なにしに来たんですかと言われると
じつはエキスポを観に来たはずだったのだ。
ミラノエキスポ2015。
70年万博には「はしか」で行けなかった。
その後の神戸も愛知も筑波も行っていない。
人生初万博にミラノを選ぶのはわるくないし、
しかもテーマが「食」というのでこりゃなにがなんでも!
と思っていたのだ。
けれど、現地入りして聞くのは
「まあ‥‥あの、なんというか、がっかりっていうか‥‥」
的なもやもやとした評判ばかりで、
3回行けば元が取れる券を買うつもりでいた気持ちが
しゅーんと萎え、
しかもミラノでの日常、自炊がかなり楽しいので
(なにしろ食材が豊富)、
あちこちで見かけるエキスポの宣伝も
「ああ、なにかやってるなあ」程度に思えてきてしまった。
各国のパビリオンは、人気のところは「映像体験系」で、
そんな何時間も並んで入ることもなさそうだし、
いちばん人気の日本館は、もうとんでもない長蛇の列だというし。
そんななか、こんな情報が入った。
「ワイン館がありますよ」
なにそれ!
「イタリア中のワイン1300種が集められていて、
10ユーロでグラスを買うと、
3杯まで試飲することができるんです」
どうせたくさん見ることができないんだろうから
「それだけ」に絞って行けばいいじゃないか!
となったら、終日じゃなくてもいいな。
しかも、この日はちょうど月末の日曜日にあたり、
でっかい蚤の市が開かれているという。
どっちかというとそっちのほうが個人的には楽しみなので、
まずそっちに行ってからエキスポだ!
ということで腹ごしらえ。
朝ご飯は、残り物で、ありあわせ、といいながら
ポルチーニとチンタ・セネーゼの生ハムがあるので
たいへんぜいたくな印象になりました。
そうそう、ゆうべは来客があって、6人で食卓を囲んだ、
ということを書いていなかった。
ええとですね、つくったものは、まず貝じゃが。
それから、焼きカリフラワーに、焼きポルチーニ。
そしてサラダもつくり、
チンタ・セネーゼのプロシュット・クルードと、
買ってきた総菜の「豚のにこごり」も出した。
チンタ・セネーゼはですね、
希少種の豚で、その生ハムはひじょうに高価。
めったにお目にかかれないんだけれど、
どういうわけかすぐ近所の肉屋においてあることがわかり、
えいやっと買いに行ったのです。
チンタ・セネーゼくらさい!
うすーく切ってくらさい!
チンクエチェントくらさい!
というようなことを店のおじさんに
イタリア語なんだかなんだかきっとわかられていないような
謎の言語と身振り手振りで伝えた。
すると2切れくらい切ってくれて
「どうぞ」と試食させてくれたので、口に入れたらびっくり。
なんじゃこりゃー!! これって、もしかしたら、
クラテッロ・ジベッロよりおいしいんじゃない?
「蕩ける」という表現がぴったり。
ああおいしい、たまらなくおいしい、
ぼくはもう「武井ちん太」に改名したいくらいです!
と、それはさすがに下ネタぽいからやめようとか、
そんなことをぐるぐる思いつつ、
ああやっぱりおいしいなあと驚いていたら
店の会計係のシニョーラがげらげら笑ってくれていた。
ええと、そういうことはともかく、夕べの話でしたね。
で、プリモピアットは、
ポルチーニとあんず茸を入れたスパゲッティ。
ちょっと貝の出汁も加えたのでゆたかな味に。
セコンドピアットは、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ。
これもじょうずに焼けたよー。
パリのユーゴ・デノワイエさんに教わった方法は、
常温にもどした肉塊を
バターとオリーブオイルで表面を焼いてから
200度のオーブンで8分/8分なんだけど、
ほかの調理をしながらだったので
焼いてから放り込んで20分、
出してちょっとほっといてから切りました。
話を戻しまして、出かけるところから。
ナヴィリオの蚤の市は街の南西の運河沿いで
毎月末の日曜日に開かれる。
アパートのいちばん近くのLereto駅からは1本、
地下鉄Porta Genovaから外に出るとすでに市が始まっている。
どうやら運河沿いだけじゃなくその周辺の小道にもあふれるように
骨董屋さんが出店しているみたい。
どの店も、かなりちゃんとしていて、
ショップカードが置いてあるということは、
それぞれ店舗を構えている人たちが
きょうはここに集まっているということなのかな。
市から市へと渡り歩く
「流れ者の骨董商」みたいな人はいないのかも。
これが旅の始まりだったらきっと買ったであろう
フォークやスプーンに、いいものが多い。
ちょっとぼくにはデコラティブだけれど、
一生ものになりそうなクオリティ。
食器はさほど出ていないが、
金属のポット類はわりといい。
コーヒーまわりだとコーヒーミルはあるんだけれど
エスプレッソ淹れはなかったりする。
(なんでだろう? みんな大事にして、売らないのかな?)
食指が動いたのはトンカチやスパナなどの古い道具類だけど、
ううむ、金属は重い。
今回はなにしろ荷物が往きで重量オーバーだったので
帰路荷物を増やすのはやめることにする。
じゅうぶん余裕があったら?
こんなものがほしかったです。
午前中をそんなふうに過ごし
(なんと、なにひとつ買いませんでした!)
昼を軽く外で食べてからエキスポに向かう。
1号線の終点、Rho Fiera Milano Expo駅で降りてから、
かなり歩きます。
会場内の警備は、イタリア警察と軍が総動員でやっているとのこと。
全国からいろんな部隊が集められているので、
軍服好きにはたまらないものがあるでしょう。
パビリオンは、大国は大行列で、
小国はそうでもないという、
あからさまに経済格差に比例するというか、
「どうせ並ぶなら、金のかかってるところにしよう」
というような感じで行列ができているわけだ。
そんななか気を吐いていたのがブラジルで、
漁がテーマなのかな、でっかい網が斜めに張られているのを、
ただ歩いて渡るというアトラクションで人気だった。
小国のパビリオンは、噂では
「学園祭の展示みたいな‥‥」ということだったんだけれど、
まさしく、そうだった。まじめでていねい。
それじゃたのしくないでしょ、ということじゃなくて、
それぞれのやりかたがあるということです。
民族博物館が好きだったら楽しめると思う。
それに、パビリオンに入らなくてもいろいろ面白いし、
ぶらぶら歩いているだけでけっこう楽しい。
でもそれだと、学習の機会は少ないけれど。
さて目的はワイン館である。
なんといっても主催国のイタリアはものすごく力を入れている。
メインパビリオンは数時間待ちというのであきらめて、
隣のワインパビリオンに行く。
ここも並んでいるけれど、
入り口が見える程度の人数だから、30分くらいだろうと踏んで
並ぶことにした。
予想通り30分ほどで入館。
グラウンドフロアはワインの歴史と特徴を解説。
アナクロな雰囲気がしないでもない。
チケットを買う。10ユーロ。
これで試飲ができるのだ。
そして、チケットを提示するとグラスをくれる。
これで呑むのである。
洗い場もあるので、味が混じることはない。
チケットのバーコードをかざすと、
その枠のワインのボタンが起動可能になる。
ボタンを押すとじゃーっと出てくる。
試飲なので1杯分というほどはないが、
「ふむふむ」と楽しめる程度には出てくる。
生ハムのコーナーがひっそりあって、
そこでチケットに打刻して
生ハムをグリッシーノに巻いたおつまみもくれる。
要所要所にソムリエがいて、
いろいろ相談や質問にこたえてくれる。
といっても専門知識のないぼくは
「えーっと、甘めで、スパイシーで、重めのをください」
程度にしか言えない。
スプマンテ1に赤2を呑んで終了。
やっぱりチケット2枚買えばよかったなあ。
その後、日本館のイートインを見たり
(なんだあの値段?! というとんでもない価格設定。
ただでさえ高めなエキスポ内屋台の、さらに倍ドーン! です)、
パビリオンの裏のほうにある売店を
ひやかしたりしつつ歩き回ってみた。
まあ「おまつり」なので、どこもにぎやかで、
楽隊がぶかぶかと演奏をしていたりと楽しげではある。
でもいくつか展示を見て思うのは
「わあ、未来が明るい!」とか
「世界ってすげえ!」とか、そういう希望に
充ち満ちているのというと、
そうはっきりとした表現でもない気がするということだ。
大国のパビリオンはちがうのかもしれないけど、それにしても、
「それぞれの国が、それぞれのやりかたで、
なんとかがんばるしかない」というようなことなのかなあ。
でもなにしろ主催国がイタリアなので、
「なんとかなるだろう」という楽観がなくもない。
ごはんがおいしくて家族がいれば大丈夫かな、みたいなね。
さて、夜は会食。
アル・グリッシーノというシーフードレストランに
連れていっていただいた。
考えてみればちゃんとしたリストランテは初めてだ。
ジャケットとパンツのセットアップで出かけました。
生魚やタコやイカやウニや牡蛎が好きな国はいい国だ。
そのあと家呑みになったんだけれど、
さすがに疲れが出てきたので先に休ませてもらいました。
さああすはミラノ最終日。
といってもなにも予定はありませーん。