金曜日、出先で遅くなって
一緒にいた友人と外ゴハンにということになり、麻布十番へ。
Sさんとこに電話してみたら
金曜夜なのに2席空いているというじゃないの!
すごく久しぶりなSさんの料理、
ぼくは東京いち好きなんですけど、
それが、さらに、格段に、すごくなってた。
脂の乗ってる料理人ってすごいぞ。
ワタリガニのスパゲッティなんて
もうただただひれ伏した。
ワタリガニのラグーに、
フレッシュのディルとチャービルとエストラゴンが乗っている。
それが、香りすぎるギリギリの量。
蟹を殺さず、生臭さは取り、過剰には香らない。
大胆かつ繊細。
そしてこの香りが鼻に抜けるとき、
どこか遠いところに連れて行ってくれるのだ。
ぽぉっとしちゃいましたよ‥‥。
厨房にいるSさんとはあまり話せないけれど、
フロアを泳ぐように回るサービス長のKくんとの
おしゃべりも楽しい。
ワインの選び方談義、楽しかったなあ。
Kくんによれば、
集中できているときで、かつ、
よく知っているお客さんなら、
入店したときの表情やムードで
きょう飲んでもらいたいワインの
候補がいくつかぱっと出るそうだ。
もちろんその日の気温、世間の気分、
そして入荷している食材というデータはあって、
それは誰もに共通することだから、ベースにはなる。
けれどもやっぱり人と料理で変わるんだそう。
それは言語化できないことでもあるらしい。
「ひとつの料理に、1杯のワイン」ならば
じつはむずかしくはなく、ちょっとした方程式が使える。
が、グラスやボトルで頼む人は、
そのワインが複数のお皿をめぐるわけで、
どの料理にもぴたり! のワインを選ぶのは、とてもむずかしい。
教科書的なワインの選び方、学び方を
真っ向から否定する現場の話、おもしろいなあ。
最初はスプマンテの日向夏割り。
アミューズは蕪のつめたいスープ。
そして白ワイン。
料理はイカとジャガイモのアンチョビサラダ、
自家製ハム、寒鰆の軽い燻製、
イサキ(だったかな?)の昆布締めが
一皿に盛られた冷製。
花ズッキーニのフリット。
それから白子のグリル。
ここまでが白で行きました。
そして赤。
ここがむずかしいところで、
ワタリガニのスパゲッティ、
金華豚のラグーのタリアテッレ、というパスタ2種に、
カサゴのブイヤベースソース、仔牛のトリュフ風味と続く。
この難儀な後半戦は、重厚系赤ワインをグラスで。
これが、どんどん味が変わっていく!
時間、温度、空気で変わるすごいワインなのかと思ったら、
料理に合わせて舌の感じ方が変わっていくんだって!
甲殻類には酸味が強く感じられ、豚の脂には甘み、
カサゴになると苦味、仔牛では重厚な渋みが出る。
Kくんによれば、ちゃんとその変化が感じられるかどうかは
大人の経験(舌の成熟)が必要。
未熟な人だと「すっぱい」とか「にがーい」ってなって、
「おいしくない」って言われちゃうんだって。
もったいないなあ。よく味わうとその酸味や苦味が
料理によく合うってわかるのに。
ああ、また、食と性の近さを感じちゃう話だなあ。
そういえばSさんの店、
むかし親友と来てさんざん食べて、
あまりのうっとり具合に、
なんだか「コトの後」みたいな気分になったことがあるんだった。
やっぱり料理人は怖い。魔術師だぞあの人たち。
画像は水彩画ソフトで加工しております。
水彩画ものすごく下手だったので
こういうの嬉しい。