プラハでどっと疲れが出た。
パリの疲れが出た、というよりも、
年末進行とイベントとを乗り切った緊張が
パリの興奮を抜けて、今になって、とけて、
風邪なのか疲れなのかわからない状態になっちゃいました。
熱があると言えばある。
でもいつものようにのどが痛いとか頭痛がするとかではない。
食欲はあまりない。
朝、熱い風呂に入り、それでも体がリセットしなかったので
そのまま外出することをやめにする。
一日くらい休んでもいいでしょう。
もうここは祝祭のパリではないのだし。
一日だらだらとすごし、しかも早く眠りにつき、
翌日の昼12時まで連続15時間くらい連続でぐっすり寝た。
ちょっと腰が重いのと、「完璧!」な食欲はないけれど、
手にも力がはいるし、外に出たい気分も出てきた。
フルーツとヨーグルトで軽い朝食をとったあと、
シノさんにつきあってもらい、プラハ市街を散歩することに。
シノさんの家はプラハ6区にあり、
そのあたりはかなりの高級住宅地で、
プラハ城までてくてく15分だ。
氷点下ではない、というくらいの冷気だけれど、
思ったような寒さではない。
ちょっと厚着しすぎたせいで、歩くと汗ばむくらい。
ぼくはすぐ頭から汗をかくので
たぶん湯気の出ている頭をハンドタオルで拭きながら、
お城を抜けて旧市街へ。
今日は雑貨を買うのだ。
がらくた‥‥というとなんだけど、
アンティークとかヴィンテージに弱い。
「一点もの」にすごく弱いんです。
で、なにを買いたいかというと、
まずフレンチ・カフス。
プラハにはいかにもありそうじゃないですか!
そして、チェコといえばクリスタル!
ふだん使いのゴブレットがほしい。
あと、エスプレッソカップ!
それはヴィンテージじゃなくてもいいけどね。
そして、いいのがあれば、腕時計、カメラ。
まあ、それはなかなか難しいだろうから、
そんなものを頭におきながら歩きましょう。
シノさんおすすめの店を回る。
フレンチカフスは、ほんとうにがらくた的なものは
けっこうあったんだけれど、
これぞ! というのに出会わない。
かわりに、アール・デコの店で、
懐中時計の鎖らしきもの。
なんていうんだろう、錨にも見えるし、
ロケットの部品にも見えるような、
そんなレトロ・近未来的なデザイン。
そして、謎の1940年10月1日の刻印の入った文鎮。
結婚式の引き出物とか、偉い人の授賞式とかのお土産にでも
したんだろうか。そんなものを買う。
ゴブレットは、いいのもあるんだけど、
できれば2つセットでほしい‥‥と思うと、
これがなかなかないのですね。
数千円だから、えいやっと買える値段だけど、
「保留」にしました。
13世紀のガラス工芸のレプリカ(小さな花瓶)に、
とてもいいものがあって、それは1万5000円くらいかな、
これも悩んで、「保留」に。
‥‥割れちゃいそうな繊細さゆえに躊躇。
魚の模様が描いてあって、
魚座のぼくにはぴったりなんだけど。
エスプレッソカップは、
妙に今ふうなデザインものには
悪くないものもあったけれど、
「プラハらしい」かというとそうでもない。
決め手に欠けるものが多い。
これは明日にゆずろう。
BELDAさんという作家ものの店へ。
ちょっと「指輪」というものに興味があって、
そう言ったらシノさんが、ここがおすすめ! と、
つれてきてくれたのだ。
たしかに指輪にもいいのがあったんだけど、
指輪って難しくて、だからぼくは
いままでふだんはめたことがない。
なにをもって「似合う」と言うのかわからないんですよ。
じつは時計もそうなんだけど、
アクセサリーにおける「身の丈」がわからないのです。
「おまえ、なにものだ」と言われるような感じは、
洋服はOKなんだけど、アクセサリーはちょっとダメ。
なんか‥‥「本気(マジ)」って感じがしませんか。しないか。
あと「意味」とかを余計に考えてしまったりね。
女子のみなさんはそのあたりは大丈夫なんだろうな。
で、一瞬、オニキス入りの指輪に魅かれるものの、
(たいへんキレイだったし、エレガントかつ男っぽかった)
はめて、鏡にうつしてみたら
「‥‥これは、いやらしい」と思える人がそこにいた。
助平という意味ではないんだけど。
‥‥やめました。
で、同じデザイナー作品の、カフスに。
これならいやらしくない。
これはとてもいい買い物だったとおもう。
そのすぐ隣に、デッドストックの腕時計を扱う
ちゃんとした時計屋があって、
ウインドウに、「あわわわわ」というような
腕時計が並んでいた。‥‥中に入る。
ちゃんと動くヴィンテージ(1940年代ものが多い)ウオッチ。
最初にいいなあ、と思ったものは15万円。それは買えない。
次にいいなあ、と思ったものは5万円。それなら買える‥‥。
さあどうしましょう、と散々悩むも、これも「保留」。
ちなみにオメガでした。
とても品のいい、カジュアルウエアよりもスーツに合わせる
オトナの男のエレガントな時計でした。
もうちょっと武骨なものもあって
個人的にはそういうもののほうが好みなんだけど、
「うーんうーんうーん」と、なにかと決め手に欠ける。
一目ぼれ、だったら買うんだけど、
なんかお見合いのような感じになってきたので
いったん保留にいたしました。
カメラ。2軒ほど、ヴィンテージカメラを扱う店へ。
ライカやCONTAXはほとんどない。
思いっきり古い、旧東製のカメラとか、
そういうものはおもしろい‥‥思いつつ、
こちらは「知識がない」ので買うのに躊躇。
使えるかどうかわからなくて。
置物だと思ってもいいんじゃない?
という感じの値段ではありましたが。
コンパクトカメラなのにブローニー、というのも
あるんですね〜。そういうのも面白いけどね〜。
ちなみにごはんは、
ホスポダ(パブ)で、ビールを1杯と、
豚バラのオーブン焼き、ソーセージ。
2人分で1000円‥‥安い。
10年前に来たときに、プラハのレストランで
「うまい!」と思った記憶がないんだけれど、
こうして食べるパブのつまみ類はおいしいみたい。
残念なのは食欲があまりないことだ。
豚バラなんて好物なんだけどなあ。無念。
ハム屋でハム類を買い、
スーパーマーケットで野菜やジュースや
チーズやパスタを買い、シノさん宅へ帰る。
ちょっと休んだら自炊だ。
●
プラハ3日目、といっても初日は寝込んでいたので
実質2日目にして、もう、楽日。
たのしかった旅もきょうでおしまいだ。
明日の午前中の英国航空ロンドン経由で東京に向かう。
夢におばあちゃんが出てきた。
夢のなかでおばあちゃんはちょっと惚けていて、
そして足が悪くて外出できずにいて、
こうして外をとびまわっている僕をうらやましいと言った。
そして、とつぜん軽々と歩いたかと思うと
にっこり笑って、屋上からぽーんと飛んでいってしまった。
おばあちゃーん! おばあちゃーん!!
と絶叫したところで目が覚めた。
涙が出ていた。
そういえば、祖母が死んだのは、
10年前に、ぼくが東欧の取材に出る前の日で、
そのためにぼくは彼女の通夜にも葬式にも出られず、
取材を続けて2週間くらいたってから、
やっぱり夢を見て、泣きながら起きたのだった。
あれもプラハだったような気がする。
記憶の通底機が、作動したのかもしれないなあ。
さてさて、そんな夢を見たわりに
朝はとても元気になっていた。
今日は歩く!
なにしろ旅の最後の1日。
歩く! そいでもって買う!
まずは腹ごしらえ。
生野菜にハム、ベーコン、鴨の薫製、
フォワグラ、スコーン、トマトジュースにフルーツ、
ドリンクヨーグルト。どっさり食べて準備完了。
旧市街へトラムで出て、
アールヌーヴォーの傑作オヴェツニードゥーム
(市民会館)、ゴチャール作のキュビズム美術館、
さらにハヴェルスカー(青空市場)を回り、
ヴルダヴァ川沿いのカンパ美術館。
道はまだ雪が残っていてちょっとぐちゃぐちゃしていたけど、
滑るということはない。気温はたぶん零下。
でもダウンを着ていれば寒くはない。
途中、カフェに寄ったり、店に寄ったり。
店は、がらくた屋を何軒か。
ヴィンテージとか、ましてやアンティークなどとは、
とても言えない、がらくたというより
「くず屋」のような店もあったけど、
実はそういうところのほうが楽しい。
指をまっくろにしていろいろ探す。
昔のホテルのステッカーだとか、
薬用酒のオマケになっていた杯だとか、
ひとつ1コルナ(5円!)という、
いろんなメーカーがプロモーション用につくったピンとかを
どさどさ買う。
ピンはまとめて200コ買いました。
しかし、ピンといっても
「バッジ」として出来がいいわけではなく、
ほんとうに、針の先にロゴマークがついているだけ。
それをざくっと、シャリシャリ袋に入れるものだから、
針がざくざく飛び出て、歩く凶器と化しました。
店のおじさん(その名もチャペックさん)は
「そうか日本人か!」と言ってなぜか頭をなでてくれた。
妙なところでモテる。
スーパーマーケット‥‥というか、
ダイクマとかそういう感じの店に行く。
チェコ製メモ帳や、チェコ製紙ナプキンとかを買う。
雑なつくりだけど、なかなかカワイイ。
チェコ帽子屋に行く。
「これはあの方に似合うのではないか!」と
シノさんと共通の友人である年長の紳士に
これは日本では売ってないよなというデザインの帽子を買う。
さて、最後は、昨日迷って保留にした時計です。
オトナっぽい円形の白と金の文字盤のオメガか、
小僧っぽい黒とシルバーの、スイス名の判読できないブランドか、
そのふたつが頭にあったんだけど、
同じ店の別のショーケースに、
にび色に光る角形のオメガを見つけた。
OMEGA RECTANGULARというやつだな〜。
文字盤はしんちゅう色というのか、
古ぼけてもとが何色だったのか不明だけどたぶん白。
文字盤は、
┏━━━━━━━━┓
┃ ┃
┃11 12 1┃
┃ ┃
┃10 2┃
┃ ┃
┃9 3┃
┃ ┃
┃8 ┏┓ 4┃
┃ ┃┃ ┃
┃7 ┗┛ 5┃
┃ ┃
┗━━━━━━━━┛
という並び。数字は蓄光塗料でもりあがっている。
1〜5と7〜11がまっすぐ縦一列で
12がやや大きめ。6はない。そこに秒針の別枠。
腕にそってゆるく湾曲しており、
デザインはまぎれもなくアールデコ。
聞いたら1935年あたりの製品だということだから、
あららら、ほんとうにほんもののアールデコである。
この店はプラハいち信用のおける時計店で、
こうしたヴィンテージウオッチも、
基本的にはデッドストックものの未使用品という。
皮のベルトは新品に交換されていて、
濃紺というか紫というか、なかなか独特な色。
ちょっと見せていただけますか。
掌にのせてみる。とても美しい‥‥。
お値段は? ふむ‥‥これはものすごく安い。
といっても、西側の値段からしたら、ということで、
ぼくとしてはもうあきらかに、
この旅の総予算からオーバーする金額である。
すぐケースに戻してもらった。
で、ほかのものを見る。
見るけど、‥‥どうもあの角形が気になって。
もういちど見せてください。
ちょっとつけさせてもらおう。
‥‥これがいけなかった。
腕につけた瞬間、心臓がとくとくとくとく‥‥と。
あちゃーっ、しまった、これは、出会ってしまいました。
「ちょ、ちょっと待っててください、
銀行に行ってきます」と、
角を2つ曲がったところにある
ATMで現金をおろしてきた。
(今回、ホテル以外はカード使わないぞと決めたので!)
ぜいぜいはぁはぁ‥‥。
こちらでおろせるように設定した金額をオーバーしていて、
数万円分をシノさんに借りる。もうしゃけない。
すぐ振込みますから!
そして、購入。
はぁはぁぜいぜい‥‥。
買っちまいました‥‥。
精根尽き果て、財布もほぼカラになり、
トラムに乗ってプラハ6区へ戻る。
1つ手前で降りて、パブでごはん。
キノコの酸っぱいスープに、
グラーシュ(牛煮込み)、クネードリキ(煮パン)、
ハルシュキ(イタリア料理で言うとニョッキ)、
あとはビールを1杯だけ。
かなりおなかがいっぱいになる。
そして、10年前の「プラハは不味い」を
またも覆す、しっかりおいしい料理でした。
(でも市中の観光客でにぎわう店はやっぱり
‥‥おいしくないと言うけれども。)
さてこれから荷造り。
いっぱい買っちゃったけど、トランク、入るかなあ?