本を読みながらベッドに入ったら眠ってしまい、
目が覚めたら朝の6時。まだ外はまっくら。
10時間も寝てたのかー。
ベッドがかわり枕もちがうからちょっと首が痛いなあ。
だからどうも疲れがとれない気がしてまだ眠いです。
とはいうものの腹は減った。
ちょっと野菜不足な気がするので、
きのう買ってきたにんじんを洗って切ってみる。
ぽりぽり。‥‥うまい。あまい。くせがない。新鮮。
それにトマトとオレンジを和えて、
オリーブオイルとレモン汁と塩・こしょうをしてサラダに。
ぎゃあ、さらにうまい。
圧力鍋があったのでじゃがいもを蒸して、
バターと生ハムをのせてみる。
‥‥ああうまい。うまいよう。
よわったなあ、調理いらずじゃない?
(まあべつに凝ったものをつくるつもりもないんですけど。)
部屋の中にコネクションドアがあり
もちろん閉まっているんだけれど
そこから隣室の音が漏れる。
年配の人々(3人かな)が早朝からおしゃべりしているのです。
フランス語はそのレベルになるともうさっぱりわからないので
BGMのようなものでかまわないんだけど、
ということはこちらの音も漏れているってことですね。
大声で歌を歌わないようにしよう。
モノマネの練習もしないようにしよう。
ひとりっこはこういうときにうっかり迷惑をかけがちですよ。
さて! 私は落ち込んでいたのである。
現地解散して、ばらばらになったのはいい。いいのだが、
これまでだったら「それぞれの帰路」に就いたところだ。
しかし今回はひとりが帰路(しかも東京ではなく故郷へ!)、
ひとりはロンドンへ友達に会いに、
そしてぼくはバイヨンヌへひとり、という旅程だった。
仲間がいなくなって、ひとりになっただけでも不安、
というか、不安とはちょっとちがうんだよな、
「ロス」に近い感覚に襲われてしまった。
おもしろいものを見ると
「ねえねえ、アレさ‥‥」と話しかけてしまう発想の癖や、
腹が減ったと思えば「おなかすかない?」とか
「何食べたい?」というような問いかけをすることが、
すっかり染みついていたので、
「頭の中が空振りしっぱなし」なのだ。
つまり「ともだちロス」である。
旅は道連れってよく言ったものだよなあ。
When shared, joy is doubled and sorrow halved.
で。
そんな精神状態で旅が続くのだとしたら、
しょうじき、きついと思った。
最初っからひとり旅であったり、
ひとり旅の途中からともだちと合流するなら
きっと大丈夫なんだけれど、
「現地解散してひとりになる」というのは
けっこうな覚悟が要ることだったのだ。
旅慣れている。
そう自分を過大評価していましたよ。
でも、そもそも、
「旅慣れている」って言葉、おかしくないかー。
慣れないから旅なんだよー!!!
旅慣れるっていう動詞は使用禁止!!
旅慣れているっていう形容詞も使用禁止!
そうだよ、慣れないから旅なんだ。
と、いま、ちょっとでかい声で言えるようになったのは、
落ち込みから回復したからです。
今朝までは、とっとと旅程を変更して、
せめて都会のパリに行くかと思っていたんだけど
(あそこはやったら忙しいので、寂しくなるヒマがない)、
「エールフランスのチケット変更50ユーロ追加」とか、
「預け入れ手荷物2コという申し込みは
エージェントに再度確認してください」とか、
パリのホテルはやったら高いこととか、
そもそもここのホテルをキャンセルしても
お金戻ってこないんじゃないかなとか、
そういうケチで怠慢なことを考えていたら面倒になり、
この街をぶらぶら歩いているうちに、
だんだん、感覚がつかめてきた。
肉屋に入ったりマルシェに行ったりして
半ば趣味の「自炊用食材」を買い、
さらにこの数日の滞在で必要になりそうなもの、
食器洗浄機の洗剤とか、キッチンペーパーとか、
ペーパーナプキンなど、宿の備品だけじゃ足りないものを
スーパーで(MONOPRIXがあった! 便利ぃ!)買って、
それを運び込んでいるうちに、
この部屋が、だんだん自分ぽくなってくる。
現金なもので、そうなると楽しくなってくるのでした。
午前中はまずバスク博物館へ。
ビスケー湾につながるニーヴ川をはさんで、
サント=マリー大聖堂、そして
今回の宿があるのが大バイヨンヌ(GRAND BAYONNE)、
上の地図だと左上ですね。
そして向こう岸に小バイヨンヌ(PETIT BAYONNE)、
これが左下。
さらにもうひとつアドゥール川を渡った先は
サンテスプリ(SAINT ESPRIT)地区。右側です。
博物館は小バイヨンヌのニーヴ川岸にあります。
バスクの歴史は、
スペイン側にもいくつか博物館があるので
ざっくり知っているんだけれど、
ここの博物館はけっこう広くて(3フロア)展示品も多い。
触ったり嗅いだり聞いたりできるコーナーがあったりして、
きちんと「実感」をともなう博物館だと思う。
絵や写真も多い。
あんまり笑顔という印象のないバスク人だけど
(絵や写真のなかの彼らがわりとしかめっ面なんですよね)、
祝祭の日にみんなで踊ったり歌ったりしているのを見ると、
「あんまり笑わないみたいだけど、けっこう楽しいんだな」
という印象になってくる。
そもそもこれだけうまいものがある国で、
(バスク=国、ということで)
あんなにストイックな表情になるのが不思議なんだけど。
それからずいぶんと平和な印象がある。
平和というのは争いごとが少ないという意味だけじゃなくて、
なんていうのかな、「悪霊」とか「惨劇」とか、
あるいは「溺れるほどの官能」とか、
そういうことにあまり縁のない人々のように見える。
とても現実的な人々という印象なのだ。
もともとの土着の部分において、
わりと淡々と、まじめに暮らしてきた人々なんだと思う。
あとスポーツの絵がやたら多いなあ。
こんなにおいしいものばっかりなのにやっぱり不思議だ。
ごはんの絵はないのか。ないみたい。
博物館では企画展もやっていて、
ちょうど今はCharles Frégerという写真家の
"LA SUITE BASQUE"という展覧会だった。
ベルギー生まれだからフランス語読みで
シャルル・フレジェになるのかな。
英語読みならチャールズ・フレガー?
ポートレートと衣装を得意とするひとで、
今回の手法は"SILHOUETTES PHOTOGRAPHIQUES"というもの。
影絵のようでいて、じつは影絵ではなく、
よーく見ると、人物だけが
超アンダーになっているのでそう見えるのです。
バスクの民族衣装のシルエットや、
ピカソのゲルニカを解体して独りずつシルエットにしたものとか、
とってもおもしろかったなあ。
プリントがほしいと思いました。飾りたい。
バスク博物館からさらに歩いていると、
よさそうな肉屋を見つけた。
あまり混んでなかったので入ってみる。
肉、食べたい。
「ステーキにしたいんだけど、どれがいいかなあ」
と訊いて、選んでもらったのは
"Plat de tranche grasse"という赤身。
調べたら後ろ脚の付け根の、前の方みたいです。
ちょっと薄めに切ってもらった。
これは今晩焼こうと思います。
ケーキ屋さんもあった。
試しに勝ってみたのは、
チーズケーキと、チョコレートチーズケーキ。
おやつ用。
マルシェの八百屋さんで、青野菜。
このマルシェ、規模はそれほどでもないけど
肉、加工肉、魚、チーズ、野菜、それから総菜、
ひととおりのものがそろいます。
そういえばマルシェの前の広場で
ブロカント(蚤の市)やってました。
一瞬「きゃあ」と思ったけど、
いなか町のガラクタ市。
調理器具を探したけど、ぐっとくるものはなかったです。
好きなカトラリーも、まぁいいかというところ。
でもパリに比べたらすごく安いです。
そうそう、ピモンデスペレット。
フランス側に来たらこれ買わなくちゃね。
どの店も、とても愛想がよくて、
観光地だからかな、英語もすこし通じる。
「どこからきたの?」
「仕事は何?」
「いつまでいるの?」
などなど、短い時間でちょこちょこ訊いてくれてうれしい。
仕事は編集者だよと言ったら
「レシピでしょ」と言われた。
なぜわかる?
(そういえば、スペインの三つ星のARZAKで
「料理人? でなけりゃ料理関係者?」と言われたけど、
うん、関係はしていますね。
そういう顔とかムードってあるのかちら。
ARZAKではややこしいことになりそうなので
むにゃむにゃごまかしちゃったけど。)
さてここまで買って、いったん帰宅。
昼食にしました。
スパゲッティだー。
ピモンデスペレットを使ったペペロンチーノだー。
ちいさめに切ったブロッコリを
スパゲッティのゆで汁で茹でていっしょに和える。
バイヨンヌの生ハムは、食べやすい大きさに
手でちぎってのせました。
仕上げにバスクのチーズをすりおろしたものと、
もいちどピモンデスペレット。でけた。
ぎゃー。うまいー。まずいわけがないー。
今朝だったら、共感するともだちがいないとおいしくないとか、
めそめそしていたところだけど、
そんなことはきれいさっぱり忘れて
ガツガツ食べてしまいました。
げふー。
こっちの人スパゲッティあんまり食べないだろうから
食べさせたいなー。おいしいよー。
食べ終わってちょっと眠かったけど、
日用品が足りないので買い出しついでに、
インフォメーションセンターで
ビアリッツ空港往きのバスについて訊いたり、
もしかしたら日帰りで行くかもしれない
ほかの街へのバスの便について調べたりするので外出。
途中でサント=マリー大聖堂を見学。
ヨーロッパってこのクラスの聖堂が
こんな大きくない町にもあるんだからすごいですよね。
町をぶらぶら。
スペイン側から来ると、
「かわいい店が多いなあ」という印象。
とくに色づかいが、バスク的で、
スペインよりもはっきりと「色で主張」している。
ざっくりした印象だけど、
スペイン側のバスクは「ますらお」で
フランス側のバスクは「たおやめ」なのかも。
あくまでも表面的な印象ですよ。
本質はわからない。
人々の服装は、フランスはやっぱりフランスですね、
スペインよりもずいぶん洗練されているように思う。
自分の肌に合うのはスペイン側だといまは感じるけれど、
あと数日いるうちにまた感想も変わるかもしれません。
そして食材店(生ハムとチーズ)と
チョコレートショップが多い。
どちらも名物だからねえ。
キッチン用品店で「サラミ切り機」を買いそうになった。
いらんがな。あぶないあぶない。
移動遊園地があるのもヨーロッパ的。
著作権についてはずいぶん甘いが、
スペイン側よりは、ちょっとだけ気を遣っている感じ。
ダメはダメだけど、ほら、スペインは
「DISNEY WORLD」って看板立ててたからね!
観光案内所でバスについて教えてもらう。
20分置きにCのバスで行けば大丈夫だと。
UBERでもいいけど、安いほうがいいので
またがんばって石畳をゴロゴロ転がそう。
そしてこの観光案内所のストアでみつけて
いいなあと思っていた、バイヨンヌ祭の復刻ポスター。
買っちゃいました。
夕方からは部屋で過ごす。
写真を整理したりこれを書いたり。
そして夕飯だー! 焼くぞー!
‥‥の前にサラダをつくる。
焼く。
ハロゲン電熱でフライパンもボコボコなので
温度が上がらない〜。強火にならない〜。
それでもなんとか焼き上がりました。
塩をした肉を、にんにく、オリーブオイル、バターで焼き、
黒胡椒をたっぷりかけてます。
うむ。
そしてデザートはバスクのチーズ。いまここです。
さあ明日はどうしようかな。