元旦。
祝日で、どこも休み。
街はひっそり。
でもずっと部屋にいるのもなんなので、
明るいうちにちょっと散歩するかな、と、出かける。
いつもは建物を出て右に行くので、
左に行ってみましょうか。
目の前のリシャール・ルノワール大通りは
もともと運河だったということで、
いまも地下を水が流れているらしい。
その上は細長い公園になってて、
こどもの遊具だとか、青空卓球台なんかがある。
どんどん北上していくと、水が現れる。
サン・マルタン運河。
ウィキペディアによれば、
「セーヌ川のアルスナル港から、ラ・ヴィレット運河と、
その続きのウルク運河を結んでいる」そうで、
全長4.55キロ。1825年の開通で、
もともとは飲用の水をたたえていたらしいけど、
いまはなにかの役にたつというより
「水のある環境」のために残されているというか、
いわばぜいたくな余生を送っている運河である。
運河沿いの歩道はきれいに整備されていて、
つまりはやたらと犬の落とし物が多い。
あんまり運河に見とれていると
「むにゅ」ということになるので注意が必要である。
じっさいそこかしこに「むにゅ」となったものがある。
パリの人もけっこう踏んづけちゃってるみたいだ。
ぼくはあんがいこういうのはうまくよけます。
てくてくと、どんどん歩いていく。
閘門をいくつか過ぎ、
振り返ると、夕焼け‥‥とは言えないけど、
冬の薄日が、雲のあいだに消えようとしているのが見える。
木立がまるはだかになって、まっすぐ天を仰いでいる。
ひとり旅って、わりといつもうっすらと緊張してるんだけど、
こういう風景を見ると、なおさら、
ひとりであることをひしひしと感じると同時に、
ひとりの人間として、旅人として街に受け入れられている感じというか、
すくなくとも拒絶されてはいないような気分になる。
妙なものだけど、しみじみと、来てよかったなあと思う。
こういう寂しさを味わうために、旅をしているような気がする。
ラファイエット大通りに出たところで、ななめに折り返す。
もうちょっと早い時間だったら、西へ西へと進んで、
モンマルトルまで歩くところなんだけど、
たぶん歩いているうちに真っ暗になっちゃうだろうなと、
東駅を横に見て、北駅に向かうことにする。
陸橋を渡る。たくさんの線路が見える。
北駅。
ユーロスターがロンドンへ、
タリスでブリュッセルへ、アムステルダムへ、ケルンへ。
夜行列車はベルリンへ。
ローカル線はフランス北部のまちへ。
都会の大きなターミナル駅は、
人がおおぜいいればいるほど、
妙な興奮と寂しさが入り交じっていて、
いつまでもじっと眺めていたくなる。
あたたかいものがほしくなる。
ぼくも帰ろう。
ということで、地下鉄5番で、ブレゲ・サバン駅まで戻る。
まったく観光コースではない散歩だったけど、
なんかやたらと楽しかったです。