外苑の花火の音がする。
外苑西通り沿いに建つうちのアパートの屋上からは、
頬に跡が残るくらいフェンスにはりつくようにすれば、
外苑の花火の、そうだな、6分の1くらいが見える。
引っ越して最初の夏は、人を呼んでビールを飲みながら
その「花火6分の1」を見たりしてたんだけれど
(それはそれで楽しいんだけど)
人を呼ぶほどの「おもてなし」にならないので、
すぐにやめてしまった。
というわけでいまひとりでいる部屋からステレオで
(左の窓から生音、右の窓から残響)
花火の音が響いています。
そうとうな数の尺玉を打ち上げているみたいで
雷みたいな音がひっきりなしにしていて、
なかなか気分がいい。もうじき夏が終わる。
遅い夕方までは、仕事で人に会っていました。
といっても、気心の知れた人たちで、
しかも休日に御自宅にお邪魔することだし、と、
甘えさせていただき、夏の日曜の定番、
ショートパンツのまま出かける。
手土産はLA MAISON DU CHOCOLATの
アイスクリームとシャーベット。
その前、千駄ケ谷にいたので、表参道まで歩いたのだけれど
いやあ、暑かった。
なんだかフラフラするなあと思ったら
暑さのせいだけではなく、睡眠不足だった。
そうだ、今日は朝6時に起きて
社長の出るテレビを見たのだった。
元気のいい野菜をいっぱい見て、とても気分がよくなった。
清潔で、たのしくて、人生に対して前向きな人を見て、
とても気分がよくなった。
うちのベランダでプランター栽培したいなあと
かなり本気で考えたのだけれど、
新宿御苑から謎の鳥類が多数飛来する我がベランダ。
なんかねえ、インコ? みたいな熱帯の鳥が
ばっさばさとやってくるんですよ。
きっと食べられちゃうだろうなあ。
それにしても睡眠不足に酷暑は応える。
汗ぐっしょりでチョコレートショップに入る。
店員のあまりに冷たい態度に汗が引っ込む。
あ、いや、冷たいのは5人くらいいたなかの1人だけでした。
ほかのひとはやさしかった。
汗をふいていたら冷たいチョコレートドリンクを
試飲させてくれたり、世間話をしてくれたりと
ほんとうにやさしいのです。なのに一人だけ、
偶然声をかけてしまったあの店員(女子)は冷たい‥‥。
「アイスクリームはありますか」
「‥‥(目とアゴで横のウインドウを差して)
ありますけど?」
である。ううむ。
店員が疑問形で対応するときは怒っている時だ。
なにかとても面倒なプレゼント包装の仕事をしていたところに
声をかけてしまった私が悪かったのだろう。
いや、もしかして、
太って汗をかいたチョコレート好きの男が
しんそこ嫌いなのかもしれない。
でもまあ、そんなふうに思ったのも暑さのせいだろう。
ほんとうは「プライドの高い、ブランドらしい上質感のある、ふつうの対応」
だったのでしょうね。
その足で10 CORSO COMOへ。急げ。
「おもしろいジーンズが入りますよ」
と言われていたのでした。
またもや汗だくになり店に入ると
店長・山崎さんがやさしく迎えてくれる。
「きのう、御社の社長がいらっしゃいましたよ!」
と元気よく言われる。
しゃ、社長は、どんなものを‥‥
と、いちおう聞いてみるのは、
どんぴしゃり同じものを買っちゃうと、
会社に着ていけないからです。
そもそも立場も経済力もぜんぜん違う自社の社長と
同じブランドの服を着るというのは
ものすごく分不相応なことだとは思うのだけれど、
思うのだけれど、思うのだけれど、思うのだけれど、
やめられないのよ。だって好きなんだもん。
おおたうに嬢に「けっ」と吐き捨てられても、
「ほがらか」のみなさんに
「ふーん。コムサデモード?」と言われても、
やめられないのよ。ほかのじゃ、だめなの‥‥。
それが好きってことなのよ。そうよあたいは奴隷なのよ。
しかし、似合い方は社長のほうがずっと上なのも否めない。
同じズボン、ぼくは「ひとワッペン分」折って穿いてます。
社長は歳のわりに足が長すぎます。顔も小さいし。
経営者のルックルがよいことは
社員にとってたいへんな幸せなことですが
こういう社員には少し不幸です。
「じゃあ、ものすごくブサイクでちんちくりんな社長が
同じ服が好きだったら」と考えると、
そりゃ、すごくイヤだ。
グッドルッキングの社長でよかったです。
なお、おすすめされたジーンズはたしかに面白かった。
か、か、買っちゃ(以下略)。
そして仕事を終えて帰宅。家は花火の音に包まれている。
もうすぐ夏が終わる音がする。