レストランINUAに行ってきた。
千代田区飯田橋のオフィスビルに、
角川書店がつくったレストランである。
ヘッドシェフはトーマス・フレベルさん。
ドイツ出身で、デンマークの「noma」に入る。
「noma」はコペンハーゲンのレストランで、
『世界のベストレストラン50』のトップになったことがある。
過去形なのは、現在「noma」は閉店していて、
「都市型農場」というスタイルでの
再開店を待っているところだからです。
プロフィールによればトーマスさんは
「リサーチ&開発チームのトップとして活躍」
「東京、シドニー、メキシコでの
ポップアップ店舗でも腕をふるい、
レストランをリードしてきた」人だ。
そうか、2015年マンダリン・オリエンタル東京の
「noma」のポップアップのときの料理長だったんですね。
といってもぼくは行ってない。
じつは「ほぼ日」でぼくの担当でもある
「ほんとにおいしいカレー皿」や
「わたしのおはし」が使われたので、
行きたいなあとちょっと思ってはいたんだけれど
(べつに特待はなにもない)、
当時はいろんな意味で余裕がなかったし、
予約の席はすぐに埋まってしまった。
でもINUAは予約開始のニュースとほぼ同時に
ちょっと余裕をもって予約をしたので大丈夫。
個人的予算も確保して、きのう(7/13)行ってきました。
トーマス・フレベルさんの出身が「noma」だということで
INUAの料理は「ニュー・ノルディック・キュイジーヌ
(新北欧料理)」なのかもしれないんだけれど、
その「noma」の創業者はスペインの「El Bulli」出身である。
El Bulli「系」(出身者)のレストランには
いくつか行ったけど(本家はついに行けずじまい)、
その体験からいうと、INUAもまたその系譜じゃないだろうか。
つまり、
「これはモダン・スパニッシュの北欧的解釈じゃないかなー」
とテーブルで言ったら、同行者たちに受けた。
みんなげらげら笑いながら、
「んもー、さすが、わけのわからないこと言うんだから!」
って、ほんとそうだよね、ふふふ。
で、どうだったのかというと、
とってもおいしかった!
ただしそのおいしさは、ことばでは表現ができない。
口に入れる、味を探す。
食感を楽しみつつ、
記憶や教養と照らし合わせる。
なにか上手な一言を言いたい気持ちよりも、
「なにがなんだかわからないけどうまい」が勝ち、
結局「四の五の言わず喰ったほうがいいぞこりゃ」となった。
すべての料理が初めて見るすがたをしていて、
料理を構成するひとつひとつの味は、
こと日本で育ったものには「おぼえがある」ものなんだけど、
その組み合わせや過程が独創的であたらしいので、
「ああ、アレね」ということはまったくない。
じぶんの経験や教養と照らし合わせての評価が、
絶対にできないし、意味がないのである。
無理にするのはかっこわるい。
目にもうつくしく、
でも見た目ではなんの料理かわからないから、
素材を聞いても「ん???」と謎かけのような状態になり、
食べてもその謎はいっこうに解けない。
「わかったような気がする」程度で、
それよりも「美味」の記憶が脳に染みる。
そうこうしているうちに目の前にあったはずの料理は
あとかたもなく胃に消えているのである。
おもしろーい。たのしー。おいしーっ。
レストランの日本人スタッフのかたが、
あまりによろこんでいたわれわれを
最後に玄関まで見送りながら
「楽しんでいただけてよかったです。
なかには、わからない、とおっしゃる
お客様もいらっしゃいますから、
こうして『おいしい』と言ってくださるのは
ほんとうにうれしいです」
と言っていた。
なるほど、これを「わからない」から
「おいしくない」という判断をするひとも、いるだろうね。
INUAの料理は食材と調味料をトーマスさんが日本中から
さがしてきたもので、旬のものばかりだという。
「素材がいいんだったら、素直にこうすりゃいいじゃないか」
みたいなことを言いたくなるのかもね。
でもねえ。
こういうレストランって、ぼくは、
一流のミュージシャンのセッション、ライブに
来ているようなものだと思うから、
「そんなこと言うの野暮だよ」と思うんである。
いま音楽のライブと書いたけど、
そういえばINUAは劇場的だ。
フロアの奥はオープンキッチンで、そこが舞台。
すべての工程がつまびらかにされているのに、
どんな物語(料理)が飛び出してくるのかわからないという
かなり凝った筋書きである。
キッチンは近くに行って見るのもウエルカム、写真もどうぞ。
スタッフは6割くらいが外国人かなあ。
そういう人は、母語ではなく英語で話す。
テーブルに担当者がいるわけではなく、
できあがった料理はいろんなスタッフが
すばやく適宜運ぶので、
料理によっては説明が英語ということもある。
こういうところも、苦手な人は苦手なんだろうな。
でもぼくらのテーブルは、
彼らのサービスが心ならずもかもしだす「旅感」に、
「なに言ってんのか全部はわからなかった」と言いつつ、
一同、きゃあきゃあ喜んじゃった。
たのしい場をつくった、
というのは、すごいことなのだ。
【2018年7月13日のメニュー】
■沖縄のスナックパインとシトラス
■皮ごと焼いた枝豆、
ヤリイカのダシとロケットの花
■味噌とバナナのクリスプバナナパイ
■赤いフルーツと蜜蝋のジュース
■湯葉に包まれた野菜の花
■熟成・燻製させたマイタケ
■丸茄子、かぼちゃの種と生クルミ
■タラバガニと豆腐
■海藻のピクルスとウニ
■バナナの葉に包んで焼いたえのきステーキ
イタリアントリュフのせ、卵黄ソース
■炊きたてのゆめぴりかと蜂の子の
土鍋ごはん、ハマナスを添えて
■豆乳のパルフェ、トウヒとさるなし
■カボチャの種と黒麦麩の餅
■コーヒー/紅茶
【2018年7月13日のアルコールペアリング】
■5 daughters Sake brew
Paradise Beer
Ikabari, Chiba
■2017 Cuvée Tamana
Kumamoto Wines
Kumamoto, Japan
■2016 Blanc du Casot
Le Casot des Mailloles
Banyuls Sur Mer, Roussillon
■Shizenshu
Niida Honke
Koriyama-shi, Fukushima
■2014 Akèminé
Sébastien Riffault
Sancerre, Loire
■2016 Syrah
Hervé Souhaut
Andéche, Rhônes
【2018年7月13日のノンアルコールペアリング】
■Barley-shochu
■Rose Kombucha
■Rhubarb
■Smoked Pepper
■Sorrel and Passion fruit
追記のように書きますと、
じつはいつもの旅のメンバーのひとりが
このレストランのプロデュースチームにいる。
そのチームには、
これまたよくごはんを食べる友人(昨日も一緒)の、
前職での上司がいるそうで、
つまりINUAは思いがけずぼくの身近なところで
秘密裏に開店準備をしていたのだった。
彼女が会社からレストランをつくる仕事を任されて
足掛け3年だという。
長いようで短いよなあ。
その期間に、あんなシェフを招聘し、
こんな愉快なレストランをつくるとは思わなかった。
彼女が、でもあるが、角川書店が、でもある。
オーナー企業ってすごいな。
これは結論ではなく、ひとりごとです。