そうだ、新作が出てるんだった、と、
コム デ ギャルソン青山店に行く。
年始、東京に戻る飛行機で読んだ新聞に
川久保玲さんのインタビューが載ってて、
それがとても刺激的だったのです。
「すぐ着られる簡単な服で満足している人が増えています。
ほかの人と同じ服を着て、そのことになんの疑問も抱かない。
服装のことだけではありません。
最近の人は強いもの、格好いいもの、
新しいものはなくても、
今をなんとなく過ごせればいい、と。
情熱や興奮、怒り、
現状を打ち破ろうという意欲が弱まってきている。
そんな風潮に危惧を感じています。」
「ファッションの分野に限らず本当に個性を表現している人は、
人とは違うものを着たり、
違うように着こなしたりしているものです。
そんな人は、トップモードでなくても、
Tシャツ姿でも『この人は何か持っているな』
という雰囲気を醸し出しています。
本人の中身が新しければ、着ているものも新しく見える。
ファッションは、それを着ている人の中身も含めたものなのです。」
「ファッションは非常に感覚的なものなので
軽く見られがちですが、
実は人間に必要な力を持っています。
理屈やデータではなくて、
何か大事なことを伝えて感じてもらう。
アートとも違って、人が身につけることで深い理解が生まれます。
軽薄と見られがちな部分も含めて私はファッションが好きです。」
そんな言葉を読み、これは本気で
コム デ ギャルソンの新しい服を見なくちゃ、と思ってたんです。
ということで青山店。
入り口にパリコレクションで使われた
川久保玲さんの「拘束された花嫁」シリーズ
(正式なネーミングではないと思う。ぼくがそう呼んでるだけ)、
まさしく一点ものの作品群がみっしりと並んでいる!
もちろん、非売品。
コレクションに出した作品というのは
ぼくらが手にする商品が「版画」だとすると
「彫刻」みたいなもので、明らかに迫力がちがう。
どこがどう違うんだ、と言われると困るんだけど、
すぐ横にはそのコレクションが商品になった状態で
並んでいるので、比べてみるとよくわかる。
神と天使くらいの違いがあるんだろうか。
パワーとしては本殿とお守りの違い?
生音を聴くのと録音を聴くような違いとか?
とにかく、そりゃあもうとんでもないものです。
その「拘束された花嫁」シリーズは、
手前のほうはじっくり見られるんだけど
花嫁たち、通路にぎっしりといて、そこは通れない。
つまり奥の方はほとんど見えない。
けれどもその花嫁たちが集合体として、
地響きみたいな不穏な迫力を出していて、ちょっとびびる。
なんだろう、この強さは?
こどもとか、けっこう怖がるかもしれない。
真っ白なのに! 真っ白だから?
服というものが、こんなふうにパワーをもっているなんて、
あらためて驚きました。
ぼくは渡辺淳弥さんの「古着デニムのパッチワークで仕立てた
ウエディングドレス」を見たときの感動が忘れられないんだけど、
それが量をともなって、ずしずし(しずしず、ではない)
と、やってきたみたいな感じ。地響きとともに。
花嫁たち、歩きそう‥‥。
デュシャンか。
さて、それはそれとして店内一周。おもしろーい。
HOMME PLUSのフリルつきシャツや
SHIRTSの花柄パッチワークシャツなんか、ほんとうにかわいい。
ネクタイでつくった帽子(というものがあるんです)も!
が、ここは我慢、
なぜなら10 CORSO COMO COMME des GARÇONS
(以下、コルソコモ)が待っているから。
10年の営業を終え、この2月末で閉店、
3月にオープンする銀座の巨大店
Dover Street Market GINZAに吸収されるこのお店は、
ぼくの、東京でいちばん好きな洋服店。
開口部が大きいから明るくて、
スタッフはみんなコム デ ギャルソンならではの
「自由さ」があって、でもぜんぜん気取ってなくて
(同じブランドなのに店によってスタッフの
チームカラーがあるんだよなあ。
青山店は青山店で、とてもすてきです)。
ラインナップは、青山店が
川久保玲さんのギャラリー、ミュージアムショップだとすると
コルソコモは渡辺淳弥さんのベースキャンプ。
ぼくの好きなJUNYA WATANABE MAN(以下JWM)やeYe、
そしてHOMMEがある。
今期は、武井が見たら気がふれるというくらいかわゆいと
聞いてはいたんだけど、‥‥たしかに。
ねじ、飛んだ。
今期のJWMのテーマは「農夫」。
パンツはオーバーオールが基本で、
シャツはパッチワーク。
スタッフの長髪君がそんなスタイルでニット帽だったのが、
アメリカ映画に出てくる青年ぽくて、
「うっかり犯罪に巻き込まれて
途中で死んじゃうちょっとアホなキャラっぽいよね」
と、褒める。褒めてます。
あ、そうか、今期は、
わりとそういう「○○っぽい」感じになる服なんだ!
しかしだなあ、この手のものは、武井、似合うと思うんだが、
その似合い方が、やっぱり「農そのもの」に、
なりはしないだろうか。
なにしろハイファッションの世界、
「農」をアメリカンカジュアル経由でモードの世界に持ってくる、
というかなりとんでもないことをしているわけで、
着て「農そのもの」に見えてはいけないはずだ。
いやいっそぐるっと回ってそれもアリ、か?!
しかしなあ‥‥なんて考えていると、
案の定オーバーオールを勧められる。
そりゃ今期のフラッグシップですよ。
でも、やっぱり「農」すぎやしませんか。
だいたいオーバーオール、中学生のとき以来だから
30年ぶりってことになる。自信ないです。
しかしスタッフ氏は
「だいじょうぶですよ、そういう形じゃないですから」
と言ってくれる。けどねえ、ほら、そこで試着している、
とても他人とは思えない40代坊主頭で固太りのおじさんを見なさい。
デニムのオーバーオールがあまりにもよくお似合いだ。
あまりにも、だ。
そうだ、「農」そのものじゃないか!
ごくろうさま、きょうもおつかれ!
一杯やっか? かあちゃん元気か?
と、ぼくも、そうなるに決まってる。同士よ。
でも勧めてくれたのは黒のコットンの、
ぶかっとしたスタイルで、
背中はつりひもがX字状になってる、
仕様としてはサロペットっていうのかな、
そういうかなりおしゃれオーバーオール。
‥‥似合った。言っちゃなんだが、似合った。
「おお、まるで、ショーから抜け出たみたいじゃないですか」
と、まあさすがコム デ ギャルソンのスタッフである。
よく言うよな。ま、うれしいがね。
(単に、着ている組み合わせが、ショーで使われていたのと同じ、
というだけのことである。)
同時に勧められた長靴(というかブーツ)は、
それを履くと、「農」を通り越しましてですね、
「酪農」「畜産」方面に行くんですな。
あるいは漁業。街場で言えば、マグロ解体か、
生ハム1本担いでお届けか、そんな感じになる。
どれか選べと言われたら肉屋だな。
奥さん、今日は和牛の赤身が安いよ!
テール? 冷凍になっちゃうんだなあ。
というような台詞が似合いすぎる。包丁が似合う。服よりも。
ということで諦め、
最初に着た白地オックスフォードがベースの
パッチワークシャツと、黒のオーバーオールの購入を決めました。
さっそくオーバーオールを着て一日歩く。
ああ、とっても気分がいい。
今着たい服を今着るって、
こんなにも気分がゆたかになるものなんだ!
そんなこと今更気付いたりして。
あしたからまたがんばれそうだ。
ちなみに、最初に引用したインタビューでは
川久保さんはこんなふうに語っている。
「もう負けかな、と思うこともあります。
状況を変えられていないのは事実ですから。
けれども、ファッションにはなお、
人を前向きにさせて、何か新しいことに挑戦させる
きっかけになる力があると信じています。」