木曜日。
5時15分起床、一泊二日の旅支度。
着替え、洗面道具、カメラと財布。
国内旅行だが道中なにかあると困るのでパスポートを入れ、
ちゃんと切符を持ったことを確認し、6時に出発。
こぬか雨が降る中、傘はささず、
ラマルクコーランクール駅から14駅先のモンパルナス駅へ。
地下から長い通路を通り、階上の国鉄駅に進む。
ちょっと早く着いたのでまだ出発番線がわからない。
掲示板ちかくの木製のベンチで待っていると
かちゃかちゃかちゃと上から順番に入れ替わる表示の中に
サンマロ(表示はST MALO)行きが3番線と出る。
まわりの人が一斉に席を立つ。
乗る予定の11号車はずいぶん先頭。
ホームをてくてく歩いて進む。
一等車、客席は1:2で3席が1列。
照明がやや黄色+緑色のかんじで不思議だ。
これも経験と、ためしに乗ってみたものの、
どうも一等は客層が馴染めない。
みなさん、あからさまなお金持ちで、
着ている服も靴もかばんも、表情もなんだか違う。
フランスは階級社会というけど、
なるほどなあと思いましたです。
ちょっと肩身が狭い。
発車してしばらくしたらジュースのサービス。
そのあとまたワゴンでお弁当の販売。
6.9ユーロのランチボックスを買う。
クロワッサンと、ごまのパン、
バター、イチゴジャム、オレンジジュース、コーヒー。
車窓は、パリを離れると、延々と農村の風景。
美しいが、天気がよろしくないので残念。
高速移動で揺られ、
うとうとしているうちにあと5分でサンマロに到着、
というときになって、急に空が晴れてきた。
晴れ男の面目躍如か?!
駅までジャンポール氏と
Hさんが迎えに来てくれていた。
まずは市場に行こうということで、
体育館みたいに広いマルシェに移動。
パリでマルシェに行けなかったうえに、
こんなに新鮮でうつくしい食材がぎっしりというのに大興奮。
サンマロはほとんどの食材を
10キロ圏内でつくることができるんだそうで
まさしく地産地消のエリア。
たいへんうらやましい。
馬肉専門店もあるし、牛の頭も売ってるし、
卵なんかみるからにおいしそう。
蟹やオマールはそろそろ名残、ムールは走り。
10月になればホタテ漁が解禁になるそうで、
そのころにはますますにぎやかになるんだそうだ。
ちなみに牡蠣は一年中生でいただけるそう。
サバだって生食可能、こんなことパリじゃ無理だ。
ああ、うらやましい。
写真をいっぱい撮ったんで一気にどうぞ。
買い物しながらいろいろジャンポール氏に聞く。
あ、そうそう、このかたはフランスの
フード・ジャーナリスト。
先日日本にいらしたときに知りあって
今回こうして訪ねたというわけ。
「やっぱりポムフリットは、いろいろうるさいわけ?」
と訊いたら、やれポテトはアグリア種に限る、
油は香りの少ないひまわり油に限ると一家言。
地方や家庭によっていろんなレシピがあるポムフリット、
アグリア種は黄色いほくほくの種類だそうだから、
「インカのめざめ」で代用できるかなあ。
さてそんなジャンポール氏がやけに興奮して買っているのは
ポンピエット・ド・ヴォーという、肉料理のための加工品。
仔牛のフィレで、ほかのいろんな部位を粗みじんにしたものを
まるく包んで脂で巻き、さらにタコ糸で縛る。
これを鍋で(たぶんちょっと蒸し焼きみたいに)焼き上げる。
1950年代くらいまではすごくポピュラーな
家庭料理だったそうなんだけれど
いまは姿を消してしまっているのが
なぜかここサンマロのマルシェにはあって、
ジャンポール氏は大好物なのだそう。
きょうの夜はこれをふるまってくれるらしい。
やった!
旧市街で、ホテルへ荷物を預ける。
じつはパリからネットで予約したホテルが満室で、
「理由はわかりませんが、1か月前から満室だったのに
誤作動で予約を受けてしまったらしいのです。
かわりのホテルを探します」と、
そのホテルがちかくの宿をとってくれた。
中心部にあるこぢんまりした宿。
ひさしぶりに湯船がある。
そして部屋は小さいのだけれど
なぜか200平米くらいありそうなテラスがついている。
(というか、面している。)
昼は、ジャンポール宅のはすむかいのビストロへ。
このあたりはガレットやクレープが有名で、
このビストロももともとガレット屋だったのを
そのまま使っているということだ。
レンヌで開いていた人気店をもつ29歳のシェフが
ここに再オープン、地元の人に人気のお店らしい。
つきだしが、カリフラワーのムース&リエット、
前菜に、小さな貝の蒸したもの。
メインは、仔牛の内臓とセロリのソテー。
ロゼ、赤とワインもいただく。おいしい。
デザートはティラミスと桃、というのを頼んでみたら、
イタリア的なものではまったくなく、
じつにフランスらしい感じのものになってた。
桃は今、旬。とてもおいしい。
彼らの頼んだアンコウも味見させてもらったが、
これがひじょうにうまかった!
さて、食後はクルマでちょっと遠出。
牡蠣はマルシェでは買わず、
となり町で買うのだそうだ。
カンカルというあたりが養殖地で、
そこで直接買うほうがずっと安くておいしいというので、出発。
途中、ヨットレースの出港地として有名な岬へ。
(名前忘れちゃいました。)
ここがキレイでねー。
しかしバカンスシーズンも終わった今、
うろうろしているのは高齢の観光客ばかり。
ちょっとひなびた感じがまた悪くないといえば悪くない。
カンカルでは、どう見ても一般の人には売ってくれそうにない
牡蠣小屋(といってもでっかい)に入っていく。
ジャンポール氏は以前ここの
ブローシャーをまとめる仕事をしたことがあるそうで、
それが縁で、こうして業者にまじって買わせてもらえるんだって。
たしかに鮮魚店としての名前が入ってる。
つづいて、カンカルの町にある
オリヴィエ・ロランジェのスパイス店へ。
化学を専攻していた学生の頃に暴漢に襲われ
体に障がいをもつ料理人で、
カンカルで三つ星のレストランを持っていた。
まだそんなに高齢ではないのだが
体がもたないという理由で「星を返上」し、引退、
残ったスタッフを食わせるために、
カフェや料理教室、
そしてこのスパイス店を運営している。
この料理教室行きたいなあ‥‥。
せめて、と、スパイスをすこし買う。
サンマロに戻って城塞のなかの旧市街をうろうろ。
第二次世界大戦で爆撃を受け、
ドイツ軍にはそうとう酷い目にあったそうだが、
戦後の復興で(石組ひとつずつ合い番をつけて組み直したんだって!)
いまのうつくしいすがたになったサンマロ。
きれいすぎるくらい、きれい。
パリにある猥雑さがまったくないのが、
いいところでもあり、物足りない部分でもあるんだろう。
歩いていたらあっというまに夕方も過ぎてしまった。
8時に待ち合わせて、ジャンポール氏宅へ。
天井は2フロアぶん、
面積は150平米くらいあるんじゃないでしょうか、
もんのすごいオシャレな空間は、
じつはほんらいもっとスッキリしているはずだったのが、
別の部屋に住み、ファッション関係の仕事をしているHさんが
部屋を改築するため、仕事の荷物をすべてジャンポール氏に預けているので、
謎にレディースのブランド服がぞろりとあったのでした。
日本のデザイナーものは、その服じたいが、作品。
シーズンごとに入手できなくなり、
散逸してしまう運命にある洋服たちだけれど、
いま美術館や博物館が積極的に収集していこうという
気運が高まっているのだそうで、
Hさんはそれをコーディネートしたり、
みずから買い付けて保存しておいたりするのが仕事。
ぼくの大好きな川久保玲さんや渡辺淳弥さんの
ショーに出したコレクションがあったりして、
もうぼくとしては大興奮。
サンマロに来て何度「来てよかった!」を言っただろう。
ぜんぶ本気で言ってます。
「こぶドレス」初めて見たよー。
かっこいいよー。
さてさて、ディナーは、ガレットで巻いたソーセージやオリーブ、
オンドゥイエ(豚腸のバウムクーヘンみたいな形状のソーセージ)を肴に
スパークリングワイン。
つづいて、お針子さんの作業台をテーブルにして、
牡蠣と、白いちいさな貝を生で。
レモンも搾らず、ビネガーもケチャップもつかわず、
このまま(海水の味で)いただくのがいいのだそう。
たしかに美味しかった!
そして、オマールの冷製、ムール貝が前菜。
メインディッシュは、さきほど市場でつくってもらった
ポンピエット・ド・ヴォー、
つけあわせは、焼いたネクタリン、煮豆、ジロールのソテー。
器づかいがとてもじょうずで、
作家物から古典的で家庭的なものまで使っている。
ワインはラングドック。
ほのかに燻香がしてとてもおいしい。
今回の旅ですっかりラングドックファンになっている僕。
デザートは、まずチーズ。
チーズのお皿は、蚤の市ですごく高かったという
チーズ用のお皿で。かわいい。
そしてミラベルのクラフティ。すっぱくて美味しかったなあ。
最後の紅茶は、なんと静岡産。
しかも器が、
「これ余宮隆ですか?」
と、酔っぱらってそのまま訊いたら、ビンゴ。
フランスの、
ブルターニュの、
サンマロで、
余宮隆のうつわに会うって!!
余宮くんよかったねー!
こんなところまで、きみの作品は、届いているよ。
すごいねーっ!!!
いつのまにか2時近く。
ひとけのない旧市街をてくてく歩いて宿に戻る。
ああ、来てよかった。