『ジャック・ドゥミの少年期』を見る。
原題は「ナントのジャコ」。
友人から薦められてDVDを買ったものの
ずっと見ていなかった一枚。
ふと、ナントってどういうとこなんだっけという
興味から見始めたんだけれど、
びっくりするくらい愛情深い映画で、
ちょっとぼーっとしちゃいました。
監督のアニエス・ヴェルダは
ジャック・ドゥミの妻。
晩年に(といっても50代。没年は59歳)
よく昔話をするようになったというジャックの、
その少年時代を映画にしたいとつくった作品。
港町ナントで小さな自動車工場の
長男に生まれたジャック、
愛称ジャコの少年時代を、
当時の様子はドラマとして、
そこからつながるジャックの作品の一部を織り交ぜ、
さらに「いまの」ジャック・ドゥミのすがたを
ほんのちょっとドキュメンタリーとして挟み込んでいる。
そのすがたをうつす視点が
ちょっと不思議だったんだけれど、
じつは映画をつくったとき、
ジャックは白血病におかされていて、
そのことをアニエスは知っていたのだそうだ。
執拗なくらいにジャックの顔や、老いた手が
画面いっぱいにうつるんだけれど、
アニエスは強く見ていたかったんだと思う。
生きているジャックを、強く強く。
ドラマ部分は、
戦争を挟んでの港町ナントで、
映画にとりつかれてしまった少年の話。
自動車工の父親からは
「夢なんか見てるんじゃない」、
でも愛情いっぱいの母親に見守られながら
自分でチャンスをつくりだしていくまでのお話。
いろんなエピソードが、どれもいいんだけど、
ひとつだけ。
手に入れたカメラで青年期のジャックが
コマ撮りのアニメーションをつくるんだけれど、
それが、とてもいい。ほんとうにいい。
職業学校に通わされているジャックには
役者を使うなんてことはできなかったので
屋根裏部屋でひたすら
アニメーションを撮るわけだけど、
ここに濃密に漂うのがディズニー的感覚。
映画のなかでジャックは『白雪姫』に感動しているし
家庭用の映写機で何度もチャップリンの
無声映画を見ている。
この、受け入れ感覚は、ジャックだけなのかというと
どうもそうでもないらしく、
ドイツ軍に占領されたナントの町を解放した米軍を
迎え入れるときの騒ぎったらなかった。
でも戦後すぐチューインガムを膨らますジャックは
とりわけ、受け入れてたんだろうなあ。
ジャック・ドゥミは、この映画の完成を待たずに
亡くなったそうです。
そう思うと、なおさら、
アニエス・ヴェルダの愛情がしみてきます。
凛々しい愛情が。