ぼくにとって「最高のそうめん」は
逗子の伯母の家で食べたそうめんだ。
彼女は茶懐石の料理がつくれるひとだったうえ、
生涯を愛に生きたから、
料理はなんでもできて、そりゃあおいしくて、
思い出は尽きないんだけれど、
ぼくにとっては、そうめんなのだ。
いったいどうしたらあんなにおいしくできるのか。
謎は「麺のブランド」なのか「つゆ」なのか。
それともそもそも、特別な出汁なのか。
その秘密が知りたかったけれど、
訊くことが叶わぬまま遠くへ行ってしまったので、
彼女のいもうとであるぼくの母や、
叔母にたずねてみたものの、
「どうなんだろう? ふつうにつくってただけだけど」
という答えがかえってくるばかりだった。
食感からしてぜんぜんちがうんだよなあ‥‥
どんな高級そうめんを買ってきても
あの味は再現できなかった。
それが。
担当している著者ものコンテンツの原稿のなかに、
とある料亭のまかないで食べたという
とんでもなくおいしいそうめんの話があって、
つくりかたが披露されていた。
その秘密は「茹で方」。
やってみたところ、ああ、ああ!!!
泣くかと思った。泣かなかったけど。
だってまさしくあの味、そのものなんだもの。
麺はなんでもない、スーパーのPBで、
1キロ入って880円。
つゆは手を抜いて「正金八方だし」。
丁寧に出汁をひいていた伯母のつゆにくらべたら
香りはうすいけれど、甘くない感じは似ている。
うすーくして、ごくごく飲めるくらいにして使う。
薬味は、みょうが、しょうが、おくら、きゅうり、
蒸し豚、蒸しなす、蒸しえのき、とうふ。
炭水化物を控えめにしているので
ほかでボリュームを出そうということだったんだけれど、
いちばんおいしかったのはやっぱり、そうめん、そのものだった。
これだ、これだ。
伯母はこの作り方を、知っていたんだろうなあ。