●胃袋の弥次さん喜多さん。初日。
三泊四日の京阪旅行に行ってきました。
旅の相棒はぼくと同じペースで歩き、同じものを注文し、
同じだけ食べるやつです。食べるのはぼくのほうがちょと早いけど。
9時20分東京駅発、チキン弁当発見できず。
幸先わるっ! というほどでもないか。
鶏づくし弁当とシューマイ(半分こ)。
京都は近い。喋ってたらもう着いた。
京都ブライトンホテルに直行、荷物を預けてすぐ西本願寺へ。
降誕会(ごうたんえ)という、親鸞聖人の誕生会。
ハッピーバースデイ親鸞! のお茶会を
ふだんは非公開の飛雲閣という、
秀吉の建てた楼閣建築で行なう、というので、
本願寺出版社のフジモトさん(美女)から誘っていただいたのです。
飛雲閣。
ほんらいは船で入るようにできているんだけど
なにしろ人数が多いので今回そういう遊びはできないらしい。
20人ずつ入り、ひととおり説明を聞きながら
お茶‥‥なに流だったかな、薮内(やぶのうち)流?
横の人を真似ていただけばいいや、とたかをくくっていたんだけど
隣のひと、ものすごい所作の早いおばちゃんで、
ぜんぜんついていけず、お菓子を食べる間もなかった。
ポケットにつっこんだらぐしゃっと潰れちゃった。
あまりの緊張によく覚えてないくらいなんだけどね。
特設テントで本願寺出版社の担当編集者フジモトさん(美女)と合流。
アラーキーの『飛雲閣ものがたり』を買い、
本願寺のなかをがんがん案内してもらう。
ふだん入れないようなところまで見せてもらう。
ものすごい天井絵、ものすごい欄間、
ものすごい襖絵、ものすごい庭。
でももちろん入れないところもいっぱいある。
黒書院、という、坊さんしか入れないという
まるで薔薇の名前なエリアには
さすがにフジモトさんすら入れないらしいです。
本願寺をあとにして、散歩。
鴨川べりだの、先斗町だの、
祇園だの、錦小路だの、延々と歩く。
夜、うまいものを予約しているので
あんまり食べないようにしよう! おーっ!
とかたく誓い合って、
ふらふらと「抹茶パフェ」とか「わらびもち」の
ショーケースに向かう足を制し、
口にしたのはイノダコーヒ(最後の音引きなし)でコーヒー、
祇園でフルーツジュース、のみ。
がんばりました!
夜、八坂の塔の脇にあるイタリアン
「イル・ギオットーネ」へ。
さんざん迷って、五条まで行っちゃったりしつつ、
なんとかたどり着いたんだけど、
ほんとに八坂の塔の脇なんですね!
もうこの先なんにもないよという路地の奥。
アラーキーさんたちはすでに到着しており
にぎやかな笑い声がひびいておりました。
ほんとうは同席をと誘ってくださったんだけど
あちらはお仕事、ぼくらは遊び、
テーブルを分けてもらった。
緊張しちゃうと味がわかんないものね。
さて、いただいたのは1万円のコース。
・ 剣先イカ、生うにの、朝どりキュウリのペーストのせ。
・ オマール海老とピーマンのムース、
トマトのシャーベットぞえ、キャビアのせ。
・ 揚げたポーチドエッグと、イベリコ豚の生ハム、
アスパラガスのムース。
・ フォアグラと新たまねぎのローストと、
新たまねぎのプリンの、粉にしたフォアグラのせ
・ 若あゆの炭火焼とルッコラのぺペロンチーノ
・ 豚とたけのこの手打ちタリアテッレ、白トリュフのせ
・ 羊のロースト、ソラマメのペーストのせ、グレイビーソースで
・ エスプレッソのプリンとピスタチオのシャーベット
・ チーズのムースといろんなベリーのババロア
・ ダブルエスプレッソ
それぞれ、きっちり量もあって、
それぞれ、独創的かつ美しく、
それぞれ、たいへんうまかった!
驚いたです。京野菜の使い方がすばらしい。
これは東京では食べたことのないイタリアン。
しかしもっと驚いたのはアラーキー氏が
ぼくの相棒に、彼が名乗る前に
「ケンタロー!!!」と名指ししたことだ。
そう、同行者の名前は賢太郎。
なぜわかったのかは、本人もわからないそうで
「ほんとにケンタローなの? おれがいちばんびっくりだよ!」
と言っておられた。
「びっくりしたからこれあげるよ!」
と、人妻不倫テレカをいただきました。ヘアヌード。
あまりに驚いたのですぐに腹が減ってしまいました。
さてその他の驚き。
1)京都の市バスって、
乗り降りのさいにエアサスで傾ぐんですね。
2)信号待ちのカブに乗ったおっさん、
何か配達中らしいんだけど、
かばんからモーツァルトの楽譜を出して見てた。
●胃袋の弥次さん喜多さん。2日目。
回想の京都、2日目朝、イノダコーヒ本店で
ビフカツサンド、たまごサンド、フルーツサンド。
もちろん2人だから量は「÷2」ですからね。
足りないけど。
早朝のイノダコーヒは、地元のじいさんばあさんが
大挙して朝食をとりつつ、談笑していた。
「青春18きっぷで、次はどこへ行くか」
というような話題のようです。元気です。
京都は散歩できる路地がいっぱいあるので
年寄りが元気なんだそうです。
たしかにぼくらも京都の町中ではいっぱい歩いた。
四条河原町あたりは歩けないくらい人がいるけど
路地はたしかに歩きやすいし、楽しかったです。
いったんホテルに戻り、チェックアウト、
荷物を預かってもらって、
出町柳から叡山電車で貴船口まで。
噂に聞く貴船神社に行ってみたかったのでした。
水占とか、奥の院とか、神秘的じゃないすか?
しかしなんの御利益があるのかまったく知らずに
参拝するわれわれ。
せーの、二礼二拍手一礼!
説明を読んだら‥‥「縁結び」だそうです。ありゃ?
そういうわれわれの姿を見て混乱したのは
神様ではなくて、女性の一人旅
(ちらほら。さすが縁結び)の
参拝客だったかもしれません。すみません。
昼食は、観光地だから期待してなかったのと
川床は、5000円から、みたいな感じだったので、
(それって高すぎない?)
てきとうに蕎麦でも‥‥と、「あゆそば」を食べる。
甘露煮の鮎が2尾のってる。
ありゃ? けっこううまいですよ。
蕎麦は、まあ、こんなもんかの味なんだけど、
全体的にまずくない。悪くなかったです。
さて貴船の川沿いに
鞍馬寺に至る鞍馬山の入り口があったので
何気なく入ってみる。
デヴィ夫人のような門番のおばちゃんに先制攻撃を受ける。
それも意味がわからない「ぼやき」を‥‥
「そこに芋虫がおりますやろ。
女はあかん。それ見てぎゃあぎゃあいいよる。
そやけどチョウチョになったらな、
きれいやのなんのと、愛ではりますでしょう?
ああ、女はあかん。入山料200円ずついただきます。おおきに」
混乱しつつ、入山? ‥‥山だった、ほんとに。
ここって修験道関係だっけ? 山伏系? 天狗いるかな?
階段なんてなくて、木の根を滑り止めに、
行けども行けども登り。
汗をぽとぽと落としながら歩き、
「魔王殿」(すごい名前だなあ)
「鞍馬寺」「由岐神社」を巡る約2時間。
鞍馬駅に出て、市内に戻ってきました。
御利益は「なんでも」だそうです。ふうむ。
天狗のキーホルダーは迷ってやめた。
ちょっとファンシーでした。
ホテルで荷物を受け取って、
友人の伯母さんの宿に異動。
若女将は職場関係の友人の従姉妹。京美人とはこのことか!
八坂神社の上、知恩院を借景にした、みごとな和の宿。
ただ「ぼー」っとしているとどんどん時間が過ぎて行く。
派手ではなく、すみずみまで清潔で、
気づかないうちにいろいろなことが
セッティングされているような宿。
逗留中(←わーっ、この言葉の似合う宿!
でも人間として似合うかというと、そうではない)に
世話をしてくれる若女将のほかは、
わざわざ挨拶に来てくださった大女将に会っただけで
ほかのお客さんにも会うことはなかった。
鳥が啼き、木がざわめく。
もう、このままずっとここで
ぼーっとしていたいくらいだ。
夕方おそめに、食事に外に出たほかは、
あとはのんびり。ただひたすら、のんびり。
テレビなんか一回もつけなかった。
ふたりでくだらない話をして、
風呂に入って(すばらしい風呂でした)寝るだけなんだけど
ほんとうに気分がよかったのでした。
風呂は総檜。家族風呂というか、
部屋ごとに呼ばれて入るんだけど、
前に誰か入ったとは思えないほど徹底した清潔さ。
しかし二人で入って出たら、湯が半分くらいになってしまった。
ぼくのせいじゃないですよ。体積的には!
静けさという音のなかで、もっと起きていたかったけど、
明日もあることだし、就寝。
朝方雨が降ったんですが、
屋根に当って落ちるその音を聞きながら、
うつらうつら。幸せだなあ。
しかしだ。賢太郎(相棒)はひどい寝言の癖があり
初日は「英語で怒り、トランペットのような屁をこく」という
とんでもないパフォーマンスで笑わせてくれたんだけど
この日は「んおーーーーーーーっ!!!!」と、
ものすごい叫び声をあげて、鼓のような屁をしていた。
「あの宿は鵺が出る魔界の宿だ」というような
評判がたたなければいいのだが。
●胃袋の弥次さん喜多さん。3日目前半。
夜が明けてまたひとっぷろ浴びて、朝ご飯。
そのおいしいことおいしいこと‥‥
39年と2か月のなかで
いちばん旨い朝ご飯だったかもしれないです。
やつは40年と1か月のなかで
いちばん旨い朝ご飯だったそうです。
よかったねー。
食事後に、また、風呂。
「いかがどすか」と言われたので
「ええどすなあ」と入る。
ざっぷ〜ん、と入ると、二人分の湯がどどどどっ。
たいへん贅沢。また湯が半分になってしまいました。
備え付けのアフターシェーブがアラミス。
やっぱりそういう年齢の人が泊まるってことだよな。
40前後はアラミスは使いません。
ちょっとつけたらやけにおっさんになった気がしました。
若女将からおみやげにちりめん山椒をもらい、
四条河原町までタクシーで出る。
こういう旅館で呼ぶのはぜったいヤサカタクシーですね。
親切なヤサカタクシー。
そして梅田行きの阪急電車・特急に乗る前に、
高島屋でわらび餅を買う。おやつ。
ちょっとハラがね、すいちゃって。
お茶も買って、さっそく食べる。
うまいねえ。うまいうまい。
あほやな。あほですわ。
さて、大阪は、梅田の阪急インターナショナル
に17時チェックインの 特別料金で
安く(ものすごいディスカウント料金で)
泊まることになっていたんだけど
荷物だけ預かってもらうべく直行。
フロントの女性たち、やけにきびきびしていて、
まるで男装の麗人だ。言葉遣いも、タイミングも、
ほんとにそんな感じ。ふしぎだなあ‥‥
あとで聞いたら、ここのマナーの先生は
宝塚のマナーの先生でもある人なんだって!!
だから、そういう対応なんですね‥‥
もし泊まることがあったらチェックしてみてください。
部屋は27階、観覧車が見える。
これ、定価5万くらいの部屋だよ、と、
もとホテルマンの相棒が言う。
フロントの対応も、ベルボーイの感じも、すばらしく、
昭和天皇やエリザベス女王にサーブしたことがある
VIP係だったやつなので、
サービス業の人間の対応にはいちいち厳しいんだけど、
今回の旅の3つの宿は合格だそうです。
ほっ‥‥ぼくが予約したもので。
荷物を預けたので、心斎橋に出ることにする。
地下鉄の駅を探すも、迷う‥‥
すぐ地下に入れば、地下街経由で行けたものを、
地上で専用の入り口を探そうとしたのが間違いだった。
わからないままにどんどん妙な方へ。
そもそも方角がちがうぞとわかったのは
30分以上歩いてからでした。
サラリーマンに道を訊ね、歩くも、
日本橋? 黒門? どこここ?!
それでもなんとか千日前のアーケードに行き着く。
「重亭」でポークチャップを食べたかったんだけど
ついに見つからず、なんばグランド花月の前の
たこ焼道場「わなか」で軽く食べる。
ねぎポン(ねぎのせ・ポン酢がけ)(9コ)と、
ふつうのソースとマヨネーズ(12コ)。
うめえうめえ。こりゃうまい!!
すごいよなあ。すごいよねえ!!
ちょっとハラが落ち着いたので
あらためて大丸の近くにある明治軒まで歩く。
いやあ、ほんとによく歩くね。
ペースが同じなのうえに路地好きなぼくら。
迷うのも旅の楽しみってことでね。
さて明治軒ではオムライス。ぼくは銀串つき。
あいかわらず庶民的においしい!
大阪ってこういうものがおいしいんだなあ。
がつがつ食ったらちょっと疲れた。
ムーンライダーズのライブまでに、
ちょっとまだ時間があるねえ。
眠りたいけどチェックインはまだだし。
さてどうしようか。
たこやきとオムライスとカツで腹もいっぱいになった16時。
すごく眠くなったけどホテルのチェックインは17時、
ムーンライダーズのライブは18時開演、なわけで、
好き勝手うろうろするにも雨が降ってきた。
二人でも面白いことってなんだ?
カラオケ? ビリヤード?
パチンコはひとりでするもんだしねえ。
ビリヤードいいねえということで
そこらへん(アメリカ村とか)をぐるぐる歩いて探したけど、
ぜんぜん見つからず‥‥足が疲れたよねえ。
そだ「てもみん」ないかな? ナイスアイデア!
と、クイックマッサージを受けるべく心斎橋筋をうろうろ。
「コリトルネード」というベタなネーミングの
マッサージ屋発見。ここにしよう。
ぼくは足裏マッサージ、相棒は半身マッサージ。
小一時間そこですごして、
ちょうどライブ開始30分前になりました。
よかった、有意義に時間がつぶせた‥‥と思ったのは僕だけで
「いちばんコッてるふくらはぎを、揉んでもらえなかった」
と悲しそうにしている。
これから2時間オールスタンディングライブはつらそうだよな。
あとで宿で揉んでやるから泣くなよ〜。
さてライブは時間通りにスタート。珍しいね!!
満員のお客さん、とてもうれしそう。
あ、どんべえさん来てたんだ。
福田利之さんと酒井田さんの、
ブックレットチームにもお会いできた。
たいへん楽しいライブ。
初めてムーンライダーズを見た相棒は
「酔拳のようだ」と評する。なるほどねえ!
緩急の自在なかんじ、決めるところの激しい感じ、
のわりに、抜けてるところのユーモア、まさに酔拳なり。
終わって、ホテルにチェックイン。
パソコン仕事をする相棒を残し
ぼくだけ打ち上げに途中から合流して1時すぎに戻る。
そういえば旅の最後の夜だった。
なんだかんだ喋ったりしてたらどんどん時間が経って
眠るのが惜しくてならない。へんな感じだな。
昔書いたことがあるんだけど
コドモのころ友達に「またあしたね!」と言えば
それはほんとうに「またあした」会えるに決まってた。
でもこんな年齢になると「またあしたね!」なんて
言えるはずもなく、こうして旅をするなんて
ほんとうに一生懸命調整しないと、できない。
この3日間は「またあしたね!」が戻ってきた
奇跡のような日々だったんだよな。なんて思いつつ
やっぱりくだらない話を延々とした。
とりあえずこの夜があけての「あした」は来るんだけど
午前中の新幹線で東京にもどって、
そのまま仕事に行くわけで、
明るくなったら、ぱちん、とスイッチが入るように
それはもういつもの日常が始まる合図だ。
朝、めしも食べずに時間まで部屋でぼーっとする。
なかなか気持ちが切り替えられないままに荷造りして
地下鉄で新大阪駅へ。
水了亭の弁当と天むす、シュークリームとお茶を買い、
食べ過ぎ旅行もおしまい。
ぼくだけ品川で降りて魚籃坂の事務所へ向かった。
旅はほんとうにおしまいだ。