予約はえいやっと、準備はさくさくと、
なのに出発当日になると
「行きたくなーい」
「やめりゃあよかった」
などとぶつぶつ言い出すのは
なに・ブルーって言うんでしょう。
traveling alone blueとでも?
駄目な私ね。よせばいいのに。
でもまあ家を出てしまうと覚悟が決まって
成田に着く頃にはもう一人旅モードで緊張しはじめ
機中の人となるころにはもう
「いっちょまえの旅人みたいな顔」になっている。
ちょっと気取ったりして。
機中での過ごし方も、ヒースローでの乗り継ぎも、
言っちゃあなんだが我ながら堂に入ったもので、
「気取りやさんのひとり旅マニュアル」なら
一冊分くらい書けそうな気がします。
さてプラハ。
「プラハの女将(おかみ)」こと
チェコと日本を往復し15年、広いアパートメントに住む
shinoさん宅に寄せてもらい、
外食せず自炊の毎日(というか賄いつき民宿?)。
外食はおいしくなくって、
家メシはすごくおいしい。
ハムなんて、もう、ほんとに毎日食べて飽きない。
ハム、ベーコン類に、生野菜で立派なディナーです。
この「切り落とし」(落とされたほう)なんて300円くらい。
そして残った骨でとっただしでチェコ風スープをつくってもらった。
フランクフルトソーセージにじゃがいも、
パプリカにニンニク、
そしてマジョラムの香りが華やかでたいへんうまかった。
日中は、ひたすら散歩と古道具屋巡りに明け暮れました。
Redwingのアイリッシュセッター(という靴)は
石畳の街の過激な距離の散歩にもしっかりなじみ、
靴擦れおろか、マメひとつできない優れもの。
零下にならない暖冬で
(さすがにニューヨークの22度じゃないけど)
歩いてあったまると、マフラーや帽子は不要なほど。
ダウンにせずにメルトンのコートにしたのは正解。
誰も街でダウンなんて着てないもの。
ショルダーバッグをたすきがけにして、
「ほぼ日永久紙ぶくろ」を畳んでバッグに入れ、
買ったものをどんどん放り込んでいく。
目的は、骨董というより古道具。
BAZARという看板が目印。
グラスにしても、名物のボヘミアングラスではなくって、
機械でつくられた、半世紀ほどしか経ってないような、
ぽってりした厚手のゴブレットを8客、
それもデザインはばらばらに。
カトラリーは、最初にスプーン6本セット、
それに合うデザインをとフォークを探しはじめ、
2本見つけたところで、
さらにいいものを見つけちゃったのです。
それはちょっと郊外のでっかい古道具屋。
棚の最下段の奥から、僕を呼ぶ声がする。
いや、声はしてないけど、
「呼ばれた」のはほんとう。
それは48ピース(ナイフ、フォーク、スプーン、
ティースプーンが各12)のカトラリーのセット。
手に取って見てみましたらば、
あっちゃーっ! クリストフルではありませんか!
ロゴが筆記体じゃないのはそうとう古いんでしょう。
しかし骨董商というより古道具屋であるおっちゃんは
「古い」というようなことしか言わない。
女将宅にもクリストフル(活字体)の
それはそれは素敵なフォークがあって
それはスプーンを買うときに
セットだからと押し付けられるように買ったものが
大当たり、だったそうなんです。
「プラハって、そういうことがあるのよ」
これもまさしく、そうでしょう。で、幾ら?
えっ、2000コルナ? 12000円弱?
ものすごく安い‥‥おっちゃん価値わかってない‥‥
しめしめ‥‥しかも、ティースプーンの1本だけが
ぜんぜん違うものが入っていると女将発見&交渉、
200コルナ負けてくれました。
「パリでは絶対に買えない。ウイーンでも無理。
でもプラハでは、ありうるの」
ちなみにカトラリーだけで重さ5キロくらいありました。
さらに、アルパカ(銅、亜鉛、ニッケルの合金で、
洋白とも呼ばれる金属、いまはつくられてないそう)の
ティーサーバーやミルクピッチャーなどを。
ほかには、スパイス。
旧市街にあるスパイス屋さんで
パプリカ、ナツメグ、クミンなどを量り売り。
このクミンをですね、豚バラに、塩とすりこんで、
水で煮るんですよ。
自分の脂でくつくつと煮崩れるくらいまで柔らかく。
さてさて、観光らしい観光はしていないけど
旧市街から女将宅へと徒歩で戻るには必ず通るのが王宮。
丘をひとつ超える感じ。
薄暗くなっていくなか、撮った写真は
これぞプラハ、でございました。
そして外出らしい外出は、
女将の友人であるガラス作家と建築家夫妻の新しい家に
ホームパーティ‥‥の、料理係として行ったこと。
リクエストは手巻き寿司。
魚屋でサーモンとマグロとホタテにイクラを買って、
日本食材屋で米や酢、海苔を買って、
八百屋で白菜や大根を買って(漬物にした)、
こんなテーブルができました。
みなさんよろこんでくれたみたいでよかった。
そういう感じのプラハの日々。女将ありがとう。
東京に戻って、カトラリーを必死に磨く。
ハンズで買った金属磨きで
ここまでピカピカになりました。
さっそくこのスプーンでカレーを食べたけど、
たいへんうまかったです。