昨日の「売春のイメージ」展があまりにすさまじく、
まだ、ほかの展覧会に行く気にならない。
大好きなポンピドーも、まぁいっか、という感じだ。
朝風呂に入ってあたたまったのち、
暗いうちに出かけ、
近所のおいしいパン屋である
Boulangerie Aux Castelblangeoisで
クロワッサンとサンドイッチを購入。
サンドイッチはとっておくことにして、
クロワッサンにサラダ、
残り物の牛肉の煮物で朝食にする。
宿にあるコーヒーはちっともおいしくないので、
シチリアで買ってきたビアレッティのモカエキスプレス
(直火式エスプレッソメーカーのことです)で
エスプレッソを淹れる。
やっぱりおいしい。すごく。
ちなみにこのマキネッタ、パリでは高いですよ。
シチリアで買ってきてよかった。
そしてBoulangerie Aux Castelblangeoisのクロワッサンは
ずしりとしていてたいへんおいしい。
でも半分くらいバターだよな、これ。
せっかくパリにいるので、出かけることにする。
天気もいい。そうだ買い物に行こう。
宿は1号線沿いなので、Hôtel de Ville駅まで1本。
地下鉄出口が直結しているBHVを目的地にする。
BHV(べー・アッシュ・べー)は
わりと庶民的なデパートなのだけれど、
半年ぶりに訪れてみたら、
ずいぶんと高級デパート化が進行していた。
(この頃よりずっと。)
といってもそんなにたいしたことはない、
びびらなくっても大丈夫。
まず地下のDIYフロアをぐるっとまわってから
(ここででっかい工具箱とかほしくなってしまうのだが、
それはさすがにあきらめました)、
3階の文具と本のフロアへ。
ここは、LoFT‥‥というより東急ハンズかな。
ここでおみやげを探すことにする。
おみやげ。
そういえばいままで海外旅行で
誰かのためにおみやげを買ったことなどなかったなあ。
いや、まったくないわけじゃないけど、
こんなふうにそれを目的に買い物に行くのは
すごく珍しいかもしれない。
とはいうものの、じぶんで使う用の雑貨を選び、
それを半分こにする予定なので、
「さあおみやげを選ぶぞ!」という感じでもないです。
いつものように買い物をすればよい。
しかしながらBHVは品揃えが多く、
見れば見るほど迷う!
そしていろんなことが東京のようにはいかない。
どこに何があるのかわかりにくくて迷路みたいだし
(そういう意味では伊勢丹新宿店のようですね)、
やっと決めてレジに持っていくとおねえさんに
「これ、バーコードが読み取れないんだけど、
このフロアのものかしら?」などと言われたりして、
やけに手間取ったりもする。
苛々はしませんよ、東京じゃないからね。
でもパリの人、ほんとうに愛想がよくなったね。
こういうときにいやな思いをしたことがないです。
続いて家庭用品フロアの4階へ。
いやはやここもずいぶん進化してるなあ!
もちろんボン・マルシェとはぜんぜん違うけど、
お手ごろ感と、ほどほどの品質感がちょうどよくって、
見ているだけでもけっこう楽しい。
家庭用品でいえば、クリストフルはないけど、
モヴィエルもあるしストウブも置かれているという感じ。
家電が充実しているのも楽しい。買わないけどね。
食材も増えていて、紅茶とか
チョコレートのコーナーもあったし、
トリュフ専門のちいさなレストランとかもできていた。
それにしても調理道具好きには危険なフロアである。
Malle w. Trousseauのスパイスミルで、
すごーくいいのを見つけちゃったのです。
底がギザギザになっている
大小ふたつのコップを重ねたようなかたちの、
つまり原理的には石臼(碾き臼)の、鋳鉄製ミル。
画像ないかな。あ、あったあった。
これならおそらくそんなに力を入れずにスパイスが挽ける。
しかもスパイスが飛び散らない。
これは、これまで探しつづけてきたスパイスミルの
「理想形」といっていい。
しかしこの非常に簡素なかたちのミルが62ユーロもする。
うーん、たっかいなー。やめようかな。
と、いちどあきらめて、フロアをうろうろしていたのだが、
やはりこれは買わないと後悔するような気がして、
思い切ってレジへ持っていきました。
ああ、重い。すっごく重い。
グラム換算したら安いのか。そういうことではないか。
自分用に料理本も買う。
おお、Christian Etchebestさんの新刊!
ちなみに本は3Fに一般書店並みのでっかいコーナーがあり、
4Fには料理の「いま」の本が並んでいる。
ほかにもいくつかほしい本を見つけたけど、
フランスのハードカバーは重い! 重すぎる!
またの機会にしましょう。また来るだろうし。
いつも同じことを言うけど、こうして思いを残し、
「また来ればいいや」と思っていると、
また来れたりするようになるものです。
ひとつ探していたものがあるんだけれど、
ついに見つけられず。
それは冷蔵庫に入れる、シリコン製のワインホルダー。
ホルダーというか、平たくて波状になっていて、
横にしたボトルが動かないようにする
敷きもののようなやつです。
宿の冷蔵庫にあって、
いいなあと思ったので探したんだけど、
うまく見つけられなかったなあ。
歩き回ってくたびれたので5Fの食堂で休憩。
カフェテリアスタイルで、ドリンクだけでもいいし、
サラダ、グリル、パスタやピザなどがあって、
選びようによってはフルコースだって食べられる。
ちゃんと調理をしているみたいで、
そんなにまずくなさそうです。
おばあさんが、ゆで卵、にんじんのサラダ、
そしてなにかのグリルとポムフリットを
むしゃむしゃ食べている横で、
ぼくは家にサンドイッチがあるので食事はせず、
コカコーラ・ゼロを飲む。
どこで飲んでもこれはおいしい。
むこうの席でおじさんがスパゲッティを
フォークとナイフで器用に食べているのを見る。
切り刻んではいなかったけどね。
遅めの昼というか早めの夕飯というか、
宿に戻ってサンドイッチを食べることにする。
ツナとアンチョビとゆで卵のサンドイッチと、
ハムとチーズのサンドイッチ。
どちらもたいへんおいしい。
毎日食べても飽きなさそう。
でもこのレベルを東京で再現すると
えらく金がかかっちゃうんだよね。
外はしょぼしょぼと雨が降り出した。
といっても歩けない感じではないので
最後の夜でもあるし、ぶらりと出かけることにする。
すぐ近所に「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」があるのだ。
ルイ・ヴィトン財団による現代アートの美術館です。
いつも混んでいるようだけれど
閉館間際のこの時間なら大丈夫だろうと出かける。
うむ、待たずに入れました。
やっていたのは「Pop & Musique」という企画展。
音楽を軸にしたポップアート。
前回の所蔵名作展もそうだったけど、
ここの展示はひじょうに感覚的で、
解説があんまりない。
感じていただければ結構、という印象だ。
やけに係員が多く、みんなびしっと
(ルイ・ヴィトンで?)決めているのを見ると、
キュレーションの妙というよりも
財団の財力を感じちゃうけれど、
体感系の音響現代アート、たのしかったです。
あんまり考えなくていいから脳が疲れません。
ブックショップで、ちょっと面白いものを発見。
これもおみやげにしよう。
ふたたびしょぼしょぼと雨の降る中を、
傘もささずに(てか、持ってない)帰ってきました。
暗い児童公園を通ってきたんだけれど、
クリスマスのイルミネーション(まだある)と
園内に流れる賛美歌が、
なんとも‥‥不気味。
そんななか雨に打たれ独り歩いていると、
理由もなく寂しい気持ちになっちゃった。
旅の終わりにセンチメンタルになるのも、
いいんじゃなーい? ってことで。
近くのMONOPRIX(モノプリ)というスーパーに行き、
自分用のおみやげのニベアメン(まあ日本にもあるんだけど)などを購入。
ビールとつまみを買ってもどり、
けっこうへべれけになるまで飲む。
酔っているのは自分だけですが。
旅の仲間が、ふと、
「こういうかたちの旅は、これが最後かもしれないねえ」
という話をする。
前にもそういう話になったことがあるんだけど、
今回はぼくもわりとすんなりそう思った。
それは旅をしなくなるということではなく、
旅のスタイルが変わってゆく予感がする、ということだ。
次の旅はまだ決めていない。
誰と行くのかも、どこへ行くのかも。
ひとりかもしれないし、
ふるいともだちかもしれないし、
あたらしい誰かかもしれない。
誰と行くにせよ、
にくめない、愛すべき相手であってほしい。
焦って決めることもない。
強い引力がはたらくのを待てばいい。
旅の守護聖人クリストフォロスが、
きっと行き先を示してくれるだろう。
(でもまあ、パリには戻ってきます!)
今回、たっぷりあったひとりの時間が、貴重だったなあ。
このために旅に出ているようなものだ。
考え事をいっぱいした。たくさん思った。
言葉にならないようなことばかりを。
ふと頭をよぎるのは、
もう会えないともだちの顔だった。
前にもここに書いた覚えがあるけれど、
故郷の親友を病気で亡くしたときのこととかね。
彼はぼくにとって、道のちょっと先で
「おーい、こっちだぞー!
武井はこっちに行くと面白いぞー」
と言ってくれるようなやつだった。
それは思いもかけない方向だったりするのだけれど
その道の先を見てみると、
ぼくにはちょっとだけ光るなにかが見える。
あんなところに光が! 気がつかなかったなあ。
「だよなー。
おれには見えないんだけど、
たぶんそうだろうと思って」
というような感じで、
いつもぼくの前を歩いていた。
いまだに思う。
おいおい、どうすりゃいいんだよー、と、
でもどうしようもない。仕方がない。
ぼくらの歩く道には何かの意味がある。
そう思って進むしかない。