コンサートの幕間に階段で声をかけられた。
それが10年ぶりくらいにお会いする方だと、
顔を見てしばらく(といっても4秒くらい)わからなかった。
とても、なんというか、
(人のことは言えませんが)
巨大になっていたのです。横に。
「あ! ああ、ああ!」とびっくりしていたら、
顔色悪く「脂肪肝なんです」と。
「そりゃ痩せたほうがいいですよ!」
(人のことは言えませんが)
と、言わんでもいいことを言ってしまうわたくし。
「でも、なかなか痩せられないんですよ」
というので、
「それは、本気じゃないからでしょう」
と、久しぶりの人に厳しく言ってしまいすみません。
ああ、ほんとにこの口が、この口が!
でもほんとにダイエットが成功しない理由は
(人のことは言えませんが)
ひとつだけ、本気じゃないからです。
で、しまった! と思って
話すことがなくなって詰まっていたら、
「しあわせは、つづいていますか」
と、訊かれて、ふたたびびっくり。
え、そういうこと、訊きますか。
「しあわせという言葉で人生をジャッジするのは
死んでからでいいです」とも言えないし
「幸や不幸は、もういいじゃないですか」
と『自虐の詩』の受け売りみたいにも言えないし、
「しあわせかどうかわからないくらいで
ちょうどいいんじゃないですか」というような
適当なごまかしも思いつかなかったし、
「それが、いろいろありましてね」と
積もる話をする気はさらさらないし、
「不幸に決まってるじゃないですか、わはははは」
と言えるほど人間できてないし、
「そんな質問するなんて、
いつもそんなことを考えてるということですよね。
よほど、おつらいのでしょうか」
とかカウンセリングめいたことも言えないし、
「よけいなお世話です、人の人生に立ち入るんじゃない」
とも言えないぞとぐるぐる考えすぎて、
「あ、はい、おかげさまで、ぐほほほほ」と、
中村玉緒のように挨拶してそそくさと立ち去りました。
しつれいいたしました。
しかしこれは、「仕事忙しいですか」
と訊かれたときのようなものなんでしょうね。たぶんね。
「ぼちぼちですねえ」と答えるべきでした。
だって、わかんないもんねえ、そんなの。