11番のバスに乗って
ヘルシンキ動物園へ。
「フクロウとトナカイがやたらとたくさんいる」と
柴田元幸さんが『生半可な学者』で書いておられた、
あのヘルシンキ動物園である。
まぁ、たしかにフクロウやミミズクなど猛禽類の種類は多いし、
トナカイというか、鹿のなかまも多い。
いっぽう、象はいない。キリンもいない。サイもいない。
アシカやトド、セイウチもいない。
白熊もペンギンもいない。
でもなぜかライオンやトラ、ヒョウなどのネコ科の動物は多く、
ライオン、そんな雪の中で大丈夫か?!
というくらいにがんばって、じゃれたり吠えたりしている。
リャマとかロバもいるし、
温室にはアジアやアフリカの小型動物だっていっぱいいる。
猿の種類も(小型だけですけど)あんがい多い。
聞くとフィンランドの人びとは猿が大好きだそうだ。
でもマンドリルやオランウータンはいない。
ナマケモノはいた。
それからもうひとつの花形であるクマも、
じつにサービスよく愛想をふりまいている。
クマにしてみれば冬眠したい時期だろうに苦労してるよな。
というわけで全体の印象としては
「フクロウとトナカイがやたらとたくさんいる」
というふうにはならなかったです。
そもそもトナカイは家畜化された(放し飼いですが)鹿であり、
フィンランドでは食用や毛皮など、有用な動物として
ひじょうにポピュラーなわけなので、
われわれにとっての牛のような感覚なんじゃないだろうか。
ラップランドなら森の中で群れに出会うこともあるというので
われわれ外国人観光客にとっては花形でも、
彼らにとってはわざわざ動物園に来てまで
見たい動物でもないんじゃないだろうか。
ヘルシンキ動物園に特筆すべきことがあるとすれば、
それは市内からすぐの島をまるごと動物園にしているという点だと思う。
もう4月だというのに海は凍ったままで、
四方からひゅうひゅうと冷たい風が吹いてくる。
岩でできた島は、足下からずんと重たい冷気が上ってくる。
それでも春が近いからだろうか、
氷の上にはうすく靄がたちこめ、
この動物園がまるごと
外界から遮断されたような印象を受ける。
けっこうアップダウンが激しいので
島を一周するとかなりくたびれる。
ぼくらはバスで行ったが、
夏はヘルシンキ市内から船で行くことができるそうだ。
そういうのも楽しそうですね。
それからもうひとつの印象は
「ゆるい」ということだ。
動物も、人間も、柵ごしに見つめあって
「おたがい、いろいろありますな」
と会話しているような感じ。
ここには旭山動物園のようなアイデアあふれる設備はないし
シンガポール動物園のような豪華な演出もない。
ベルリン動物園のようにクヌートがいるわけでもない。
演出といえば「スカンクのおならを嗅ぐ」という
とんでもないコーナーがあったが、
せいぜいその程度である。
それでも、なんというか、ヘルシンキ動物園には
いつのまにか人の心をちょっとだけ齧ってしまうようなところがある。
ぼくもなぜか
「あいつら、いまどうしてるかな」
と、夜中になってちょっとだけ考えたりしている。
とくにあの愛想のいいクマと、
雪の中で吠えていた雄ライオンは、
おそろしく寒い冬のフィンランドで
ちゃんと眠れているのだろうかと。
あんがいのんびり風呂につかって
ラジエーターのそばで汗をふいて
「おつかれさまっしたー」
と喋っているんじゃないかという気もする。
ということでヘルシンキ最終日。
あすは日本に向けて発ちます。