朝がた、夢に友人が出てきた。
もう会えない、同い年の親友である。
ぼくはちょっといい感じのファインダイニングで
ひとりでごはんを食べていた。
「ありゃ、ひとりだっけ?」と
iPhoneを確認すると、
その日は知りあい同士を引き合わせるため、
彼らのために別のテーブルを予約し、
ぼくはすこし離れてひとりで食事をすることになっていた。
あはは、そんな粋なこと、夢じゃないとしないよな。
そしていつの間にかひとりのはずのぼくの席の
目の前にその親友が座っていて、
ナイフとフォークでぱくぱくと料理を食べていた。
とてもきれいな食べ方だった。
彼はぼくの覚えている最後の頃の顔色ではなく、
剝きたての茹で卵のようにつるんとした肌をしていて、
ちょっと白いかなと思ったものの、
表情はとても健康そうだった。
健康な彼の思い出はずいぶん昔のことになる。
晩年はずっと闘っていたから。
ぼくは驚いて、
(治ったの?)
‥‥とは口にできず、
「え? え? え? どうして? どうやって?」
と言った。
彼はにこにこして、
「歯かなあ」
と言って口をあけて見せてくれた。
ふつうとは違う位置に、人工的な歯がつくられていて、
どうやらこのおかげできちんと食べられるようになり、
健康を取り戻したということらしい。
これは夢なのかなあ、と夢のなかで思った。
歯のことにしてもどうもちょっとおかしい。
それに友人はもうこの世にいないことを夢のなかのぼくは知っていた。
でも、目の前の彼はまさしく彼である。
ああ、これが夢じゃありませんように、
と思いながら、ぼくはあまりに嬉しくて、
飛び起きてしまった。
ああ、もっと話をしていたかった。
いっしょにごはんを食べていたかった。
トイレに行き(現実です)鏡を見ると
寝癖でぼさぼさの髪をした自分がいた。
ベッドに戻って、
もういちど会いたいと思いながら横になったが、
もう夢は見なかったし、彼にも会えなかった。
‥‥歯については、ぼくがいま額関節炎の原因が
寝ているあいだの食いしばりと歯ぎしりらしいとわかり、
それがどうやら首の痛みにつながっていると思われ、
旅先でもマウスピースをつけて就寝しているため、
「健康=歯」という意識があったのだと思う。
でも彼が出てくるとは思わなかった。
ありがとう。サプライズだなあ。
久しぶりに会えて嬉しかった。
ちょっと遅めのクリスマス・プレゼントだったよ。
さて! 朝食は、
残り物を完全に片づけなくてはならない。
残ったスパゲッティを茹で、
残ったチーズと玉子とバターでソースをつくる。
フォルマッジオというかカルボナーラ的というか、
よくわからないものができあがりましたが、
これが傑作。自分で言うのもなんですが、
やっぱりパスタの技量が上がってるオレ!
むしゃむしゃ完食しました。
使った食器を食洗機にかけ、
そのあいだにそれぞれパッキング。
終わってキッチンや部屋の掃除をして、
リネン類は「そのままでいい」というので畳むだけ。
洗い終わった食器をふいて食器棚へ。
うん、きれいになった。
Uberで車を呼び、同行者のうち1人が延泊する宿へ移動。
ひとまず全員の荷物を預けた。
というのも、1人は18時発、
ぼくはといえば0時45分のフライト。
けっこう時間があるのです。
そこで、トラム1本で行ける博物館へ。
ついでにカフェで軽くランチにする。
ぜんぜん期待をしていなかったんだけど、
ラビオリもフィッシュ&チップスもおいしい。
サンドイッチはまあこんなもんかな。
謎の「お好み焼き風」としか思えない味付けのポテトも、
なかなかいけました。
コーヒーはやっぱりおいしい。
こんなところでも1杯ずつちゃんと淹れてくれる。
博物館は駆け足で回ったんだけれど、
ヨーロッパにあるような、
幽霊が出そうな古い感じではなく、
とても現代的な展示でたのしい。
博物館の学芸員というのは
博覧強記の知識を持っているはずなんだけど、
それを「わかりやすく展示する」こととか
「たのしく解説する」ということになると
(つまりキュレーションの技量というか)、
もやもやしちゃうミュージアムがある。
でもここはもう徹底的に楽しませてくれる。
けっこう難しいテーマの展示も、
なーんとなくわかるようにできていて、
そういうところがたいしたものだなあと思いました。
IMAXシアターもあるし、
一日いても飽きないんじゃないかなあ。
さてそろそろ帰ろうかと外に出たら雨がぽつり。
トラムに乗ったらざあざあ降りになってきた。
でも荷物を預けた先あたりに来たら小雨に。
なかなかついている。
18時発の友人を、Uberを呼んで見送り、
延泊する友人の食材買い出しにつきあって、近所のスーパーへ。
ついでにぼくも自宅用の紙ナプキンと、
無香料のオーガニックのデオドラントを買いました。
そういえばほんとうにモノを買わなかったし、
お金を使わなかった。
ケチだったわけじゃなく、
ふんだんに買ったところで食材だったらそんなに高くないし、
結局外食を(カフェでちょっと食べる、以外は)しなかったし、
街をぶらぶらしていてもとくに物欲を刺激されることもなかった。
なんにもしなかったと言える旅だったのに、
こんなに速く時間が経つのは初めてだった。
サザンクロス駅(いい名前である)までUberで行き、
そこからSkybusでメルボルン空港へ。
ラウンジでシャワーを浴びて
(JALさん、どうにかしてくれここのシャワー室!)
着替えて軽食。いまラウンジでこのページをつくっています。
このあと夜間飛行。
きっと眠っているうちに東京に着くのだろう。
あーあ、旅はおしまいだ。
慣れないなあ、この感じ、この喪失感。
しかし、今回は最後の最後に
「次の12月はどこへ行こうか」
という話をちゃんとしている。えらいぞわれわれ。
また「寒くない場所」になるのかどうか、
ふたたびレイド・バックな環境に身を置くのか、
それはまたいずれのお話で──。