5時すぎに起床。パッキングを完成させ、
7時にチェックアウト担当のおじさんが来るので
使った食器やカトラリーを拭いて、仕舞ったりする。
あちこちに不備がないか確認。
食材はすっかり片づけてしまったので調理はせず、
水とバナナとネクタリンで軽く腹ごしらえ。
ゴリラか。
荷物は重い。往きで重量ぎりぎりだったので、
すこしでも増えたらオーバーなのだが、
やっぱりなんとなく増えている。
帰路かばんをひとつ買わねばならないかなあ。
いつもは2つで来るんだけれど
今回、おみやげの海苔を1ケース預かってきたので、
荷物の個数は2つでマックス。じぶんの荷物は、
でかいトランクにむりやり詰め込んできたのでした。
毎回反省するのは、
「この服は要らなかった」というのが2組くらいあること。
今回は、ジャンパーと薄手のコートは両方要らなかったし、
シャツ4枚は多かったかも。
ズボンの替えは同系色じゃなく色違いのほうがよかった。
ジャケットとパンツのセットアップは
実用的にするならジャケットだけでもいいんだが、
まあ、あると安心といえば安心。
でもタオル(バスとフェイス)は
2組あってよかったりしますね。
「やさしいタオル」は軽くて
乾きやすいので旅にいいですよ。(宣伝)
チェックアウトをすませ(おじさんが確認するだけ)、
中央駅まで歩く。
中央駅はアパートの窓から見えるくらい近いんだけど
こちらの「あそこにあるなあ」はあんがい遠い。
スーツケースをごろごろ引っ張って10分ほど歩く。
切符は買ってあるので大丈夫。
駅で軽食。クロワッサンサンドとドーナツ。
ドーナツは最近急にブームになったんだそうだ。
もともと南のほうでは、アラブの影響もあって
揚げ菓子はなじみがあるらしいんだけど、
北のミラノではぜんぜん流行ってなかったんだって。
でもいまはこうして
おいしいドーナツがふつうに食べられるようになった。
クロワッサンも、最近バターの風味がちゃんとしてきて
おいしくなってきたという。
イタリアのパンは脂がすくないので
食事のときのごはんみたいなもので、
単品で食べてもそんなにおいしいわけじゃない、
とよく言われる。
このあたりはそのまま食べてもおいしいフランスとの違いだ。
さらに、バターがあんまりおいしくないというか、
日本にくらべたらおいしいし安いんだけれど、
「あぶらの一種」という扱いで、
バター、かくあるべし! というような哲学はなさそうだ。
ここのクロワッサンは、わりとおいしかった。
表面はけっこうバターぽいんだけど、
食べてみると断面の内側は、ふつうのパンぽい。
フランス的クロワッサンを想像するとちょっと驚くけど、
合わせ技ゆえにわりと食べやすい。
飲み物にカプチーノを頼む。
ミラノ中央駅のこのカフェ、
なぜかコーヒーは水っぽいナポリ風だそう。
ミラノの濃い、きゅっとしたエスプレッソに慣れると
なんだか物足りない感じがしそうだ。
でもなんでミラノ中央駅のカフェがナポリ風なんでしょうね。
列車は定刻通りに出発。
上から二番目のクラスで、
出張らしきビジネスマンがほとんど。
座席は2×2の対面ボックスシートと、
通路をはさんで、1×1の対面シート。
15分くらい走るとすっかり郊外に。
線路と高速道路が並行している。
高い山はなく、のどかな丘陵がひろがる。
30分くらいでカートが来る。
お茶、お酒、水、コーヒーなどがもらえる。
お菓子かサラダかと訊かれて、お菓子にする。
チョコ・ウエハース。
食べてうとうと眠る。
2時間ほどするとふたたびカートが来る。
天板に電動のエスプレッソマシンが備え付けられている。
これで1杯ずつ淹れてくれる。
信じてもらえないかもしれないが、ほんとうです。
豆はイリーで、ポッド(パック)になっているので味が安定している。
ぼくの家もイリーのポッドだけど、
こんなふうにおいしく入らない気がする。
まいっちゃうよね、日本の新幹線のグリーン車で、
抹茶を立てる‥‥とまでは言わないが、
一杯ずつおいしい煎茶を煎れてくれるようなものだ。
手仕事をいとわないというのはすばらしいことだなあ。
ミラノは曇りで、早朝は雨がぱらついていたそうだが、
アパートを出る時には降っておらず、
そのうち晴れてきた。
どうだい、晴れ男の面目躍如だ。
窓外は田園風景。
小麦の畑や酪農のすがたが見える。
空には秋の雲。
農家の大きな家の広い庭には
きれいなテーブルと椅子が出ていたりする。
野放図な雑草は少なく、ゴミの山もない。
木々もうつくしく、つまり荒れた感じがしない。
ていねいにていねいに、人の手が入っている。
南へ向かう列車の中から、
どれだけの暮らしを横目に、
ぼくらは通り過ぎていくんだろう。
ローマ到着。
こちらのほうが軽犯罪が多いと訊くので用心して‥‥、
と思ったんだけれど、怪しい感じはあまりしない。
駅周辺のムードって、わるい都市はもうひどいもんで、
いろいろな都市を知っているけど、
ローマのテルミニ駅はそんなでもなかった。
聞くと「ずいぶん変わった!」とのこと。
ホームにはチケットがないと入れないように
セキュリティがあるし(ミラノもそうでした)
警官も配備されている
(仕事はあんまりしてないみたいだけど、いるというだけで安心)。
ゴミもすくないし、「あいつ、やばい!」という不届きものの影はない。
都市って変化するからねえ。
長い行列に並び、ホテルまでタクシーで。
ローマは3泊だけなのでアパートではなく
市中のホテルに同宿させてもらうことにしたのです。
せっかくのホテル住まいなので、
アパートにはない快適さを堪能するつもり。
(でもさっそく、洗濯機がないから手洗いをすることになりましたけど。)
荷物を置いて腹が減ったと街に出る。
街というか、目的のピザ屋があって、そこに行く。
地下鉄でCipro駅からすぐ、「ぼんち」という店です。
ひらがなで書いちゃダメでした。
「Pizzarium Bonci」です。ぼんちだけど。
ビオの食材を使って、
どの地方風でもない、Bonciスタイルのピザを提供する店で、
ちょっと高いのでローマっ子は行かないらしいけど、
ミラノから来たような人は好きみたい。
ぼくはピザをふだん好んで選んでまで食べないんだけれど
(きらいじゃないんだけど、選択肢から外れちゃう)、
ここのピザは別格でした。
ピザなんだけど、クロスティーニぽいというか、
ごちそう感にあふれている。
ちなみに本来は「持ち帰り専門店」なので、
すでにできあがっているのを
好きな分量カットしてもらって、
オーブンであたためてもらって食べる方式だ。
でも「すぐ食べたい!」わけで、
店の外に簡易テーブルが置いてあり、
その場で勝手に食べてもいい。
つまり、かなりファストフードな感じなのだが、
なにしろ回転がいいので
「つくりおき」感がないどころか
「それ、いますぐ食べさせてーっ!」
という暴力的な食欲を満足させるメリットがあると思う。
3人で3種類をシェアしたんだけれど、
いずれも個性的でよかったです。
ああ、全種類食べたいなあ。
また行くかな。
そこから1駅地下鉄に乗って、
ヴァチカンあたりを「観光」してみることにする。
ぼくは自主的には観光をしないものだから、
こうして連れていってもらえるとありがたい。
でもサン・ピエトロ大聖堂は入場待ちのとんでもない行列。
外から眺めて手を合わせることにする。
柏手は打ちませんが。
周辺の土産物店ではパパ(ローマ法王のことです)グッズがわんさか。
イケメン司教カレンダーとかも売ってて、
なんかちょっと罰当たりな感じがしないでもない。
そこらへんの権利関係ってどうなってるんだろうね。
歩いてホテルに戻り(ローマって狭い)、
ちょっと休憩して、こんどは中心地へぶらぶら。
ものすごく観光地なんですねえ、ローマ。
パリでいうとマレあたりの雰囲気と同じで
まるで生活感がない(肉屋とか魚屋がない)ので、
ローマで自炊するときは、場所を考えないとなあ。
ローマでは自炊はしないか。
もいちどミラノもいいし、
トスカーナとかシチリアのほうもいいだろうなあ。
市中でちょっと必要なものを買ったりして戻る。
夜は8時に待ち合わせをして、タクシーで
とあるオステリアへ。
タクシーの運転手さんも「そこは、どこ?」というような
庶民的な住宅地のなかに(つまり観光客にはかなり辺鄙な場所に)
ぽつんとあるオステリアで、
初めてだったら絶対に来ないだろう環境。
おばあちゃんが一日仕込みをした総菜をたっぷり出し、
素朴なパスタも名物で、それはそれはおいしいのだという。
「かなり場末感があるというか‥‥」と言われたんだけれど、
場末という、落ちた先にあるような意味の言葉は違った。
実直に営業してきた庶民の店、大衆食堂である。
名前を「Betto & Mary」という。
手前に食堂的なスペース。まずここがそれなりに広い。
ちょうどおばあちゃんが夕飯をとっている背中に
炭火焼きのかまど、そしてさらに奥にクチーナがあって、
さらにその奥に裏庭の席がある。ここもけっこう広い。
インテリアは「なんでもこい」な感じで
入り口にネクタイがたくさんぶらさがったりしているし
いろんな写真や絵やポスターが飾ってある。
積年の記憶が澱となって重なっている感じ。
スタッフは厳めしい男子チームで、
ひじょうにコワモテでぶっきらぼうだけど親切。
揃いの赤いTシャツできびきびサーブしたり
休憩してタバコを吸ったりしている。
奥の裏庭席に座る。
もう9月も末だが温かいローマの蚊に歓迎されて
むきだしの足首を数ヶ所刺された。
でもまあ、この季節の蚊はそんなにあとに残らないし
ぼくの血でよければ吸ってくれ、
そしてせいいっぱい生きなさい、という気分にもなる。
というか除けられないから仕方がない。
あたまの上にはザクロの木。実がなっている。
その木の枝に白い蛇がいる。
白い蛇とザクロ。なんというか、
これもローマ的ということか。
料理はこんなでした。さいこうです。
まんぷくまんぷく。大満足です。
こういうお店大好き。そして、教えてもらわなければ
ぜったいに知りえなかったお店でもある。
ちなみにおばあちゃんはおしゃべりが大好きで、
隣に座っては昔話をしてくれるそう。
ぼくはイタリア語がわからないので聞けないけれど、
以前移民でニューヨークに行ったことがあるとか、
夫を亡くした話とか、
息子を亡くした話とか、
そしておいしい料理のレシピだとかを教えてくれるらしい。
いいなあ、やっぱり、こういうの。
いくら気取っていても、
じぶんが商店街の生まれ育ちということで、
あらがえない「ここちよさ」があるんだよなあ。
同行のみなさんは、さらに和食店からバー、
クラブへとはしごをしてきたそうで、
3時すぎまで盛り上がったみたい。
ぼくはさっさと帰って就寝。
明日はどうしようかな。