土曜日。
海に沈んでゆくサンティアゴのシーンが
じつは頭を離れなかった一日。
しかしそんなセンチメントはどこふく風の、
にぎやかな一日でした。
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朝、織部の羽釜で炊いたごはんに
生たまごをかけてかっこんで、急いで床屋に。
秋が来たし(飽きが来たし?)
ちょっと長めにしようかな、
と理容師のチバさん(美女)に相談、
久しぶりにバリカンを使わない、
ハサミだけでのカットをしてもらう。
これ、なにがいいかというと、
仕上がりがやさしいのはもちろんなんだが
(なでると気持ちいいぞ、という情報は要らないか)、
ハサミが耳元でちょきちょきいう音の、妙な幸福を感じる。
そしてバリカンのモーター音がしないからけっこう話ができる。
チバさんも、バリカンよりずっと技術が要るので
さらなる真剣さをもって臨んでくれるところもいい。
そういえば、チバさんに決めたのは
ハサミ使いがものすごく上手だったからでした。
結果、自分的には「長っ!」の仕上がりですけど
世間的には長めの坊主頭でしかないと思います。
上のほう、もっと伸ばしてみよう。
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終わって、コレド日本橋アネックスにある
「サンパウ」へ。
友人の誕生日の食事会。
正確には誕生日じゃないらしいんだが、
なんでも誕生月は疎遠になってる友人となるべく会って
贅沢なごはんを食べるのだそうで、
きょうはぼくの番らしいんですな。
ぼくとしても、理由のある贅沢ごはんは
罪悪感が少ないので歓迎。
久しぶりです、元気だったですか、
というような挨拶はそこそこに、
すっかりメニューに夢中。
ランチにしてはなかなかの値段のまんなかのコースを奮発、
ワインもグラスでソムリエにお任せ。
エル・ブジ系といいましょうか、
「現代風スペイン料理」は初めてなんだけど、
なるほどこういうものでしたか!
日本料理に通じる、素材を生かしての繊細な調理。
うつくしい盛りつけ。
和洋中、カテゴライズできないくらいの、高みの味。
「もうキリスト教も仏教も、おなじ」
というくらいの気分になる。
おいしい。とても。
そして店が楽しい。
スタッフもとても気さくなうえ、よく勉強してる。
シェフはアルゼンチン人で、
メンドーサ(アルゼンチンワインの産地)出身の奥さんが
サービス係として勤めてて、
日本語、英語、スペイン語がちゃんぽんにとびかう感じも楽しい。
ぼくはスペイン語は「おいしいです」「ありがとー」
「ビールください」「トイレどこですか」くらいなら言えます。
あと「スペイン語話せません」というのを丸暗記で憶えてて、
「No Habla Español!」と
流暢ぽく言うと笑われる。喋ってるじゃない、と。
そりゃそうだ。
けっこうな量のワインを飲んで誕生会終了。
ぼくは酔っぱらったまま半蔵門の
「三木鶏郎追悼コンサート」へ。
鶏郎さんは以前、特集をつくったことがあって、
大瀧詠一さんや
細野晴臣さん、鈴木慶一さんに話をきくという
なかなか素敵な体験をしました。
今回は慶一さんが出演。
名司会!
慶一さんはものすごく役者のセンスがある人なので
こういう「冗談音楽」的なことはほんとうにはまる。
あと、ダーク・ダックスとポニー・ジャックス、
スリー・グレイセスが見られたのは僥倖。
ダーク・ダックス、半分になっちゃったんですね。
ちなみに世代的に、鶏郎さんの曲というと
やっぱり「トムとジェリー」ですね。
あの曲が日本オリジナルだなんてびっくりでしょ。
そういう人なんです。超洋楽センスの人。
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コンサートが終わったら外は豪雨。
昼の続きで「二次会」(っていうの?)で
赤坂で鮨の約束をしてたのでタクシーに乗る。
ちょっと早く着いたのでてきとうな店に入り
ひとりでお茶を飲んでたら頭が痛くなってきた。
昼、呑みすぎたか?!
これじゃ寿司が楽しくない、とかばんを探ると
ロキソニンが出てきたので、のむ。
すぐ効くだろう。
でも酒はやめとこう、くやしいけど。
赤坂の「宇廼丸山崎屋」。
浄土寺の境内すぐ横、みたいなところにある
とても品のいい鮨屋。
割烹スタイルというのか、
おまかせでいろいろつまみが出てきて、
最後に鮨がひととおり出るんだけれど、
そのすべてが‥‥んまい。すごく、んまい。
満腹になるころにはすっかり調子が戻りました。
考えてみると昼も夜も話題のほとんどが、
「これねえ、指輪、もらったんだ」とか、
同席者の「のろけ」ベースだった気がするが、
いいか、ま、誕生月だから聞いてあげます。
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例の退院した地方在住の年長の友人が
一家(奥さんと息子さんと)で、
姪ごさんの披露宴に出席というので上京、
「いま披露宴終わったんだけどさあ」と電話があったが、
「あ、そう。だから何。こっち、鮨だから切るね。ガチャ」
‥‥というのはたしかに悪かったと思うが、
べつに冷たいわけじゃなく、
武井に鮨の前に電話してくるからそういうことになるのだ。
電話ありがとうございます、何年も会っていないですね、
夜でよければ、宿のほうまで行きますから、
みんなで軽くお酒かお茶でも飲みましょう、
と誘うのが礼儀だったかなと、
いまごろ思っても、もう遅いですね。
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日曜日。早起きして半身浴しながら、
はだか読書で「小暮写眞館」を読む、
というところまでは日常どおりだったのに
そのあと出勤せず(日曜日だから)、
腹は空いたが食材はからっぽ、
買いに行くにはまだ早い、というところで眠くなった。
そして二度寝。
気付いたら午後。
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ふらふら起きて慌てて食材の買い出し。
一週間ぶんの食材とともに、
ごはんは昨日の「おひや」があるので
おかずだけ適当に買ってきて、朝昼兼用の食事とする。
(鶏もものてりやきと、シウマイ、あと蒸したキャベツ。)
「ブランチ」などというムードからはほど遠い。
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そういえば、伊勢丹で「イタリア展」をやっているんだった。
連休のまんなかの午後なんて、混んでるに決まってるんだけど、
あえて乗り込むことにする。
あんのじょう、ものすごい混雑。満員電車みたいだ。
しかも20万円のバルサミコも完売したとか、
景気のいい話が聞こえてくるなか、
BIOのワインを試飲。
酸化防止剤も極力使わない製法とかで
樽熟成をかけないので、わりと若い感じの味だけど
とてもおいしい。
これも、あれも、と飲ませてくれて、
気付いたらそれなりに酔っぱらい、
スプマンテ1本、赤1本を買うことに。
ひとりで飲むのももったいないから
なにかの機会にどこかに持ってこうかな。
人が呼べるような家だったらいいんだけどねえ。
さらにオリーブオイル、
かなりよさそうなものをてきとうに2本。
そして20年ものなのに5000円という
破格に安いバルサミコを1本。
(試飲したらものすごくおいしかったんで!)
そのオリーブオイルとバルサミコを買った農園のブースで、
「こちら四代目のオーナーです」というイタリア人実業家
(たぶんぼくより若いが、貫録は圧倒的に向こうが上)が
お買い上げありがとうと、なぜか瓶にサインをしてくれた。
ぼくの名前まで入れて。
サイン入りバルサミコって、この人誰?
貴族?
ともあれグラッチェ。
さらに、なんと生で並んでいた
ポルチーニ、あんず茸、紫きのこ(名前忘れた)、
イタリアのヒラタケ、そしてトリュフ(!!!)を買う。
生ですよ、生。ひーっ。
あとカラスミとパンチェッタ。
もう、アメックス切りっぱなし。大丈夫か。
明日は高級パスタだ。
トリュフの売り場で隣に並んでいた高齢のマダムとぼく。
店の人が、お会計はご一緒に? などと訊くので、
「ぼくたち、カップルだと思われましたよ!」
「あら、すてきね。ふふ、でもおばあちゃんと孫よ!」
と、ひそひそ話。すっかりイタリア人気分な私たち。