驚いたなあ。
昨年10月だったか11月だったか、
コム デ ギャルソンにデニムの修繕を相談した。
ぼくはジュンヤ・ワタナベ・マン(COMME des GARÇONS
JUNYA WATANABE MAN)のデニムが好きで、
それもコレクションがスタートした当初、
2001年から数年のあいだに出た
わりとシンプルなものを好んで穿いている。
シンプルといってもそこはコム デ ギャルソンなので
大人用(それもビッグサイズ)のリーバイスと
子供用(うんと小さなサイズ)のリーバイスを
解体してはぎ合わせたようなものだとか、
前身ごろの裏地と足首まわりに
ギンガムチェックの裏地がついていて
ロールアップするとたいそうカワイイものだとかである。
ほかにも一世を風靡した
(ずいぶんマネされ、いまやスタンダードになった)
ペンキみたいな顔料で文字をプリントしたものや
やたらと技巧的な最近の
パッチワークシリーズも好きなんだけれど、
穿く頻度は圧倒的にシンプル系が高い。
ぱっと見た目はふつうのデニム、
それをデザイン違いで5本ほど
ヘビーローテーションで穿いていた。
武井さんいつも同じようなズボン穿いてる、
ってきっと思われているんだと思うが、
平日毎日変えてるんですよ。よごれてないよ。
(わりと洗うほうです。デニム。)
ところがそこにほぼ同時に破れが出てきた。
尻ポケットの下だとか、股のところだとか、
サイドの縫い目のところだとかに穴が空き、
だんだん大きくなってきたのだ。
自然と色落ちしたデニムを穿くのは大好きだが
自然に穴の空いたデニムを穿く趣味はない。
年齢の問題ではなく、似合わない。
じつは、そのデニムたちは、以前、
いちど、修繕をしてもらったことがある。
その時は簡易バージョンで、
当て布をして縫い付けることで穴を塞ぎ、
その当て布は端をまつらずに、
ピラピラしていた状態で残した。
裏側だからもちろん不自由はないし、
また穿けるようになったのだから
それでじゅうぶんうれしかったし、
しっかりと上等な対応をしていただいたと思っている。
ところが数年穿くうちに
(また、すさまじいヘビーローテーションだった)、
同じところがほつれてきてしまった。
いちどやってもらったところだけに、迷った。
「もう直りませんよ」って言われるんじゃないか。
いっそ宗旨替えして穴の空いたものをカッコいい!
と思うようにしようか?
そもそもファッションなのだから
シーズンがとうに過ぎたものは
履きつぶして捨てるのが当然なのかもしれない。
それにこんなに直して直してって言う人、
ほかにいないんじゃないか。
しかし。
新しいものを買ってくれる客も大事だと思うが
だからといってコム デ ギャルソンは
こういう偏愛系の客を軽んじるブランドでもないはずである。
ぼくは編集者だが、最新刊だけが大事なわけではない。
10年前の本を「当時、高校生のとき読みました!」とか
「当時母が10冊買って配っていたんですよ、あの本」
なんて言ってくれる人がつい先日あらわれたが、
そういうのはほんとうにうれしいものである。
コム デ ギャルソンとて、そうにちがいない!
そうだそうだきっとそうだ。
はたして、青山店に出かけたところ、
悩みは無用でありました。
スキッと快く引き受けてくれた。
修繕方法はお任せ。
「丈夫」にしてください、
それからお直しの痕跡が
表に出ていていいですからね、と伝えた。
ミシン目がグシャーッと入っているのとか、
かっこいいなと思ったのである。
途中で出た見積りによると
1本の修繕費用は、ネットでがんばって探せば
安い新品のリーバイスが1本買えるくらいだった。
もちろん新品のリーバイスとこれとは、
まったくぼくにとっての価値が違うし、
その価格からして前回と同じ修繕ではないはずだ。
そう、ここまでクリエイティブなブランドであれば
「また破れてしまった」ことにたいして
前回とは別の方法をとるように思う。
その修繕のオリジナリティに期待しての価格ならば
高いものではないと思い、
えいやっとお願いをすることにした。
さて、年が明けて連絡をもらい、
受け取りに行って修繕のあがったデニムを見たときの
感動といったら!
いやあ驚いた。
裾は裏から柔らかな充て布をしてから叩いてある。
尻の部分はもうすこし硬い布で覆い、
破れたところ以外も含めて広い面積で処理。
充て布は尻ポケットの裏側まで広がっているのだが、
縫い目はポケットの表に出ていない。
あるデニムはそこを避けて縫い、
あるデニムはポケットをいちど外してから縫い直したようだ。
なんという手間だろう。
ジュンヤ・ワタナベ・マンは
解体と再生とクオリティが
デザインと融合しているのが面白さなのだが、
修繕でもそれをやるとは!
誰がどう指示したのかはわからないけれど、
ブランドとしての筋が通っているやりかただ。
これはもう、修繕の域を超えて、
新作と言っていいくらいのクオリティ。
入院していたともだちが
健康になって帰ってきた! みたいな思いともに、
世界でひとつのデニムになっちゃった、
偶然のカスタムメイドを手に入れたような誇らしさだ。
ああ、長年のファンでいてよかった。
これを穿くとまた以前のように
「いつも同じの穿いてる」って思われるにちがいない。
それでいいのだ。