そういえば2006年に来たときもやってたんだよなあ。
なんだか妙に縁がある(と勝手に感じている)彫刻家。
スーパーリアル、かつ、縮尺が妙な
(やけにでかかったり、ちいさかったりする)人体彫刻の人。
毛穴や体毛、加齢による肌の変化や血管までもが
これでもかという迫力で迫り、
その表情はやけに鬱屈としている。
ハッピーなはずのシチュエーションでも、
「やれやれ」という顔をしている。
ユーモラスというわけじゃなく、
ただ、そういうリアル。
いちど見ると、目が離せなくなっちゃうので、
展示数は少なかったけどけっこう長居しちゃいました。
そして裏庭でエスプレッソを飲む。
ヴァヴァン駅まで歩いて
「これぞモンパルナス」という街並みを見ようと思ったら
雨が降ってきた。無念。
きょうは傘を持ってきていない。
濡れて風邪を引いてもつまらないので、部屋にいったん戻ることに。
ラマルクコーランクール駅を出たら
雨に濡れた歩道が太陽でピカピカ。
となり駅方向に気になっている
スプーンとフォークが置いてある店があるので
覗いてみたけれど、やってない。
いつ通ってもやってない。
かわいいんだけどなあ。
部屋に戻ると中庭で猫が待ってた。
呼ぶと来るひとなつっこい猫2ひき。
部屋に入れてはあげられないけどね。
さて、夜はとのまりこさん夫婦と食事へ。
レピュブリク駅からすこし歩いたところにある
PHILOUというお店へ出かける。
こ、こ、ここがですね、
さすが、とのまりこさんのお店えらび!
前菜、メイン、デザートの3品だったんだけど、
ゆさぶられました。
前菜はサーディンの冷製、
茄子とトマトのピュレがたっぷり添えてあって、
にんじんやはつかだいこんもそれぞれ
「なんじゃこりゃ」な畑の味。おいしい土の味。
コリアンダーなどのハーブ、
レモンのコンフィがちょびっとのってる。
口に入れるときはこれを自分で組み合わせるわけだけど、
「ひと口ずつ」変化するわけです。
合わせる割合、口に入れる分量が変わるから。
どのタイミングでも濃厚な「うまみ」があって、
まいっちゃいました。
ワインはコンドリュ。はじめて飲んだ!
これがまた「ぎゃあ」っと椅子から体が浮く感動。
んまいようんまいよう。
つづいてはメインのお肉。
雷鳥にフォアグラをはさんで
ロティ&アロゼ(かなあ?)してある。
まず雷鳥って日本は国指定の特別天然記念物だし
フランスでも禁漁ということで
なかなか食べられないわけだけれど、
ジビエの季節に先駆けて、
アイルランドから仕入れたということだ。
2週間店の地下で熟成させ、捌き、こうして店頭に。
超絶な火加減。「ぷりっ」とナイフが入り、
といって生っぽすぎるわけじゃなく、
添えてあるのカシスのソースは、甘すぎないので
付けて食べるとこれがまたたまらない。
ワインは赤に。
Côtes du RhôneのDomaine de la Vieille Julienne、
これがまた、んもう、なんですかこれはー。
食べ終わってもワインがちょっと余ったので
チーズの盛り合わせをつつき、
さいごにデザート。
このお店、デザートもたいへん評判だからと、
最初に頼んでおいてよかった。
とのさんとたかしまさんはフィグのコンポート、
とのさんのご主人はクイニーアマンのバニラアイスのせ、
ぼくはパリブレスト。
クイニーアマンをひとくちもらって驚いたんだけど、
「ほんとのクイニーアマンっておいしいんだ!」。
パリブレストも、「これぞ!」という味。
アーモンドのプラリネをくわえたあの濃厚なクリーム!!
そしてドーナツ形のシュー生地。
たまらんです。
いやはや、あらためてジビエの季節、
秋がやってきたんですねえ。
おとといまで夏だって思ってたけど、
2週間前から雷鳥は準備されていたわけで、
こうして先取りをするのは
ファッションの世界だけじゃないんだな。
ちなみにきのうは国産の青首鴨が入ったそうで、
パリのひとは2週間後にこれが食べられるわけだ。
いいなあいいなあ。
せめて記念写真を!(なにやってるんだ)
そして今回の食事会は、このひともいました。
バブーくん! かわいいんだからもう。
たのしかった。時間は12時をとうにまわっていたから、
4時間以上も食べて飲んで話していたことになる。
店が終わって料理長の愛犬である
ジャックラッセルテリアのモジオ(まさか、藻塩?)くんが参加、
犬まみれになってたのしい会も終了。
運河を渡って、てくてく駅へ。
あちこちのカフェでは
閉店した(中は片づけている)というのに
店の前でずっと喋っている人たちがおおぜい。
急に秋が来たものだから、
ノースリーブもいればダウンジャケットもいる。
ゆく夏に手を振りながら、
しばしの別れを惜しむ気持ちのほうに一票。
とのまりこさんたちと、コンコルド駅で別れる。
ああ、「また明日ね!」が言えたらどんなにいいだろう。
旅のものには、それは禁句なのです。
朝食をどうしようかと考える。
台所にスーパーの硬くなったバゲットがある。
べつにどうということのないバゲットである。
卵もある。牛乳もある。はちみつもある。
角砂糖もある。棚を漁ったらシナモンもあった。
これは、フレンチトーストでしょう!
と決めてから、フランスでこれを
フレンチトーストって言うのかと調べたら、
‥‥言わないみたいですね。
pain perdu(ダメなパン)と言うらしい。
もうどうしようもなく硬くなったパンを
仕方なくこうして食べる、
いわゆる、びんぼうめしなんだそう。
おじや、みたいなかんじですかねえ。
おいしいけど、わざわざそれを? というような。
つまりきょうの朝食は、
わりと正しい残ったバゲットの活用法ということになる。
卵2個、牛乳適当、角砂糖1、シナモンふたつまみ、
そしてはちみつを適量。
このはちみつ、ナッツ入りなので
(というか、ナッツの蜂蜜漬けですね)、
それを切ったバゲットの空洞に詰めてみた。
そんな料理はないと思うが、
急がない旅の朝に、こういう作業は楽しいものである。
パンがしっとり卵液を吸ったら
(そのために一晩くらい置いておきたいところだけど)
弱火でじっくり両面を焼いてできあがり。
ひじょうにおいしくできました。
それから残り物のヨーグルトと、ネクタリン。
ぼくはふだん朝ごはんはスムージーに納豆ごはんとか、
そういう感じなので、こういう朝食には
たいへんな違和感があるのだが、
非日常ということでよしとする。
あらためて言うけど、キッチンつきの宿に泊まる旅、
ほんとうにおすすめですよ。
なにかと思うようにはならないんだけど、
そこがまた楽しい。
さて、きょうはまず、
モンパルナス駅で、Saint-Maloへの往復切符を
入手しなければならない。
木〜金の一泊二日で行ってこようと、
ネットで予約をすませ、
あとはチケットを受け取るのみなんである。
モンパルナス駅の窓口は時間がかかるから
当日だとかなりドキドキしそうなので
前もって受け取っておこうという魂胆。
ラマルクコーランクール駅からモンパルナス駅までは
12号線で一本。
ということでモンパルナス駅。
地下鉄から国鉄まではけっこう距離があった。
しかも窓口の場所がわかりにくいうえ、
最初、並ぶ列を間違えた(今日の切符の列に並んじゃった)。
けれども窓口の女性はとても親切で、
なにごともなくチケット入手。
よかった。
せっかくモンパルナスに来たのだからと
カルティエ財団記念美術館に向かって
モンパルナス墓地を通り抜けることに。
ところがこの墓地、あのひとやこのひとが眠っている、
それはそれは有名な墓地なんである。
案内表示板を見て「ぎゃあ」となってしまった。
だってだってだって、
ヴォードレール、デュラス、マン・レイ、
コルタサル、ブラッサイ、ゲーンスブール、
サルトル、イヨネスコ、ベケット、モーパッサン、
ツァラ、ジャック・ドゥミ‥‥。
そんなひとたちが一堂に会するなんて、さすが墓地!
ってなんだか妙な気もするけど、
幾人かの墓前で手を合わせてきました。
ゲーンスブールは死後なおモテモテでした。
キスマークだらけ。
歩き回ったらすっかり腹が減ったので
てきとうなカフェに入り、またもやtartare de boeuf。
ここのは、最初から味がついてて、混ざってた。
やっぱりおいしかったあ。
さて、カルティエ財団記念美術館では
Ron Mueck(ロン・ミュエク)をやっていた。
そういえば2006年に来たときもやってたんだよなあ。
なんだか妙に縁がある(と勝手に感じている)彫刻家。
スーパーリアル、かつ、縮尺が妙な
(やけにでかかったり、ちいさかったりする)人体彫刻の人。
毛穴や体毛、加齢による肌の変化や血管までもが
これでもかという迫力で迫り、
その表情はやけに鬱屈としている。
ハッピーなはずのシチュエーションでも、
「やれやれ」という顔をしている。
ユーモラスというわけじゃなく、
ただ、そういうリアル。
いちど見ると、目が離せなくなっちゃうので、
展示数は少なかったけどけっこう長居しちゃいました。
そして裏庭でエスプレッソを飲む。
ヴァヴァン駅まで歩いて
「これぞモンパルナス」という街並みを見ようと思ったら
雨が降ってきた。無念。
きょうは傘を持ってきていない。
濡れて風邪を引いてもつまらないので、部屋にいったん戻ることに。
ラマルクコーランクール駅を出たら
雨に濡れた歩道が太陽でピカピカ。
となり駅方向に気になっている
スプーンとフォークが置いてある店があるので
覗いてみたけれど、やってない。
いつ通ってもやってない。
かわいいんだけどなあ。
部屋に戻ると中庭で猫が待ってた。
呼ぶと来るひとなつっこい猫2ひき。
部屋に入れてはあげられないけどね。
さて、夜はとのまりこさん夫婦と食事へ。
レピュブリク駅からすこし歩いたところにある
PHILOUというお店へ出かける。
こ、こ、ここがですね、
さすが、とのまりこさんのお店えらび!
前菜、メイン、デザートの3品だったんだけど、
ゆさぶられました。
前菜はサーディンの冷製、
茄子とトマトのピュレがたっぷり添えてあって、
にんじんやはつかだいこんもそれぞれ
「なんじゃこりゃ」な畑の味。おいしい土の味。
コリアンダーなどのハーブ、
レモンのコンフィがちょびっとのってる。
口に入れるときはこれを自分で組み合わせるわけだけど、
「ひと口ずつ」変化するわけです。
合わせる割合、口に入れる分量が変わるから。
どのタイミングでも濃厚な「うまみ」があって、
まいっちゃいました。
ワインはコンドリュ。はじめて飲んだ!
これがまた「ぎゃあ」っと椅子から体が浮く感動。
んまいようんまいよう。
つづいてはメインのお肉。
雷鳥にフォアグラをはさんで
ロティ&アロゼ(かなあ?)してある。
まず雷鳥って日本は国指定の特別天然記念物だし
フランスでも禁漁ということで
なかなか食べられないわけだけれど、
ジビエの季節に先駆けて、
アイルランドから仕入れたということだ。
2週間店の地下で熟成させ、捌き、こうして店頭に。
超絶な火加減。「ぷりっ」とナイフが入り、
といって生っぽすぎるわけじゃなく、
添えてあるのカシスのソースは、甘すぎないので
付けて食べるとこれがまたたまらない。
ワインは赤に。
Côtes du RhôneのDomaine de la Vieille Julienne、
これがまた、んもう、なんですかこれはー。
食べ終わってもワインがちょっと余ったので
チーズの盛り合わせをつつき、
さいごにデザート。
このお店、デザートもたいへん評判だからと、
最初に頼んでおいてよかった。
とのさんとたかしまさんはフィグのコンポート、
とのさんのご主人はクイニーアマンのバニラアイスのせ、
ぼくはパリブレスト。
クイニーアマンをひとくちもらって驚いたんだけど、
「ほんとのクイニーアマンっておいしいんだ!」。
パリブレストも、「これぞ!」という味。
アーモンドのプラリネをくわえたあの濃厚なクリーム!!
そしてドーナツ形のシュー生地。
たまらんです。
いやはや、あらためてジビエの季節、
秋がやってきたんですねえ。
おとといまで夏だって思ってたけど、
2週間前から雷鳥は準備されていたわけで、
こうして先取りをするのは
ファッションの世界だけじゃないんだな。
ちなみにきのうは国産の青首鴨が入ったそうで、
パリのひとは2週間後にこれが食べられるわけだ。
いいなあいいなあ。
せめて記念写真を!(なにやってるんだ)
そして今回の食事会は、このひともいました。
バブーくん! かわいいんだからもう。
たのしかった。時間は12時をとうにまわっていたから、
4時間以上も食べて飲んで話していたことになる。
店が終わって料理長の愛犬である
ジャックラッセルテリアのモジオ(まさか、藻塩?)くんが参加、
犬まみれになってたのしい会も終了。
運河を渡って、てくてく駅へ。
あちこちのカフェでは
閉店した(中は片づけている)というのに
店の前でずっと喋っている人たちがおおぜい。
急に秋が来たものだから、
ノースリーブもいればダウンジャケットもいる。
ゆく夏に手を振りながら、
しばしの別れを惜しむ気持ちのほうに一票。
とのまりこさんたちと、コンコルド駅で別れる。
ああ、「また明日ね!」が言えたらどんなにいいだろう。
旅のものには、それは禁句なのです。