デジカメを、と思っていた予算は
ジュンヤ・マンのカウチンベストに
へんしーん! してしまいました。
だってクリスマス限定のどくろ柄でもちろん手編みで、
しかも来シーズンのコンセプト「アウトドア」を
先取りした一品で、コルソコモの山崎店長ったら
「ジュンヤさんからのプレゼント的な商品ですからね」
なーんて言うんだもの。‥‥ください。
いまごろはちょうどいい寒さ。家に戻り勇んで着てみたら、
‥‥。
マタギ?
●
高校生のころ小遣いをすべて
本とレコードに使ってしまう僕に母が呆れて
「本はいいけど、あんたにはそんなに音楽は要らないんだから!」
と怒ったことがあって、
いったいこの人は何を言っているんだろうかと
たいへん驚いたことがある。
小説を読むことは人生を豊かにするけれど
音楽を聴くことはまるで意味のないことのように言うのだ。
うちの親はなにかと理解があるほうだったし
お小言もたいていは納得できることばかりだったけど
これはどうしても納得できなくて弱った。
たぶん「金遣いが荒い」ことの表現の一つだったのだろうと思うけど。
でもまあ、そう言われたからといって、
新しく出る好きな音楽家のLPは買わないわけにいかないし
じぶんの好きな音楽のルーツをさぐる旅ができる
レコード屋での時間はやっぱり楽しくて
でも月にLPは1枚買うのがやっとだから
店頭で試聴をくりかえして、
やっと買うことにしたレコードは
何度も何度も聴いてきたわけだ。
いまぼくのiPodやiTunesには
その当時の音楽も入っているけれど
いま、そんなふうに何度も繰り返して聴くのかというと
そんなことはなくなった。
大量に入っている曲目は
ずらりと並べられたホテルのバイキング料理のようで
あるいはファミリー・レストランのいつも同じ味の料理のようで、
またはコンビニの、いつでも棚を埋め尽くしているお弁当のようで、
食べられなくても「たっぷりあるのが当たり前」。そんな感じなんだもの。
でも、ぼくはやっぱりバイキングよりアラカルトで選ぶ
とくべつなレストランが好きなわけである。
それがごちそうってもんだ。ごちそう大好き。
じゃあ音楽におけるごちそうってなんだろう?
もちろんライブに行くことは大ごちそうなわけだけど
それって特別すぎて、招かれた晩餐会クラス。
コンビニやファミレスではなく
自分で時間をつくって「その店に行って食べること」が
ちゃんとイベントになる、すばらしいレストランのような音楽。
それって、なんだろう?
──秋葉原に行った。
ほんとうに久しぶりに秋葉原へ。
何年も前に御茶ノ水の勤めを辞めたのと
その後友人が秋葉原の会社を辞めたのとで
すっかり足が遠ざかってしまってた秋葉原。
電気街、ああいう喧騒やちょっと妙な雰囲気は
嫌いではないのだけれど、なかったのだけれど、
今の秋葉原ってどうも「狂気」がはびこってる気がして
(じっさい、そうでした)
どうも好きではない。
散歩の足も神保町から神田の先へは伸びない。
なのに久しぶりの秋葉原に行ったのは
「サウンドクリエイト」という
高級オーディオショップで予約制の試聴会があったからです。
「ほぼ日」のハリさんがオーディオを買い替えるのに
視野に入れているのが「LINN」という英国のオーディオで
それとスピーカーをいろいろつなぎかえて
どんなふうに違うかを聴かせてもらいに行ったのです。
LINNは車で言うとどのあたりなんだろう。
英国だから、でもジャガーまでは行かず、
モーガンでもないな、ディムラーでもないな、
やっぱりローバー的なところなのかな。
ハリさんが買おうとしているのはなかでもミニ的な、
趣味が良くコンパクトで、いい音がするLINN。
すごくいいセレクトだと思う。
せっかくだから試聴用のCD持ってきたらいいですよ、
ということで矢野顕子、ムーンライダーズ、
ジョニー・キャッシュ、ルーファス・ウエインライト。
主に試聴はハリさんのXTCとジョアン・ジルベルト、
もうひとりの同行者のビートルズと、矢野顕子をメインに
聴きまくりの4時間となった。
すごいです、機器でこんなに音が違うものかと実感しました。
最初、スピーカーを「PIEGA」というスイスのメーカーのに
つないでもらっていたんだけど、
これはすごく楽器や声が分離した、きびきびとした音がする。
スタジオで録音に立ち合ったことがあるんだけどそれに近い、
「生音」という感じ。ミックス前の生音。
すばらしいなと思う反面、やけに緊張するのはなぜだ?
ああそうか、これはまるでつくっている「その現場」
そのもののような感じに聞こえるので緊張しちゃうのである。
まるで音楽家の一員になったみたいだ。
だけど安心して聴けない、対決するという感じ。
けれどそれはそれで悪くない。
「アーティストがそこにいる」感はすごくあるから。
ジョアンの声からはリオデジャネイロの空気が伝わり、
ビートルズからはリバプールが、
矢野さんからはNYが伝わってくる。というより、そこにある。
そんなふうにいつものCDが聞こえるというのは悪くない。
でも──ぼくはこれが好きなのかどうか?
ハリさんは、音楽を長くやっていた人なので
こういう音が好みのようなんだけど、
ぼくはこういう緊張感のなかで音楽をたのしめるのか
ちょっと自信がない。
「そういうふうに聴いてみたい音もある」という感じはわかる。
こんどはANTHONY GALLOというスピーカーにつないでもらう。
ありゃりゃ、こっちは丸い。まんまるい。
CDが完成された作品であり、このスピーカーは
それを疑問なくたのしむマシン、という感じ。
さっきのPIEGAは、音がつぶつぶしている反面、
聞こえ過ぎてしまう気がするけど
こっちは音楽に「おもてなし」されている気がするな。
でも、でも‥‥ちょっと、それが、丸過ぎるというか、
さっきの緊張感がなつかしくなっちゃうくらい、丸い。
びしびしつきささるような楽しみは、ない。
人の家で、自分の好きなCDを聴いたら、
なんだか違和感があるなあという感じ。いい音なんだけど、
それはそれで物足りない気がするんだから、
むずかしいもんだなあ!!
しかしそのあとがすごかった。
280万円というLINNのCDプレーヤーに、
値段もメーカーも忘れちゃったけど
やっぱりとんでもないプリアンプにパワーアンプ、
そして90万円のLINNのスピーカーをつないでみたもので
それらのCDを聴かせてもらった。
ありゃりゃ!!! これ何?!
満場一致、いままでスピーカーごとに賛否両論だったメンツが
みんな「すごい」という音なのだ。
ハリさんの好む「スタジオ的」な緊張感もあり、
ぼくの好きな「おもてなし」感もあり、
でもどちらかに偏っているわけではない。
ひとつひとつの音がつぶつぶなのに、
全体はまとまっていて、つまり‥‥楽しい!!!
音楽ってすばらしいなあ!!!
と心から思うような音がじゃんじゃん流れてくる。
モノラル録音の古いものも
デジタルな新しいものも、ぜんぶちゃんといい。
録音したときの時代の空気まで運んできちゃうような音。
ああ、これでムーンライダーズ全部聴きたい。
これでジョニー・キャッシュ聴きたい。
矢野顕子聴きたい。大貫妙子聴きたい。
ビートルズもキンクスもビーチボーイズも聴きたい。
フランク・ザッパやトーキング・ヘッズも聴いてみたい。
ほこりをかぶっているかもしれないCD、ぜんぶ出して聴きたい。
「もっと聴かせて〜!!」と思ってしまう音だったのです。
‥‥びっくり。
さんざん聴いてきた音なのに、
ああ、この人はこういうことを伝えたかったんだ!!
と、言葉にならないけどはっきりわかるような音がする。
いままで何を聴いていたんだろう? という感じ。
「ニットキャップマン」の、
ムーンライダーズでのオリジナルなんか、
胸に響きすぎてまいった。
矢野さんの「中央線」もすごかった。
ぎゃいーん。これうちに欲しい!!!
と思ったけど、こんなの絶対に無理だよう。
‥‥でも、これって、スピーカーがいいからかな?
デッキがいいから?
と、最初のハリさんの購入希望の
プレーヤー価格にして10分の1以下のマシンで
そのスピーカーにつないでもらった。
結果、そりゃ280万にはかなわないけど
まんなかのいいところはちゃんと拾っていて、
音楽をたのしむ、という感覚は守られているのがわかった。
コンセプトが同じ。行き先が同じだけど席が違う感じ。
NY行きJL006便、あちらはファースト、こちらはエコノミー、
でも着くのは同じJFK。
てことは、ふうむ、そこそこいいプレーヤーに
この90万円のスピーカーをつなげばいいんだな?
貯金すっかな‥‥とすら思った。
音楽、いいなあ!!!
いい機会なのでかねてより疑問だったSACD。
ふつうのCDよりずっと情報量の多い
すばらしい音がするCD、ということで
ぼくの持っているハイブリッド版を聴き比べさせてもらったんだけど、
SACDって、聞こえる音はたしかに多く、すごいんだけど、
「何を聴いていいかわからない」気分になった。聞こえすぎ。
つまり、ほどほどでないと、僕は、音が、たのしめないようだ。
SACD、ぼくにはちょっといらない‥‥かな?
さてそんなで、そのあとコルソコモに寄り
冒頭のカウチンを購入したあと家に戻ったわけだけど、
あらためてウチのオーディオ、もう20年ちかく使っている
JBLのスピーカー(スタジオモニター)と
やはり15年くらいになるのかな、
サンスイのアンプα607、
CDプレーヤーとしても使ってるパイオニアのDVD、
古いけどでっかくてなかなかいい音がする、というセットで
持ってったCDを聞き直してみた。
‥‥あれ? ぜんぜん悪くない。どころか、
きょう聴いたものと比べても、系列としては間違ってない、
ぼくの好きな「いい音」だとはっきり思った。
なんだ、この音、うちにあったんじゃん?!?!
なぜそんなふうに馬鹿なことになったのかというと、
最近音楽をマックで、あるいはiPodでばかり聴いてたからだよなあ‥‥
あれで聴いているのって、
やっぱりバイキングレストランの満足に近い感じがする。
いや、それはそれで音の楽しみ方だしぼくは嫌いじゃないどころか
そろそろ新しいiPodが欲しいと思ってるくらいだけど、
‥‥でも、こういうふうに空気を通して聴く音楽のたのしみを、
どうやらちょっと忘れてたみたいだ。
思えばぼくはヘッドフォンというものが
どうもあまり好きじゃなかったなあ。
けれど自分ちでゆっくりCDを1枚通して聴くのは
なかなか時間がないんだよなあ。
ともあれ、買い替えるのではなく、
いまのオーディオをもうちょっと愛そう、と、
僕らしからぬ結論にいたりました。