父アキラは腕のいい和菓子職人なのだが
義兄の戦死でたくさんの弟妹のくりあげ長男となり
しかも父親がはやくになくなってしまったものだから
早稲田に行って田舎の分校の教師になりたいという夢を諦め
「松風堂」を継いだのだった。
いやいややっていたわりに、
ものすごくセンスがよかったので
そりゃあもう繊細かつうまい和菓子をつくったんだけど
家を貸しビルにするタイミングで廃業、
そのあとは大きな地元の和菓子メーカー
(安倍川もちといえばあそこ、というような)で
指導みたいなことをバイトでしたほかは
もうまったく商売として和菓子をつくっていない。
けど、リクエストするとつくってくれるので
「栗の季節だねえ」と母に電話をして
栗蒸し羊羹をつくってもらいました。
いやはやこれがうまいのなんの。
これで育ってるから当たり前なんだけど、ぼくの好みの味。
父のメモがついてました。
「むし羊羹は普通の味に出来た
造った人間がなつかしく味をみた
これは旨い 塩加減があり
元アンの出来(製アン所)にもあるのだ・・・
故 親父の味が出せたと思った」
なるほど。
いっしょに「ウィロー」も送ってくれた。
名古屋のういろうとちがいます。
中国風の蒸しパン、とでもいいましょうか、
ねっとり感のあるシフォンケーキといいましょうか。
どのみち渡来菓子なんでしょうね。
これにもメモがついていた。
「ウィロー(中国人がキィロ、と言ったのを
ウィロー? 英語イエローが・・・)
上手く蒸れるとキレイな黄色に出来上るが
家庭用のでは仲々出来なくて、
フクラシ粉も特殊なので
大分古くなってる
戦後S20年代より静岡では家と
親父の弟子の本通りの末廣菓子店
(今はサビレたけど)しか造ってない
玄米パン等と言った人もあるが
俺は玄米パン知らない
『ウィローには
牛乳がよく似合う』」
こちらもたいへん旨かった。
そんな息子40歳の朝食は
焼きリンゴにウィローにホイップクリームでした。
無糖のホイップクリームっておいしいよね。