夏の夜は足が熱い。
頭寒足熱というけれど、眠りたいときに足がぽっぽと火照っているのは
どうにも不愉快なものである。
残念ながら足が冷たくて眠れない人の気持ちは
(たぶんそのほうが多いと思うんだけれど)あんまりわからないんだけれど、
足が熱くて眠れない人には心から同情する。
二十代のときクーラーがあまりよく効かない部屋に住んでいて、
夏、足が火照って眠れなくてほんとうに困った。
うつらうつらしつつ、足が勝手に冷たい場所を探して、
当時眠っていたパイプのソファベッドの鉄のパイプ部分に
足の裏や甲を這わせていたものだ。
ちなみにソファベッドは部屋が狭かったから、
パイプベッドは当時の流行です。
病院ベッド、藁のベッドもちょっと流行りましたね。
しばらく足をくっつけていると鉄に体温が伝わるので
またもぞもぞと移動するのだが、
そもそもパイプの表面積では
足に対して接触面積が少ないわけで、
なかなか満足のゆく冷たさは得られなかった。
ある夜、やはりその日も足が勝手に動いて、
とても冷たいものを発見した。
面積も広くて、ひんやりしている。
それは両足でひょいと持ち上げられるくらいの重さで、
ぼくは眠りながらそれをベッドの上に器用に運び、
かに挟みみたいに、足の間に挟んで眠っていた。
別に怖い話じゃないですよ。
金属製のゴミ箱です。
さいわい乾いたゴミばかりだったので
ベッドはひどいことにはならなかったけれど
ゴミと眠るのはあまりうれしくないので
翌日からゴミ箱をきれいにして
夏の暑さ(足の暑さ)対策に使うようになった。
べつに最初から挟んで眠るわけではなく、
眠っているうちに自然に足がのびて、
ベッドのすぐ隣の床に置いてあるゴミ箱を器用につかんで
かに挟みをするのである。
ある日友人が遊びに来て酔っぱらって泊まっていったとき
夜中にごそごそいう音で目が覚めたところ
窓から差し込む街灯のうすあかりの下で
ぼくがゴミ箱を足で挟んで持ち上げるところを見てしまって
かなり驚いたそうである。
あとで「あれはちょっとヘンタイぽかった。
見ちゃいけない気がした」と言っていた。
これは足を冷やす専用の道具なのだと説明したが
あまりわかってもらえなかった。
いまはすっかり大人なのでそういうことはせず
タオルを重ねて麻の布をかけた
ひんやりした足枕を用意している。
(麻は熱伝導率が高いのでひんやり感じるんですよ。)
そうそう、枕を、長く使っていた低反発のものから
ダウンピロー×2、に替えた。
読書時は2コ重ねて、就寝時は1コにする。
フェザーではなくダウンなのでとても気持ちがいい。
ベッドがいい感じに沈むダブルクッションで
足下と枕がちょっと高いと、原理的には違うんだが、
寝心地がハンモックにちょっと似ている気がする。
というわけでおやすみなさい。