最終日。
いつものように朝ご飯をつくる。
最初に買ったスーパーの豚肉を、
塩こしょうして冷蔵庫で寝かせておいたのが
いい感じに熟成してきてベーコンのような匂いに。
たまねぎ、にんにくといっしょに細かく刻んで、
オリーブオイルと白ワインで煮て、パスタのソースに。
それからサラダ山盛り。
きょうはポンピドーセンターに行くか、と、
ぶらぶらと通りを歩く途中、
ヴォージュ広場の手前に
ライヨール(ナイフの産地です)の専門店で、ひっかかる。
うむ、ライヨールほしい。
東京にあるバスク料理屋で使ってるのを見て、
いいなあいいなあこれほしいなあと思っていたのです。
そして、旅の終わりは、いままでけっこう締めていた
財布のヒモがゆるみます。
こんにちわ、マダム。英語は話せますか?
と(フランス語で)訊いたら、
「ウイ、アンプー」(ちょっとなら)と
フランス語でかえってくる。
むむむ。通じるのだろうか。
「ふだん遣いの、テーブルナイフが、
2本ほしいのでございますよ」というような感じで
妙なフランス語2割と、英語8割のまじった言葉で
説明をする。どうやら通じたみたい。
金属の柄、樹脂のカラフルな柄、そして木の柄を出してくれる。
どうぶつの角を使ったものもあったけど、
とてもじゃないけど高価すぎ。
木の柄で、ちょっとエキゾチックな文様の入ったナイフ、
2本、買いました。
4本が箱に入ったセットをばらしてくれて、
その木箱もつけてくれた。
ありがとうマダム!
そういえばスーパーでも、
6本入りの水をばらして買っても
なんともいわれないお国でした。
けっこう重いので、いったん部屋にもどってナイフを置き、
再度出発。
ランビュトー通りをポンピドーセンターに向かっていたら
洗濯に行く途中のりえこさんにばったり会う。
すぐそこがランドリーだというので見学。
お店のこどもらしいちいさな兄弟がずっと遊んでいる。
このこはおとうとのほうです。
しかし、なんでしょうね、この、
こどもながらにアンニュイな感じは!
さっきまで元気かと思ったら
電池が切れたみたいになるんです。
と思ったら、また笑った。
ポンピドーの前に、
BHVという、東急ハンズとかLoFtみたいなデパートが
HOMME館をつくったというので見に行くことにする。
ふうむ‥‥伊勢丹メンズ館を、低予算にした感じといいましょうか。
ハンチングをひとつ買う。
そして、ようやくポンピドーに。
入場券を買う前の、
建物に入るセキュリティチェック待ちで、
ものすごい行列ができている。
たぶん30分から1時間待ち。
ここ、いつもこうなんだよなあ。
でもパリ・ミュージアムパス2日券を持っていたので
左の列からすぐに入れてもらうことができました。
しかし中に入ったら入ったで、入場券を買う長蛇の列。
ミュージアムパスでは常設展しか観られず、
企画展は入場券を買わなければならない。
それを買うにはたぶん30分以上待ちそうなので、
常設展示だけにする。
印象派にはじまった近現代芸術のながれが
きっちりわかるようになっている。
近代美術がはじまったのはフランスなので、
なにしろその遺産が膨大。
MoMAをしのぐと思います。
2フロアにわたって、時間軸にそって、
作家別に部屋が続く。
現代作家になると、ほとんど名前はわからないんだけど、
日本で同様のものを見ると、
最近のものになるにしたがって、
「これ、まだ誰もやってないよな?」競争に見えて
芸術家不遇の時代を感じてとてもせつなくなるんだけど、
ここのキュレーターが集めたものを観てゆくと、
まだまだ現代芸術にはやることがあり、
先に、荒野か広野かわからないけれど、
まだ進む道があるんだということを、
その先に灯があるんだということを、
ちゃんとわからせてくれる。
つまりは、元気になります。
やっぱりポンピドーすごい。
自分の記念写真がなかったぞと
鏡系のアートで自分撮り。
ということで、企画展示のジャコメッティや
キアロスタミを見たくなる。
しかし長蛇の列に並ぶのはいやだ。
ということで、年間パスをつくっちゃいました。
これで入りほうだいです。
さあ、ジャコメッティ。
「あまりかわり映えのしないすんごい細い彫刻をつくる人」とか
「ブレッソンの被写体になってる人」くらいの
あまり魅かれる印象のなかった芸術家なんだけど、
‥‥認識、まちがっておりました。
生涯、ほんとに生涯、ひたすらに、
芸術にうちこんだ人だということ、
そして、視線は一貫していながら、
なにか自分のなかの抗えない力のようなものによって
その作風を、すこしずつすこしずつ、
ていねいにていねいに変えてきたひとだということ。
たぶん常人にはわからない、
ほんの少しの狂気のようなものをまじえながら
ゆるやかに変化していくようす。
ずっとネクタイをしめている、その律する感じ。
ジュネやサルトル、矢内原伊作を描いたポートレートの凄さ、
デッサン類のおそろしさ。
いやはや、いままでまったく理解してなかったです。
すみません!! と、あやまりたい気分。
平伏。
さらに、キアロスタミの、静謐な写真の展示やらを
ぼんやり味わって、ほかもかけあしで回ったあと、
ポンポドー内の書店へ。
2年前、ダダ展のカタログ類があまりに重くて
ほしいものがすべては買えずにいたうえ、
Amazonでも手に入るだろうと思っていたものが
ことごとく入手不可能だったもので、
今回こそはと思っていたのです。
あるある、どっさりある。
読みたい本がどっさりある。
フランス語は読めないけど、
シュヴィッターズの大回顧展のカタログ、
ポンピドー収蔵の写真のカタログ、
どこぞの美術館の写真のカタログ、126ユーロ分購入。
いずれもでっかくて厚くて重いので、
館内にある郵便局の出張所で小包にして
日本の自宅におくりました。
ううむ、フランス語が読めたら、
ここにある本、読みたいものいっぱいだなあ。
と、自分の不勉強をいまさら嘆く。
午後6時。
りえこさんと小野さんのアパートで落ち合い、
ランビュトー通りのおいしいブランジュリー、
pain de sucreへ。
年が明けたので、ガレット・ド・ロワが出ているのです。
でもやわらかくてさくさくだから、日本までもってっても
つぶれちゃうかもしれないけど、縁起物なので購入。
いちおう箱に入れてくれました。
そしてMiller et Betauxへ。
こないだめぼしをつけていた、折畳みの布バケツを買う。
そして、ピクルスの瓶詰めみたいな、
「なんにでも効くよ」というお守り。
じゃあ、またパリに来れますように、ということで購入。
さらに、コンピュータ用の十字架。
コンピュータを守るのか、
コンピュータから守るのか、よくわからないんだけど。
さて、最後の夕ご飯。
写真家のマツイくんの仕切りで、
とある住宅地にある、とあるレストランへ。
マツイくんは、おくさんが料理文化研究家で、
フランス語の文献を邦訳したりしていることから、
いわゆる星をとった一流シェフたちと交流がある。
そして、おいしいものには目がない。舌が確か。
そのマツイくんが、ぜひぼくを連れていきたい、
と思っていたという、このレストラン。
名前は伏せてねという約束ゆえ、
店名は消した写真でございますが、
15区にあるバスク料理の名店が、
ぜんぜん違う場所に出店した二号店です。
念願のバスク料理!
メニューはシンプルで、豚か仔牛か牛か帆立。
いずれもグリルしただけ、というもの。
ぜひにとのおすすめで、豚肉を選び、
(ボリュームたっぷりというので、5人で2皿)
10ユーロ足して黒トリュフをかけてもらう。
あと、仔牛も1皿、もらう。
うまいっ! 粗野にして繊細。
まったくもってぼくの好み。
パリで食べた豚肉で、いちばんうまかったです。
バスク地方って、ものすごいマッチョな土地柄なのに、
日本ではなぜか「かわいいものの郷」としてだけ
有名になっていることに憤慨し、
いつか「男のバスク」という取材を(自腹で)しようと
マツイくんと約束。
スペイン側も、そうとういいらしいです。
いずれぜひほんとうに行きましょう。
さらに、デザート4種。
マンゴークリームを、フィナンシェにつけて食べるのが
ものすごくうまかった。
地下鉄で移動。
ぼくが最終日ということで
「ものすごくベタな観光をしよう」となる。
凱旋門を見たことがない、というぼくを
コンコルド広場の観覧車へ連れてってくれました。
わぁ、きれいだ。
係員のあんちゃんが日本語で「DONDAKE!」とか
そういうくだらないことを言うけど、
そういうことを抜きにしても、きれいだ。
これは、いっそ、乗るべきでしょう!
と、8ユーロ(高い)払って乗る。
ものすごく寒いけど、シャンゼリゼの涙の電飾
(涙が流れ落ちるように動いている)が
行き交う車のヘッドライトとテールライトとともに
凱旋門へと続く長い長いトリコロールになっている。
まいっちゃうよなあ。
さらに深夜のベタ観光は続き、
クリヨンからリッツの横を抜けて
フォーブルサントノレへ。
ブランド街ですね。
深夜なれど、ウインドウショッピングが楽しい。
新装開店したエルメスやら、
ジョン・ガリアーノのディスプレイを見て
きゃあきゃあ言う。こういうのも面白いです。
深夜だから、遠慮なく見られるし。
カフェに入り、ちょっとだけお茶をする。
カフェ・アロンゾ‥‥うすめたエスプレッソです、
で、あたたまるのもつかのま、
もう12時もまわったし、雨も降り始めちゃったし、
ということで、おひらき。
タクシーで戻る。
さよならパリ。
部屋にもどり、荷造り。
塩だの缶詰めだの、食品まわりばっかり買い物をして、
意外とヘビーなことになりましたが、
なんとかパッキングできました。
もう2時すぎか。
4時間ほどねむり、朝、暗いうちに、
残った食材をりえこさん宅に届ける。
寝てるみたいなので、
隣の部屋の小野さんに託す。
これで片づけ終了。
寝てるりえこさん、どうもありがとう。
お世話になりました。
あたらしいスタート、おめでとう!
9時半、チェックアウトをして、タクシーを呼んでもらい、
ロワジー(シャルル・ド・ゴール空港)へ。
よく晴れていて、きもちがいい。
朝日がまぶしい。
さよならパリ。
自炊旅行、たのしかったなあ。
また来ます。そのときは、よろしく。