食べる量が少ない、と、
トレーナーに怒られる。
「けさは何を食べましたか」
このくらい食べた、というと、
「‥‥。」
と無言に。睨まないで。なにー、こわいっすよー。
ちなみにその日の朝食は
かじきまぐろのヅケ焼き2枚に
みそしるを1ぱい。たしかに少ないけど。
「たけいさん、いつもだったら、
それにゴハンを足しますよね?」
はいそうです。ごはんもりもりです。
「てことは、そのゴハンのぶんも
ちゃんと食べないと、
筋肉まで痩せてしまうってことですよ?
さっきも、前と同じ重さが上がらなかったでしょう。
筋肉が痩せてるってことですよ?」
うーん。糖質とってないから
パワーが出ないだけじゃないの?
「ですから食事の量が足りないんですよ」
そんなに食べられないよー。
咽をとおんないよ、ぱさぱさで。
おえってなっちゃうよ。
「ほんとうに吐きそうなんですか?
ほんとうに吐いたんですか?」
いや、まだ吐くまでにはいたりません。
「‥‥食べないと、いまこうして
やっていることが、全部無駄ですよ?」
言葉じりに怒気が混じる。
うえーん、体育会系のノリってやつを、
そういう上下関係を、
金はらってる客に、
お願いだから出さないでくれー、
たしかにぼくらは身内だけどさー。
と思って、ちょっとおちゃらけたのが
ますますまずかった。
「無駄ですよ? そんなんじゃ、
いまやってること、ほんとに無駄ですよ?
そんなんじゃ終わったあとリバウンドしますよ?
いいんですか?」
たしかに私はMっ気があるとは思うけど
「上から物を言われる」のはちょっとちがうんだよね。
‥‥ほんとに、食えないもんは食えないよー。
もう調理にも限界があるし。
「水でおしこんでください」
‥‥。
「そして回数を増やしてください」
かえって太らない?
「たけいさん、太る定義って何ですか?」
あれ、逆に質問された。先生みたいだね。
「太る定義。わかってます? 前に言いましたよね?」
はい。それは食べ過ぎることです。
「食べ過ぎたら、じゃありません。
満腹まで食べたら太ります。
どんなものでも脂肪になります」
はいー。そうでしたー。
「ですから満腹にならないように腹六分目で何度も食べてください」
仕事しながらそんなに何度も食べられないんですけどね。
「無理ですか」
平日はとくに、必ずってわけにはいかないよ。
「じゃあ、プロテインにしましょう」
もう、ほんと、正論攻め!
正論攻めSMクラブがあったら彼女はクイーン。
なんか、「やんなった」よーん。
そんなにまでしてやっても
なんにも楽しくない。
これだけ工夫してゴハンつくっても
なんか、この子には褒められることがない。
たぶん、あまり料理に興味がないんだろうなあ。
よっぽど「高い金払って、こんなの、
やってらんねえ」と怒鳴りたくなったけど
そもそも始めたのは僕である。
本末転倒である。
そして「怒るとちゃんとやる人」という
キャラクターを設定したのもきっと僕である。
それに一回り以上も年下の女の子と
喧嘩してもしょうがないだろう。
下手ながら、彼女は一生懸命なのである。
たぶんこれはメソッド通りなのである。
そう、ただ、個別に工夫すべきコミュニケーションが
ちょっとだけ下手なだけなのである。
相手に(それもかなり面倒なこんな僕みたいなのを相手に)
口八丁手八丁で
うまくやり通させることは、たぶん難しいのだ。
ということで、
おとなしく、ややおちゃらけながら、
やっぱり怒られながらワークアウト。
あとでぶつぶつ考えた。
せっかくここまでやったんだし
彼女がいうほど効果が出ていないんだろうかと。
冷静に考えてみると、そんなことはないのです。
だって8日間の記録によると
体重が2キロ落ちてるんだけど、
筋肉量は300グラムしか落ちてないのに
(むしろ「維持できている」と褒めていただきたい)
体脂肪率は1.8%も落ちてる。
次に行った時その数値をプリントアウトして見せた。
でも僕が褒めてもらいたい点は、
彼女の褒めるべき点ではなかったようだ。
「基礎代謝量が落ちてますよね」
たしかに1650kcalから1636kcalになってるけどさ、
体重が落ちてるんだからそうでしょう?
だいたい、僕の基礎代謝量って
高校生の男子の平均より高いんだぜ?!
「ですから体重を落として欲しくないんですよ」
たしかにそりゃぼくもそうだ。
落としたいのは体脂肪率であって体重ではない。
がっちり太い腕や胸は維持したいし
もっと太くしてもいいくらいだ。
でもさ、筋肉はこんだけしか落ちてないよ。
まず腹まわりの脂肪を
落としておこうってことで
今こうしてダイエットしてるわけでさ。
終わったら胸の強化しようよ。
「‥‥たけいさんの場合、
食事制限を終えたら食べますよね?」
うん。だって人生のたのしみのひとつだからね。
そう、僕がワークアウトしている目的は
健康でおいしく食べられる体をつくること、
コム デ ギャルソンが着られる体形を維持することである。
「糖質や脂質を戻したらよくないと思うんですよ。
また脂肪がつきますよ」
正論。そりゃそうだ。でも、僕、
そんな暮らしがしたいわけじゃないです。
あのう、ほんとのところ、どうすりゃいいんでしょうか。
ぼくの理想をうまく伝えられていないってことなんだなー。
と思ったけどやっぱり会話はそこでやめた。
「喧嘩してもしょうがないよな」である。
その日は気力が充実していて
わりとうまく重いものが挙げられたので
お互いそれには満足して終わった。
しかしこんなことで挫折してはいけない。
また85キロ/体脂肪率32%には戻りたくない!
夜寝るのが苦しくて朝起きてヒザが痛くて
いやな脂汗をかいている自分は嫌いです。
そして新しく買ったコム デ ギャルソンは
けっこうタイトなデザインなのです。
とくに腹が!!!
なので、がんばって続けることにします。
予定は火曜いっぱいなんだけど
もうちょっとやるかな。
トレーナーのためにやってるわけじゃないしね。
それにしても、
自分の理想、こうなりたい姿を人に伝えるのは
なかなか難しいってことですね。
ま、ちょっと特殊だからねえ。
「とにかく細く」とかなら、いっそかんたんなんだけどねえ。
●
ま、その後、土日しっかりササミを食べて
筋量はすっかり戻りました。
体脂肪率も低めで維持。
きょうのワークアウトは、やはり
「食べてますか!」とプチおこられながら
(たぶん怒ってはないんだろうけど)
元気にやりましたよ。
しかしどうも「理想とする体形」が
トレーナーと一致してないんじゃ‥‥と思い
「格闘家体形っていうの? ああいうのがいいんだけど」
と言ってみたら
「わかりました! 魔裟斗さんみたいになりたいんですね!」
‥‥ちがうです。ほら。もっと、太くてもいいです。
腹を6つに割りたいわけじゃ、ぜんぜんありません。
「吉田さんとか?」
ああ、そうです、そのほうがまだ近いです!
胸をちゃんとつけてさ、そうしましょうよ。
「じゃ、その胸、たんぱく質だけでつけましょう。
いまよりもっと食べてもらいますよ」
‥‥ひーん、これ以上ササミを食べろと!
道は遠いなあ。
まあ、ほどほどにやりますよ。
「意味のない暴食」は避けるけどね。
といいつつ、K君肩があがるようになったら
またスズキ行こうね。12皿ね。