シチリア州立の美術館へ。
美術館というよりも(歴史がありすぎて)
博物館といったほうがいいような気もするけど、
中世キリスト教美術を収蔵するミュージアムです。
同行のT嬢は大学でこのあたりを専門にしていたそうで、
イコノロジー(何を象徴しているかとか、
描かれている聖人は誰かとか、
聖書のどんなエピソードなのかを読み解く)に詳しく、
「これは何々の聖母よ」
「これは何々という聖人なの」
という解説をさらりとしてくれる。
そしてT嬢は容赦なく
「東方の三博士の名前、言える?
カスパール、メルキオール、それからえっと‥‥
いやだあとひとつが出てこない!
なんだっけ武井さん」
などと話しかけてくる。かけてくださる。
えーっとですね、あはは、
青年・中年・老人の3人ですよね。
(誰がどれだかわからない。)
黄金とか象徴しているんですよね。
(正解は黄金・乳香・没薬です。)
はたしてもうひとりは「バルタザール」でした。
というようなことがすらすら言えなくては
大学で美術史を(それも西洋美術史)を専攻したとは
言えないわけなのだが、
ぼくの卒論は「ダダ」でしたからね。
そのまわりだったら解説できますよ!
もちろんイコノロジーは授業でたっぷりと習った記憶があるのだが、
それは「習った」という記憶であって、内容ではない。
試験が終わったらきれいさっぱり忘れてしまいました。
もう一回読み解いておこうかな‥‥日本に戻ったら。
さて、絵画としてもすぐれた中世キリスト教美術、
それもシチリアに関係するものが並んでいるわけだけれど、
こういうものは、重たい。
絵描きからのメッセージではなく、
「信仰の対象」として、人々の思いを受け止めてきたということが、
絵に重さを増している要因のように思える。
仏像だったら、ミュージアムピースになるときには
きちんと魂を抜いて納品されるらしいが、
(そのため骨董商というのは長生きしないと言われている)
どうも、このあたりの「重さ」は、
そういうもの込みで、ここにあるような気がする。
ずしーん。
聖人像は殉教の姿が象徴的に描かれることが多いわけですが、
「この人は歯を抜かれた」
「この人は目玉をえぐられた」
「この人は乳房を切り落とされた」
というようなことなわけですから、
基盤となるこの宗教というものの凄みを感じるわけです。
しかも宗教的恍惚というか、そういう表情で描かれるから、
一神教の世界からは他所者であるぼくは
どうにも受け止めきれないものがあったりするのだ。
強く宗教的ではないものもある。
巨大フレスコ画「死の勝利」などはその例で、
宗教的ではあるけれど直接的ではなく
黒死病の蔓延により富を持てるものですら死んでゆくという
世相を描いたもの‥‥だと思う。
ガイコツの載っている馬(ガイコツ馬)が
なんだかイタリア未来派のようにも見えて
ちょっとかっこよかったです。
美術館を出てぶらぶら。
海に出ると漁師の船が漁から戻ってきたらしく
魚を売ったり網を繕ったりしている。
そうだ、魚が食べたいなあ。
そういえばtwitterでPalermoにいることを書いたら
LA PESCERIAという食堂をすすめてくれたかたがいた。
名前からして魚に違いないと探してみたら、
歩いていける距離にその店があることがわかる。
ランチやってるかな? 行ってみよう。
その店はグッチやルイ・ヴィトンなどの
ブランドショップがならぶ
わりといい感じのエリアの角っこにあって、
店は氷の上に魚が並んでいる、
つまりは「魚屋さん」でありました。
路上に簡易なテーブルがいくつか並んでいて、
そこで食事ができるらしい。
(つまり“店内”はないのです。)
あんちゃんに訊いてみると、ランチ営業は1時からという。
まだ時間があったのでそのへんをぶらぶらしてくるから
席をとっておいてねとお願いして、散策。
スーパーマーケットをのぞいて時間をつぶし、
戻ってきてランチタイム最初の客になりました。
壁のメニューを見ていたらイタリア語でなにやら言われる。
どうやら「料理は日替わりだから席で待ってて」ということらしい。
カジュアルな広告の入った紙のランチョンマットと紙ナプキン、
カトラリーが運ばれてきて、
おじさんがおすすめ料理を口頭で伝える。
うむ、たぶん「生牡蛎はいかが」と言っていますね。
(イタリア語ができないのにこういうことだけはわかる。)
ひとり2コください。
旅の終わりに生牡蛎?
だいじょうぶ、こういうことは確信をもって食べるのです。
んまーい!
ものすごく、うまい。
味が濃いけどフランス的ではなく、
かといって日本的でもなく、
きっとこれがパレルモの味なんだろうなあ。
続いてテナガエビをやはりひとり2尾、これも生で、
オリーブオイルに塩にレモンにパセリだけという状態で。
いやはやこれが、ミルキーで、とろりとしていて、
全く生臭さがなく、頭の中までじゅるじゅるとすすりました。
ゆでタコ。こぶりのタコがまるのまま茹で上げられ、
味付けはテナガエビと同じでひじょうにシンプル。
ワインは隣接しているとなりのバールから運ばれてくる。
ハウスワインの白を1本、これがきりっと冷えていてとてもおいしい。
パスタは2種類注文。なにがおすすめ? と訊いたら、
テナガエビとチェリートマトのスパゲッティだという。
1人1皿じゃもったいないから、
もうひとつおすすめを教えて。
なるほど、ムール貝とカラスミ?
ここらへんもどういうわけかイタリア語が理解できた。
食いしん坊は国境を越えるのである。
ふふふ、ちっとも知らないんだけどなあ。
そして運ばれてきたスパゲッティ2品は、いずれもたいへん好みの味。
最初ムール貝は「味が間抜けだからなあ」と侮っていたのだが、
これがとっても味が濃くてびっくりでした。
隣の席のおじさんがつまみにしている
謎の団子が気になって、
「あれちょうだい」と言ってみる。
魚のすりみを団子にして、茹でたまねぎで和えたもの。
これがまたうまいのなんの。
ワイン(飲みきっちゃった)もう1杯ください。
ここまで食べてもまだ食べたくて、
最後に、フリットミストを頼む。
小魚だといいなと想像していたら、まさしく!
こういう雑魚の揚物っておいしいんですよ。
小麦粉(セモリナ?)と炭酸水だけの衣じゃないかな、
カリッと揚がっていておいしかったです。
まだまだ食べられるんだけれど、このくらいにしておこう。
パレルモの魚、うまいわ。
ナザレ(ポルトガル)の焼きイワシの感動に近いです。
ぶらぶら歩いて戻り、のんびり休憩。
なんとT嬢の荷物が届いてた!
って、23日から何日経ったわけ?
アリタリアめ‥‥。
もうあと2日しかないのでと、
夜は残り物ディナーにする。
仔羊の骨でとったスープに、
豚肩ロースのソテー、
葉セロリとブラッドオレンジ、チェリートマトのサラダ、
ワインだけは赤の発泡を買ってきて飲みました。
夜、そぞろ歩き。
クリスマスから年末までのこの雰囲気、
いいもんだなあ。
寝室に戻り東京とメッセージのやりとり。
そのうち寝落ち。グー。
これは旅の守護聖人、クリストフォロスです。
(きょう勉強した。)
旅の無事を祈って。